武術大会(2日目)

 剣術大会は演武から始まった。奈良の柳生と、京の吉岡から武芸者を派遣してもらっていた。チュートリアルのときにつないだコネを活用した形である。

 柳生のコネで宝蔵院の武芸者も来てくれた。10人の槍持ちの武芸者が一糸乱れぬ動きで型を披露する姿はなかなかに迫力があった。

 さらにエキシビジョンとして向こうの武芸者と戦わせてみたら……利家はあっさりひねられてしまい、技術習得が課題となった。平八郎もいいところまで行ったが、一瞬のスキを突かれて敗れた。


「宝蔵院おそるべし」

「や、まともに白兵戦しなきゃいい話ですよね?」

「身もふたもないの」

「どんな弱兵でも勝てるようにするのが上の役割にございます」

「……至言であるな」


 裏で宝蔵院の連中も尾張の武者の力に驚いていたのはカットシーンで見たからな。利家もあえなく負けたようで、最初の突きを受けることができたのは半ばまぐれだったらしい。


 武芸者たちが刀を振るう。型稽古もなかなかに見ごたえがあった。柳生の組み打ちは刀を失ったときの徒手格闘術だ。俺も学んだ。


「ふむ、武芸指南としてあやつらを雇うか」

「彼らの目的もそこでしょうな」

「であるか。侍どもの武術の底上げをすることに損は無かろうな」


 刀術と言ってもこの時代は介者剣術というやつだ。

 甲冑武者の鎧の上から斬りつけても効果は薄い。もちろん鉄の棒で殴りつけるのでまともに当たれば相応の打撃はある。致命傷を与えるには鎧の隙間を狙って突く。もしくは足元を狙って転ばせ、その上で刺す。さらに言うなら白兵戦で実は死者はそれほど出ない。死者で一番多いのは矢傷である。戦死者が最も多い場面は、陣が崩壊し、敗走した場面での追撃戦だ。


 というわけで、戦場のメインウェポンは最初に弓、ついで槍である。刀は武士の魂とか言う思想は江戸時代以降らしい。

 閑話休題。なので目の前の試合は総合格闘術のように、刀を失っても相手を締め落とせば勝ちみたいな戦いが繰り広げられている。

 お互いに刀を失い、殴り合いが始まっていた。顔面を狙って繰り出された拳を受け止め、そのまま投げ飛ばす。なかなかに迫力のある戦いであった。


「天田殿、出番です」

「へ?」

 キョトンとする俺の横で殿が笑いをこらえている。

「貴様もたまには腕前を見せておけ。なまるぞ」

「……承知いたしました」


 トーナメントに俺の名前がなかったので油断していたが、どうやらエキシビジョンがサプライズで組まれていたらしい。


「那古野城代の天田殿がここで参戦だああああああああああ!」

 実況の侍がやたら慣れた様子で絶叫する。プロレスかよ。まあ娯楽って意味じゃ似たようなものか。


「対戦相手は……おっと吉岡道場の師範代がここで参戦だ!」

 おいおいまじかよ。モブとはいえ武術レベル5のつわものじゃねえか。


「天田殿、貴殿がどれほど腕をあげたか見せてもらおう」

「師範代、胸をお借りします」


「天田殿は浪人時代、吉岡道場で武芸の腕を磨いていたそうです。師を超えることができるのか! 注目の一戦です!」

「わあああああああああああああああああああああああ!!!」

 なんかやたら盛り上がってるな。


『クエスト。過去の自分を越えよ』

・師範代を倒せ


・報酬:刀をもらえる 武名アップ


 クエストが出るってことは負けイベントではないってことか。……んじゃやってみましょうかね。ちなみに修業時代はコテンパンにやられてた。


 ……んん? 武力が少し上がってるのと、戦場で上がった武術スキルで前ほどの絶望感がない。これが成長したってことか。


「うぬっ!」

 構えただけで相手が少し怯んだ。ん? なんか画面上の方に気力ゲージが現れた。一本の線を互いの色に塗りつぶすような感じだ。相手が怯んだことで少しこっちが押し込んでいるようだ。


「先手必勝!」

 とはいえども、相手の方が格上、大振りは当たらんと思っていい。崩しを仕掛けるように小さく細かく、連続して攻撃を繰り出す。


「むむむ」

 防戦一方になる師範代。気力ゲージも徐々に押し込んでいる。これを押し切れば勝ちってやつかね?

 よし、このまま押し切る。そう思っていると……。


「でえい!」

 カウンター喰らいました。ガードには成功したけど、押し込んでいた気力がイーブンに。

 ただ、相手の体力は相応に削れたのでこっちはやや優勢という感じか。


「はあっ!」

 体力を削られている自覚があったのか、やや大振りで斬り込んでくる。カウンターチャンス。

 ぴかっと相手の木刀が一瞬光る。そこにタイミングを合わせてカウンター攻撃を繰り出す。成功!

 体勢を崩してガードブレイク状態になった。


「そこっ!」

 うまく攻撃がヒット。まともに喰らって体力が一気に減る。

「まいった!」

 まいった入りました。

「おーっと、逆転され追い込まれた天田殿の見事な斬り返し! 天田殿の勝利だ!」


 ふいい、何とか勝てたか。

「見事!」

 殿が天晴と書かれた扇子を広げている。芸が細かいな。

 あと師範代をうちの武術師範として雇うことになった。結構給料高かったがうちの兵の練度が上がるので、いい買い物だったと思う。


 刀術大会と言いつつ実は総合格闘術大会は、よくわからん状況のまま幕を閉じた。そういえばだれが勝ったんだろう……?

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