第436話 語り手ユーリ

「ボク!最初がいい!」


「じゃあどうぞ」



 ♦️



 まず最初に話し始めたのはユーリだった。


「別にこれといった面白いはなしではないんだけどね♪」


「ユーリちゃんの過去……!気になるわ!」


 過去と言ったらどこからが過去になるのだろうか。


「なんせボクはもうすぐ千歳だからね!」


「え?そうなんですか?」


「そっか、ミハエルは知らなかったね。実はボク元魔王なんだ!」


「は?」


「驚くのも無理はないと思うけど、今回はそれ前提で話すからよろしくー」


 聖戦が終結し、ユーリが魔王に就任したあたりのことの話。


「ボクにはね、エルフの友達がいたんだ」


「エルフ?」


「そう、レオは会ったことあるよね。エルフの森でエルフたちを治めていたあの王様だよ」


「覚えてるよ」


 その王様とは聖戦が始まる以前から仲が良く、一緒に遊んだ仲だった。


「でもね、聖戦が起きたせいでボクたちは離れて……むしろ敵対して戦い合うことになってしまったんだ」


 魔族はほとんどの種族を敵に回し、争った。当初は悪魔たちや天使たちが跋扈していた時代だから、戦争は熾烈を極めた。


「ボクはもともと戦うことはそんなに好きじゃなかったんだ。でも、エルフの友達は意外に好戦的でさ。『戦う口実ができたから決闘しよう』ってボクに言ってきたんだ」


「あの王様そんな性格だったんだ」


「今となってはおじいちゃんだからね。だいぶ性格も丸くなっててびっくりだよ」


「ユーリは年取ってないように見えるけど?」


「ボクはちょっと特殊なんだ。それはまあ今は一旦置いておこうよ」


 話したくないことは話さなくていい。そのルールのもと始めたし。


「エルフの友達と戦って、結果はボクが勝った。だけど、それをいろんな人が見物してたらしくて、ボクは色んな人から『強い』って認識されちゃったんだ。そのままなあなあで過ごしてたらいつの間にか魔王になってたよ」


「ユーリって先代魔王じゃないの?数十年前まで魔王だったってこと?」


「ボクは数百年間ずっと代替わりしないで魔王の座を守り続けてきたよ。そうしないと魔族たちが暴れ出しちゃうからね。あいつら血の気だけは一丁前にあるから、抑えるためにもボクがいないと」


 実際、聖戦終了時から魔族の方から人類に攻め込んだことはただ一度もない。しかし、勇者と戦うために人類と渋々ながらも戦うことはあったそうだ。


「で、ボクの友達は他にもいるんだけど、その子はなんかわかんないけどどこかへ消えちゃった」


 それに対しミサリーは疑問を浮かべる。


「魔族領にいないのであれば人類の生活圏にいるってことですよね。そのうち会えそうな気もするけど……」


「いや、会えない。だってここの大陸にはいないからね」


「大陸には?」


 そこで一同は初めて別大陸の存在を知った。


「かつての聖戦で大陸が二つに割れていたってこと?」


「そそ、あっ割ったのはボクじゃないからね?」


「そこは疑ってなかったけど……」


「ボクのもう一人の友達はアルラウネって言って、簡潔に言ったら植物の女王かな」


「ユーリの知り合い王様多くない?」


「ボク自身が王様なんだから普通だよ」


 魔王として、他の種族の王と交流があるのはなんら不思議なことではない。なお、人間とはあまり交友がない模様。


「今その子がどうしているのかはわからないけど、いつか別れた大陸に行く機会があったら是非ともまた会いたいな」


「行く機会……ですか」


「どうしたのミサリー?」


「あ、いえ……なんでも」


 ミサリーの態度に違和感を覚えつつもユーリは話を進めた。


「ボクたちは三人でよく遊んだ仲だったけど、よく探検もした」


 まだ未開拓とされている場所に赴き探検する。子供としては少々危険だが、そこは実力で許されていた。


「そんなある日に、ちょっとした『悲劇』があった」


「悲劇……」


「勇者と出会ったんだ」


 幸か不幸か探検の最中にユーリたちは当時の勇者に出会った。黒髪黒目のその青年は仲間を引き連れて歩いていた。


「笑えないよね。敵対している人類にばったりであってしかも勇者だなんて」


「それでどうしたの?」


「まあ、ここからがある意味悲劇だったな。ボクが『魔王』になった原因の一旦」


 ユーリが語り出したのは数百年前にあった話だった。

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