第420話 企み

 私の経験値稼ぎは急務の案件ではあるが、それよりも早急にやっておきたいのは……


「反乱軍の皆さんの元へ私を連れて行ってください」


 そう小声でお兄様に呟く。転移で帰ってきてすぐにそのことをいったため、お兄様は驚きのあまり飲んでいた紅茶を吹いていた。


「お、おい……ここは都だ。せめて帰るところを将軍様に見せてからにしないと……どこに目があるかわからないんだぞ?」


「そうでした……すみません」


「都は出来るだけ早くたつ。帰る先を誤魔化しながら連れて行こう」


「ありがとうございます」


 まだ明日には将軍による会議という名の断罪が待っている。将軍が何を言い出すのかとても怖いが、それはどうしようもないから気にする必要はむしろない。


「さあ……気を引き締めていきましょうか」



 ♦



 次の日


 笑ってしまうほどに爆睡していた私はお兄様にたたき起こされて目を覚ました。


「いつまで寝てる!もうすぐ出発の時間だぞ!」


「え!?今後何分……?」


「あと一時間だ」


「全然まだじゃん!」


「化粧や身支度の時間があるだろ?いくら化粧が崩れにくいからって手を抜いてはダメだ」


 そう言って掛け布団をはがされた私は渋々鏡の前に座った。


 時間というものはあっとういうまに過ぎていき、いつの間にか出発時刻となっている。


 ネルネとラグに見送られながら、私はお兄様と城へ向かう。


 《おそらく何か仕掛けてくるかと思われます》


 最初に私とネルネで侵入した件、そしてネルネとラグが別邸に侵入した件どちらも私が関連しているという証拠は向こう側には一切ない。しかし、私が将軍……女神側の人物の敵側の……いわゆる大将だろうか?


 選抜者の一人であると割れている以上、確実に何かちょっかいを出してくる。そうなんだよなぁ、私って世界側の人たちから見たら大将の一人なんだよなぁ。


 まあ、世界の危機というものについて知らない人がほとんどだから大将も何もないけどね。


 城の中に入ると、昨日と同じ場所に同じように案内された。持ち物は全部昨日の段階で掲示しておき、不審なものは持ち込んでいない。


 将軍にも私が亜空間を作ってその中に武器を入れていることは流石に気づくまい。


 昨日の時と同じ時刻に全員が同じホールに集まる。


「コウメイ殿」


「ミア殿?」


「昨日ぶりです、あの後妹さん大丈夫だったんですか?」


 そこには昨日よりも化粧ノリがいいミアさんがいた。ミアさんは数少ない、私が将軍に呼び止められたのを知っている人だ。


 コウメイ殿……つまりお兄様を待っていたところ、たまたま私が一人部屋に残ったところを見ていたのだ。


「大丈夫ですよミア殿。大したことはありませんでした」


「そうなんですか?滅多にこんなことないので驚いたのですが……」


「大丈夫でしたよ。こうして無事にここにいますし」


「それもそうですね」


 そんなことを話している時、


「将軍様ご入場!」


 その声と共に、前回ここに集められた時とは違い将軍は私たちが入ってきた入口の方から扉をバタンと開いて現れた。その姿は国を治める人らしい威厳ある態度だった。


 ステイラルではもっと緩ーい王様だけど……おそらく本来はこちらが正しい。


 周りの反応をよくよく見てみると、みんな驚いたような顔をしていた。こっそりと耳をそばだてると「将軍様がなぜ扉から現れたのか」と困惑している。


 そういえば、将軍は滅多にその顔を他人に見せることなくその素顔を知るものはごく一部しかいないと言われていた。


 そして、お兄様も同様に驚いていた。ただ、ミアさんは驚いていない様子だ。


「ミアさんは驚かないんですか?」


「私?私は、将軍様のご尊顔を見たことがあるからね。こう見えても、すごい人なのよ?」


 そう言って得意げにウィンクした。可愛い。


 そうしている間に将軍がコツコツと足音を鳴らしながらホールの中央まで来た。


「会議を始める」


 そう言って腕を上げて、横に広げた。その瞬間、ホールが揺れ出し、一揆のその形を変えていく。


 城の中が変形していき、明かりはどんどん消えていき、最後に残ったのは少しばかりの天井明かりと何十かの椅子……そして、それを囲む丸いテーブルだった。


「座りましょう、そして始めます」


 領主たちはその言葉に触発されたように一斉に椅子へ座った。初めて将軍の顔を見て、少しでも気に入られようと必死なのだろう。


「私たちも座りましょう」


「ああ」


 そのミアさんの言葉で私も歩き始めた。


 普段は将軍はこういったことはしないらしい。


(いったい何を企んでいるの?)

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