第58話 出発
―――【翌朝】
普段の朝に弱いライトはベッドから起きるとフラフラになりながら支度を済ませる…という流れの日常になっていたが、この日は特別で早起きをし準備をしていた。
ライト 「昨日買ったマジックバッグはやっぱり便利だな!それに、新しい服も何着か買ってもらったし…今着ている服も良いな!へへっ」
ライトは荷物を収納した後、小さな鏡に自分の姿を色々な角度で映し眺めながら満足気に笑っていた。
ライト 「しかも、あの後はネイリーの別荘にビリーさんとマーラさんに連れられて『身体や髪を念入りに洗って欲しい』…って言われて身体も髪も洗ったけど良い匂いだな」
普段は石鹸で自分自身の身体や髪を洗うが、雑な性格のライトは髪は少々ボサボサで服もシワシワを着てたりと綺麗…とは思えない程だった。しかし、昨日はネイリーに仕える護衛隊長のビリーと侍女のマーラにより外見は良い所に住んでいる人であろう…と思う程に綺麗になった。
ライト 「リリアも良いとこのお嬢様…みたいな外見になってたな。後は忘れ物ないかな~」
ライトは鏡で自分の姿を映すのをやめ、再び旅に出かける準備をし始める。何せ今日から今まで育っていた国であるサファイアローメン国からついに他国へと旅に出かけるのだ。ライトはしばらくの間、住んでいた家には長期間戻ってこれないであろうと考え、あちらこちらと家の中を移動しながら念入りに支度をする。
しかし、家の中を念入りに大切な物は無いか…と探した所で物をそこまで所持していなかったのでライトは集合時間帯になるまで椅子に座りながら両親と過ごした日々を思い返していた。
ライト 「父さんはよく剣の稽古をしてくれたけど俺が大きくなる度に弱く感じたな…でもあの頃は父さんと母さんで一緒にご飯を食べている時は楽しかったな。母さんのオムライス食いてーな…。父さん、母さん…」
ライトは両親と過ごした日々を思い返しながら笑っていたが段々と時間が経つと顔は俯き、沈んだ表情に変わっていた。
ライト 「あぁ!俺らしくないな!よしっ、絶対に探して見つけ出すぞ!そろそろ、集合時間だから冒険者ギルドに向うか」
ライトは頬を叩いて気合を入れなおし家から出る決意をし歩き始めた。玄関のドアを開け外に出ると鍵を閉めた後にはもう一度、住んでいた家を見渡すように眺めていた。
ライト 「絶対に父さんと母さんを連れて帰ってくるからな!おしっ、いってきます!」
産まれてからずっと住んでいた家に別れの挨拶をし意気込むとライトは走りながら冒険者ギルドに向う。
―――【冒険者ギルド】
一方、ネイリーとリリアは既に冒険者ギルドに着いていたようで会話をしていた。
リリア 「ネイリー!この服と魔法道具買ってくれてありがとう~!あの広い浴室も魅力的だったな~…」
ネイリー 「リリアにはご飯を作って貰ったり、回復魔法で助けられているからな。このぐらいはさせて欲しい」
リリアもライト同様に魔法道具と服を何着か購入し、外見は元々容姿が整っているのが引き立ち上位貴族のお嬢様のように変わっていた。2人は会話を楽しく弾ませながらライトの事を待っているが、集合時間になっても姿を現す事が無いので少々心配になっていた。
ネイリー 「集合時間だがライトの姿が見えないな…。私には時間だけは守る奴だとは思ったが遅刻常習犯なのか?」
リリア 「ううん。生活スタイルは雑だけど…何故か時間にはシビアで遅刻する事は無かったんだよね~…どうしたんだろ?」
2人は考え込む仕草をしながらライトに何かあったのでは…と心配になるが勢いよく扉が開く音が鳴った。
ライト 「ネイリー、リリア!ごめん!少し遅くなった!」
扉を開いた人物は2人が見慣れたライトだった。ライトは苦笑いし歩きながら2人の側へと近づく。
ネイリー 「あぁ、心配したぞ?」
リリア 「何かあったの?」
ライト 「いや、しばらく家を離れると思ったら昔、父さんと母さんと過ごした頃を思い出していてさ…」
ライトの発言でネイリーとリリアは両親の件を既に認知していたので聞いた瞬間に理解した。そして受付嬢であるメルは先程までネイリーとリリアの外見に見惚れながら眺めていたがライトの存在に気付くと目で追うように顔を赤くしながら見ていた。
メル (ライト様…恰好が変わっているし、髪も整っている!ちょっとカッコいいかも…)
メルは視線を合わせないように顔をライトが立っている位置から逆の方に少し逸らし、そして再び見たりと繰り返していた。そんな事を繰り返していると声を掛けられメルは驚く。
メル 「は、はいっ!」
メルが顔を向けた先はライトが先頭に立ち、斜め後ろ横にネイリー、リリアが立っていた。
ライト 「メルさん。俺達、今日からダイヤスファ国に旅立つんだ!」
メル 「…!…そう…ですか…」
ライトは笑顔でメルに対し話すが顔を俯けショックを受けたようで中々、返事が出来なかった。そして気持ちを切り替えメルは無理やり笑顔を作り出し、顔を上げ目を合わせながら口を開いた。
メル 「体調にはお気をつけて!それにライト様は少々、無理をする事がありますから依頼の難易度には気を付けて下さいね?私がライト様の能力を認知した上で承認している面もありますし!それに―――」
メルは多弁のようにライトに対して話すが今にでも泣いてしまいそうになるので平常心を保つためにひたすら話し続けた。そして話しているとそろそろネタも尽きたのでいよいよお別れの言葉を言う頃になってしまった。
メル 「ライト様…またお待ちしておりますからねっ!私、待ってますから!」
メルは無理に笑顔を作りライトにお別れを伝えると飲食店の料理長であるモルハも近づき口を開いた。
モルハ 「ライト…無事に帰って来いよ…?その時にはオムライスを10人前でも100人前でも作ってやるから!俺の奢りで!」
ライト 「モルハさん、そんなに食えないって!」
周りの冒険者もテーブルに座りながら会話を聞いていたようで一斉に笑い始める。
モルハ 「ネイリー姫もリリアの嬢ちゃんも気をつけてな…クソッ年を取ると涙腺が緩くなるんだ…」
メルとモルハは今にも大泣きをしてしまいそうで、堪えながらも少しずつぽつりぽつりと涙を零し始めた。
ネイリー 「絶対に戻ってくるから大丈夫だ」
リリア 「またここの依頼を受けに…と料理も食べにきますね!」
ライト 「俺も絶対に戻ってくるって!んじゃっ、行ってくるよ!」
3人はお別れの挨拶を済ませ冒険者ギルドから外に出るとその場に残った人物は全員泣いていた。
メル 「ライト様…また見られる日が楽しみだな~…いつかな?それまで頑張ろう…」
メルはその後、仕事に手がつかず裏に移動し大泣きしていた。
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