参陣と献策
「槍隊、構え!」
「「おう!」」
俺たちは合戦稽古を重ねている。元から引き連れてきた兵と、村人から募った兵だ。
村のパラメータは大きく上昇している。
村:レベル4
忠誠度:95/100
発展度:92/100
開墾度:78/100
人口:1200/1500
兵力:180/250(槍隊120 弓隊60)
訓練度:80/100
村長:権兵衛
統率:64(+44)
武力:65(+45)
政治:67(+47)
知略:60(+40)
俺の能力が村長に加算されるので、村長の能力もいっぱしの武士になれそうだ。
「みんなー、がんばれー!」
日吉が声を涸らして応援している。その声にこたえて兵たちの気合が高まる。
「うてーい!」
弓衆の頭が命を下すと、一斉に引き絞られていた弦が解き放たれる。
一糸乱れぬとは言えないが、的周辺に矢がしっかりと集まっている。
「ふむ、見事なる兵ではないか」
村はずれで訓練している俺たちのもとに権六様がやってきた。
「柴田様とは他人行儀じゃ。権六でよい」
「いや、しかし……」
「儂が良いというておる。上役の言うことは素直に聞くがよい」「
「はっ」
かしこまって頷く俺に権六殿はカッカッカと高笑いを上げる。
そうして、兵に腹いっぱい飯を食わせよと、米俵を置いて行った。
「柴田様からの褒美だ! みんな、腹いっぱい食え!」
「家族を連れてきてもよいぞ!」
頭役のあげる声に兵たちが沸き立つ。兵の練度と士気が大いに上がった。
そしてついに来るべき日が来た。
「陣触れじゃ。兵を率い砦に参集せよ!」
カンカンカンと打ち鳴らされる鐘の音はこちらの村にも聞こえていた。
使い番が走り回り、兵たちはこれまでの訓練と同じように武装と腰兵糧を整えて村はずれの広場に集まる。
「留守居は権兵衛に任す。頼むぞ」
「おう、お任せあれ!」
ガハハと豪傑笑いをしながらドンと胸を叩く姿は頼もしさがあった。
「天田衆、出る!」
「……お気をつけて、ご武運を」
智がお守りの袋を手渡してきた。その様子に周りの兵からはやし立てるような声が上がる。
「……必ず君のもとに帰ってくるさ」
「はい、お待ちしています」
日吉がぎゅっとこぶしを握り締めてこちらをにらみつけるような眼差しで立っていた。
「殿様、俺、早く大きくなるから。いくさで役に立てるようになるから!」
「ああ、楽しみにしている。母上をしっかりと守るのだぞ。小竹、日吉を助けてやってくれな」
こくりと何かを決意した目でうなずく姿は、もはや子供と言えないほどの鋭さがあった。
や―NPCとは思えないな。今時の技術すごいね。
「尾張で変事があった。犬山の十郎左衛門(織田信清)が謀反を起こしたそうじゃ」
「なるほど」
「背後は安祥の信広様がお守りくださるゆえ安心せよ」
「はい」
柴田衆500はそのまま北上し、那古野城に入った。
「おう、権六。参陣大儀じゃ!」
「はっ、十郎左衛門は早まりましたな」
「……信康のことはすまぬと思うておるがな。逆にそれゆえに犬山を任せたのだが」
「殿の御心が分からぬ者に、それ以上気をかける事ありませぬ」
「うむ……それはそうと、じゃ」
権六様と話していた大殿がくるりとこちらを振り向いた。
「天田よ、おぬしの手際見事だのう。村一つを半年余りであれほど栄えさせるとは」
「いえ、村人たちが助けてくれたのです」
「ふん、おためごかしは良い。なにをやった?」
そこでいくつかのコツのようなものを伝えた。
「まずは俺はよそ者です。だからまず村人と仲良くなることから始めました」
「ほう」
「幸いにして津島の市での人助けのうわさが広まっておりまして、それで信頼を得ることができました」
「なるほどな。しかしあの収穫は何事かと思うたぞ」
「それは……後程報告しようかと思っておりましたが」
塩水選から苗作り、田植えのやり方などを説明した。けげんな顔を数度されたが戦乱のうちに失われた古式のやり方とごまかしつつ話を続ける。
「これで同じ田から前年の3割増しの収量となりました」
「なにっ!?」
隣に控えていた祐筆の村井殿や武井殿も目を見開いている。
「天田よ。貴様の功、ただの足軽というわけには行かぬ。いくさでの働きに寄るが代官ではなく正式に所領を与えることとなろう」
「ははっ!」
「それでの。他に何かあるのではないか……?」
「へっ!?」
「くっくっく、ほかの地より兵が集うまでまだ1~2日あろう。その間に洗いざらい吐いてもらおうかの」
「いやああああああああああああああ!!!」
「心配するでないわ。儂は優しいからのう!」
襟首を引っ張られて那古野城の居館に引きずられていく俺を見て、兵たちがひそひそと話し合っている。
違う、俺に衆道趣味はないんだ。ちがうんだああああああああああああああああ!
「ほう、目安箱とな」
「はい。ただ命に従えと言っても利がなくば人は動きませぬ」
「なるほどな。道理である」
「ただ、こちらが相手のためと思って何かをしてもそれが相手の利につながらなければ意味がありません。場合によっては余計なことをするなと反感を買うでしょう」
「うむ、耳が痛いの」
「無論、すべての要望を叶えることは難しいこと。しかし、彼らの利のために俺が働いていると理解してもらえれば、手を貸してもらう機会も増えるということですな。あとは良い考えを出した者には褒美も出しております」
「うむ、当家の領内でも採用するとしよう。して天田よ」
「はっ」
「目安箱の政策の具申、見事である。当座の褒美としてこの脇差を与える」
「ははっ、ありがとうございます!」
褒美としていただいた脇差を早速装備する。
品質が高い武具を装備したことで武力が上がった。
那古野の城には重臣たちの軍勢が続々と集まってくる。佐久間、林、平手ら歴々の将たちだ。俺の所属する柴田衆は大殿直属の先駆け隊として動く。
那古野城の広間に主だった将が集められた。
大殿の隣にいる若武者が嫡男の三郎信長様で、戦国武将で最も有名な人物だろう。部将として一隊を率いるのが佐久間信盛、林秀貞、平手政秀らの家老たちだ。それぞれに土豪を従え、大きな力を持つ。
「うむ、みな良き面構えだのう。此度は三郎も出陣する。みな、励むがよい」
「我も初陣となった。みな、よろしく頼む」
傾いたいでたちでうつけの若殿と言われているはずだが……見た目は普通だった。いや、それ以外にも何やらオーラみたいなものは感じるが。
「三郎が手勢は本陣備えとする。介添えは平手に頼む」
「ははっ」
平手殿は若殿の付家老だから当然の配置だ。
「先手は柴田、右備えは佐久間、左備えは林じゃ」
「「ははっ!」」
「されば出陣じゃ!」
大殿の宣言に皆が兵たちのもとへ急ぐ。
「天田、行くぞ。我らは先駆けゆえ真っ先に出立せねばならぬ」
「はい!」
「柴田衆出る!」
「「おおおおおおお!!」」
権六殿の激に応えて声を上げる。船頭の騎馬武者が駆け出し、そのあとに続いて兵たちが歩き出す。
那古野の民衆は歓呼の声を上げて兵たちを見送っていた。
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