第438話 過去の探検録②(ユーリ視点)
な!?
ななななんでここに勇者がいるの!?
目の前にいるのは明らかに人間!なんと言ってもその身に纏っている鎧が何よりもの証拠だった。
こんな豪華な鎧をまとっているのがただの兵士なわけがなく、そしてここで嘘をつく理由もない。
「君はとても心のきれいな人だね」
「え?ああ、うんありがと……」
いきなり話しかけてきたその勇者はこちらに笑顔を向けてそう言ってきた。
ゴーノアたちは慌てながら、ボクの元へ近づいてきて耳打ちしてくる。
(お、おい。魔族ってバレてねえだろうな?)
(多分大丈夫だと思うけど……)
(言葉選びには気をつけろよ?バレたらいくら俺たちでも殺されかねないぞ)
いくらボクたちが三人が強かったとしても、勇者には勝てるわけない。勇者は魔王と対をなす存在。
言うなれば上位の存在であり、その実力は天使や悪魔をも超えうる力を秘めているとされる。
天使や悪魔が争えば天変地異が起こり、地形が変わるのに対し、勇者が戦った後の形跡には何も残らないことで有名だった。死体すら残っていないのだ。
勇者は死体を回収して回り、それらを丁寧に埋葬しているとのことだった。魔族や人族問わず行っている勇者はとても心優しい人だと言える。
だけど、生きてる魔族とは話が別だ。
(まだ死にたくないからなー)
ボクは笑顔を作って見せる。
「勇者さんはこんなところでなにを?」
横二名がボクの方を向いて「様!様!」と言ってくるがボクはそんなことは気にせずに聞いた。
「とある事情で、エルフの森に用があってな。それで街道を歩いていたら村を見つけて……今に至るってところかな」
「そーなんだ」
エルフと人族は同盟関係にあるため、勇者が出入りしても得に不思議はない。
(ゴーノアなんか知ってる?なんでエルフの森に勇者が来るのさ?)
(知らねえよ。大体知ってたら探検になんかでないって!)
ゴーノアと二人で相談していると、勇者が近づいてきた。
「ねえ、三人とも。少し俺を案内してくれないか?」
「案内?」
「エルフの森にある洞窟に、ここ最近怪しい影があると通報が来てね。魔族の工作かもしれないってことで、俺が出向くことになったんだ」
初耳の話に驚きつつ、ボクは二人の顔を見た。
二人は諦めてやれやれという顔をしている。
「エルフの彼もいるし、君らも彼の仲間なら森に詳しいはずでしょ?」
「分かりました。そう言うことなら、お付き合いします。その代わりにお願いしていいですか?」
「うん?何でも言ってくれ。俺に出来ることならね」
「この村に少しだけお金を寄付してくれませんか?」
そういうと二人が「まじかよこいつ……」と言った顔で見てくる。失敬な、ボクは至って真剣だぞ。
「そんなことかい?言われなくてもするつもりだったよ。俺たちが起こす戦争に巻き添えを喰らって……お金を渡したとしてもただの偽善的なものでしかないとはわかってるさ。だからこそ、俺は早くこの戦争を終わらせたいんだ」
「そういうことなら、早速向かいましょうか。ちょうどボクたちも暇してたし」
そんなこんなでボクらは再びエルフの森へと戻るのだった。
♦
戻った先の森で、勇者からその洞窟の特徴を聞き、ハイエルフであるゴーノアの案内の元その洞窟までやってきた。
「この洞窟で間違いないよ」
「ですが可笑しいですね……ここには少し前まで精霊が住み着いていたはずなんですが……」
「俺にもよくわからない。けど、調査は迅速にだからね。多少危険でもやるしかないさ」
そう言って勇者は中へと入っていく。
それに続いてボクたちも入っていった。すると、勇者は振り向いて不思議そうな顔をした。
「案内はもう終わったから、帰っていいんだよ?」
だが、それにはボクたちの方も顔を傾けた。
「ボクたち暇してるんで、一緒に探検します!」
「危険だって言ったじゃないか。それでもかい?」
「だって楽しそうだもん」
「君たちは面白いね!でも、けがしたら危ないから、ちょっとでも危険だと思ったらすぐに帰るんだよ?」
そういうと勇者はまた歩を進めた。四人で歩いていくうちにこの洞窟はとっても入り組んでいることが分かった。
「どうやらここにはもう精霊はいないようだね」
「迷宮化が進んでいる……誰かに住処を乗っ取られた?」
迷宮化が進んでいるということは、この洞窟の主が迷宮に作り替えようとしているということだ。だが、精霊はそんなことをする必要はないし、しようとも思わないだろう。
つまり、
「敵かな?」
「ふっ、大歓迎だな」
「ゴーノアは暴れないでね?」
その瞬間、突然辺りから死の気配が漂い始めた。
「みんな気を付けて!」
勇者の声でみんなが身構える。迷宮と化して入り組んでしまったどうくつの壁から何かがはい出てくるように動いた。
出てくる前に勇者が一体を切り伏せるが、その数はとてもじゃないが数えるのが億劫になるほどの量だった。
「ざっと、数百ってところかな?」
「これは……ゾンビ?それにスケルトンまで!」
「どうやら、この『迷宮』の主はアンデットのようだな」
スケルトンやゾンビはボクたちを囲もうと動き出す。
「三人とも、逃げてもいいんだよ?」
「これから楽しくなるところじゃないですか」
「……そうか、ならお手並み拝見と行こうかな」
そう言って勇者は手に持っていた剣を鞘にしまった。
「二人とも援護は任せた」
「「おお!」」
そして、ボクは数百のアンデットたちにとびかかるのだった。
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