第15話

翌日の朝、彼は目を覚ますとベッドの上で大きくひとつ伸びをした。カーテンの隙間からは日光が差し込み、窓の外では小鳥がさえずっていた。またいつもと変わらない穏やかな朝だった。

彼はコーヒーを淹れてから、フライパンにバターを敷いてベーコンと目玉焼きを焼いた。フライパンから鳴るパチパチという小気味のいい音が、彼を日常の世界へと連れ戻してくれた。


朝食のあとでコーヒーを飲みながらカレンダーを見ていると、父の実家へ行く日が近づいている事に気が付いた。今年は両親とは別々に向かう予定だったので、自分で列車の切符を買っておかなければならなかった。彼は朝食の皿とマグカップを流しで洗ってから、キャップをかぶって外へ出かけた。


その日は野良猫も日陰でぐったりとする様な、酷く暑い日だった。彼は最寄り駅に着くと、自動ドアを通ってみどりの窓口へと入った。室内の冷気が彼のTシャツに貼りついていた汗を一気に冷やした。彼の住んでいる所の最寄り駅は小さい駅だったので、その時窓口に並んでいる人は一人しかいなかった。駅員も余裕があるのか、時々談笑しながらモニターを叩いていた。


「8月12日に敦賀までお願いします。」と彼が言うと、眼鏡をかけた20代くらいの女性の駅員が、

「米原経由でよろしいですか?」と、モニターを見ながら尋ねた。

「あ、それで。」と彼は答えた。

「席は窓側と通路側どちらにしますか?」と言いながら彼女は上目遣いに彼の方を見た。

「そしたら窓側でお願いします。」

彼はいつも、新幹線では外の景色を見ながらのんびりと過ごすのが好きだった。一週間ほど前の購入だったので、お盆の時期でも席にはまだ余裕があるようだった。


駅からの帰り道で、彼は近所のコンビニに立ち寄った。中に入ると、見知った背中が漫画の立ち読みをしているのが目に入った。彼がその肩を叩くと、園田は振り返って、

「おっ!」と言った。

「どうだった、昨日?」と園田はニヤッと笑った。

「いや、全然ダメだった。」と彼が苦笑いしながら答えると、

「やっぱりな~。」と言って、園田は彼の肩をポンと叩いた。

「藤本、この後用事ある?」

「んー、特にはないけど?」

「じゃあ、久しぶりに行こうぜ。」と言って、園田は竿を振る真似をした。


彼らは高校の頃に、近所の川でよく釣りをしていた。釣れるのはフナやコイばかりだったが、その頃部活に入っていなかった2人にはいくらでも時間があった。大学に入ってからはほとんど行かなくなっていたが、久しぶりとなると彼も少し楽しみな気持ちになった。何も買わずに出るのも気が引けたので、からあげを買ってからコンビニを出た。

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