エピローグ:Here’s to my love!
1
無事に公演が終わり、オレたち演劇部には一時の休息が訪れていた。
ジュリエット役からお役目御免にもなり、これでミオ先輩に振り回されることもなくなる。ようやくオレは、平和な学生生活を手に入れることができる。
そんな夢見た日々を懐かしみながらもシューイチとアッキーと並んで廊下を歩いていると、なんだろう。とある一角が騒がしかった。しかも、そこから聞き覚えのある声が聞こえてきて……。
「明石の上! こんな所にいたんだね。今宵僕らの愛の巣で、一夜の愛を語り合わないかい?」
声の主の正体は顔を見るまでもなかった、ミオ先輩だ。学校の廊下でこんな酔狂なセリフを恥ずかしげもなく言えるのなんて、世界広しと言えど、この人くらいだ。
先輩は一人の女生徒の手を取って、小っ恥ずかしいセリフをささやき続ける。
「今度の演目は、『源氏物語』やからなあ。もちろん部長が主役の光源氏やで」
「もう役作りに入るとは。さすがミオ先輩だね」
早速光源氏になりきっている先輩に、シューイチとアッキーは感心するけど。なんだろう。腹の底が、なんだかムカムカしてきた。
そう、ミオ先輩ってば。
「オレというものがありながらっ……」
込み上げてきたものをオレは素直に受け入れて、
「ミオ先輩の浮気者ーっ!!!」
気付いたら先輩に向かって叫んでいた。
あれ……。なんでオレ、こんなにイライラして……っていうか今のセリフ、オレの口から出たのか……!??
シューイチとアッキーは、ぽかんと間の抜けた顔でオレのことを見ていた。
「ジュリ、お前……」
「くくっ、どうやらジュリちゃんにも部長の演劇体質が移ってしまったみたいやなあ」
「ち、ちがっ……。今のは、その、つい出ちゃっただけで、本当はそんな風には全然思ってなくてって、あれ……」
なにがどうなってるんだ。オレってば、一体どうしちゃったんだ。シューイチの言う通り、先輩の演劇体質が移っちゃったのか……!?
ウソだろう。そんなこと、あるはずないっ!!
頭を抱えていると先輩がこちらを振り向いて、
「おおっ、紫の上!」
「へっ、紫上!?」
「我が愛しの君、紫上ではないか! ははっ、嫉妬だなんて愛らしいなあ。なに、私が生涯愛したのは、そなただけだ」
「ぎゃーっ!?? 誰が紫上ですか!? だから先輩、抱き着かないでくださいってばっ!!!」
オレは先輩の頭部をピコピコハンマーで思い切り叩く。
残念ながらオレの騒がしい日常は見事期待を裏切って、まだまだ続きそうで……。
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