第450話 ミサリーの仕事

 さて、次はミサリーのところに……とは言ったものの、現在ミサリーがどのあたりを走っているのかわからない。


「うーん……暴走してないといいけど」


 私が公爵領から姿を消していた二年間、ミサリーは私の帰りを待って公爵領で戦闘に明け暮れていた。そのせいで……そのおかげでステータスは上がり、ちょっと過保護気味になり、さらにはバトルジャンキー感が増してしまった。


 私の時とその敵との対応の差はまさに灼熱から極寒の地に一気に落とされたかのような感じ。


 《個体名ミサリーの位置をマップにマークしますか?》


 え、なにマップって?地図?


 《主の視界内にミサリーの位置が表示されるようにいたします》


 よくわからないけど、お願い。


 そうツムちゃんにお願いした次の瞬間、パッと視界がクリアになり、私を中心にツムちゃんがミサリーを探しているのを感じた。


 《見つけました。赤いピンで表示いたします》


 その言葉通り、私の視界内に突如としてどでかい何かが現れた。そのピン?は、数キロ離れた街を指しているように見える。


「あそこにいるのね?」


 っていうか、ツムちゃんこんなこともできるの?索敵範囲は最低でも数キロ……いや、私もそれくらいはできると思うけど、的確に誰がどこにいるのかと当てることはまずできない。


 恐ろしい子……


 《なにか?》


「は、早く行こうか!」


 私はツムちゃんが次の言葉を発する前に、その街へと向かった。



 ♦️



「この街は対して広くないわねー」


 狭い街だとすぐに異質な存在を目にしやすい。あ、別に私はいつも見ている光景だから特に気にならなかったが……小さな街で大きな人だかりができていた。


「あー……」


 その中心にいるのは案の定ミサリーともう一人、知らない男がボコボコにされていた。大方、ミサリーのことをか弱い女子と勘違いして、どっかに連れ込もうとしてたんだろう。


 あそこまでボコボコにされるということはそれくらいミサリーが怒っているということだろうから。


 自慢ではないが、うちのメイドはとても顔がいい。なぜだろう、私よりも圧倒的に年上のはずなのにそれを感じさせない……まるで10代のような肌艶をしているのだ。


 まあ男が油断する気持ちをもわかる。


「今度その気持ちの悪い手で触れたら地獄に叩き落としますよ?」


 ほら、なんかやばいこと言っているし……。


「ミサリー……」


 呆れながらもミサリーの名前を呼ぶと、すぐにミサリーは振り返り、「お嬢様!」と猫の手のひら返しのように、態度を一変させた。その変わりように周りはびっくりして私の方を見ている。


「もう、こんなところで何をしているの?」


「こ、これは違うんです!この男が最初に……」


「わかってるわかってる。だから、そろそろ当初の予定を進めてちょうだい?」


「あ、はい。わかりました」


 ミサリーは別に日ノ本の国で影響力があるわけでもない。顔も知られていないから、この国ではただの女性に過ぎない。


 よって、革命軍の話を広めるということについても、最初の説得力に欠ける。顔がいいとかそういう外見的な力を借りたとしても、噂話を信じてくれるかどうかは別だ。


 よって、ここはミサリーの庭で勝負するべき。


「冒険者組合にまずは話を持って行きましょう」


「かしこまりました」


 歩き出す先は冒険者組合。


 冒険者組合トップのSランク冒険者……世界で数人しかいないとされるSランク冒険者は、組合の中では一国の王並みの発言力を持っている。まあ、組合の中だけだけども、今回はそれが大いに役立ちそうだ。


 いつも通り組合に入り、カードを見せるととても驚いたような表情をする受付の人たち。周りも初めて見るSランクの冒険者……しかも女性で興奮を隠しきれていない。


 Sランク冒険者の中でも半数に満たない数しかいない女性はとても貴重なのだ。まあ、私もその枠組みに当てはまるけど。


 冒険者達にとってはSランク冒険者とは雲の上の存在、アイドル……憧れ……夢だったりする。噂話が好きな冒険者諸君には「Sランク冒険者が言っていた」という内容付きで是非とも酒場で言いふらしてもらいたい。


 そう思い、ミサリーにはできるだけ大げさなリアクションを取ってもらった。


 すると、もうみんな簡単に信じ込むよね。怖いくらいに誰もがその話を疑いすらしなかった……これが刷り込み?


 受付さんに至っては本部に連絡を……とか言っちゃってる。


「あとは勝手に話が広がると思うから、ミサリーは次の街へ行って」


「はい!」


「できるだけ冒険者がこなさそうな街でお願い」


 そういうと、ミサリーはまた駆け出す。


 あ、Sランク冒険者と話したそうにしていた冒険者……しかも若い人たちが落ち込んでる。ごめんよ少年たち……これも仕事なのだ。


 というか、私もSランクなのだが?


 ミサリーだけ尊敬されてずるい!受付の人が残された私をどうしようか迷っている様子だったので、


「大丈夫です。私もこういうものなので」


 と言ってミサリーと同じカードを見せた。


 反応はさっきと一緒……のはずなのに、なぜか疑いの目で見られた。どうやら、盗んだものと勘違いしているらしい。


 解せない。

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