第403話 美しくなろう

 神が崇めたてる存在ってそれはもはや生きてない何かじゃん。


 とりあえず、それが目標?になるのかはわからないけど、それくらい強くなりましょうねって話でした。


「あ、そういえばあなたの存在忘れてた」


「我は構わん、用はもう済んだのだろう?」


 霊峰の渓谷の中でずっと考えていたのをすっかり忘れていた。八呪の仙人への挨拶も済んだことだし、あとするべきことといえば、足を治すことくらいだろうか?


「少しばかり仙湯をもらっていいかしら?」


「仙湯か?少しなら構わんぞ」


「ありがとうございます!」


 仙湯というくらいなのだから、その回復力はかなりのものなのだろう。薬湯がわりにして、足をつけておこう。


 空間から取り出した桶で少しばかり掬い取り、それを異納庫にしまった。


「じゃ、失礼しましたー」


 すたこらと転移で移し替えられた自分の部屋へと戻る。どことなく、私が壊す前までの部屋よりも素材が頑丈なものへ差し代わってる気がするのは気のせいだろうか?


「まあいいや、そっちの方が過ごしやすいだろうから」


 桶をまた取り出し、床に置いた。元々車椅子で靴を履いていなかったので、そのまま足を桶の中につける。


「ふぁーあったかい」


 思わず眠くなってしまいそうな心地良さ!


「それにしても、お兄様は大丈夫かな?」


 私が将軍の城へ侵入したことがバレたせいで領主全員が集められる羽目になったわけだが、これのせいでお兄様が反乱軍を指揮していたとバレてしまったらどうしよう?


 実際のお兄様は洗脳状態で操られていただけとはいえ、やっていたことがやっていたことだからな……死罪は免れないだろう。


「無関係の人を殺してしまったって、精神的にヤバくなった人には反乱軍をやめてもらったけど、お兄様にはまだやめてもらうわけにはいかないのよねー」


 お兄様はこれから革命軍と名前を変えて軍を再編成してもらわなければならない。ただ武力行使するわけではなく、反乱軍と幕府軍の争いの仲裁をする的な感じで時間を稼ぐのが主な目的。


 その間に私はどうにかして幕府が隠している情報を引っ張り出し、幕府の信用を落とすという計画。


「そもそも幕府全体が悪ってわけじゃないのが問題」


 例えば将軍は誰かの言いなりで実際に悪なのはこいつだけ……みたいな?


「そうであってほしくはないけど……」


 ともかく、足を治して数日後に開く領主会合に参加しなくてはならない。


「そのためにも早く足を治すぞ!」



 ♦️



 そして、時間はあっという間に流れていく。気づいたらもう出発の日の朝になっていた。


 この街をたつのがお昼ごろだから、それまでに街の門にいけばいい。


「そして、足の調子はというと?」


 素足を見つめながら、私は足の親指に力を入れる。


「動いた!」


 ゆっくりと動かしてみてから、普通に動かしてみる。


「もう治ったのかな」


 足全体もぐわんぐわん振っても大丈夫だ。これなら、どんなことがあっても逃げれるね!


「まあ、逃げるつもりはないけど」


 そして、早く試したいこともいくつかあるから、出発するのが楽しみだ。


「お嬢様ー!新しい服はどうですかー!」


 ミサリーの声が外から聞こえてくる。私も領主会合の出席するにあたって、こんないかにも怪しいですって言わんばかりのフードを被り続けるわけにはいかない。


 設定上領主の妹……実際そうなのだが……ということで、華やかな花柄の着物があてがわれた。


「コルセットみたいなやつはどうすればいいの?」


「コルセット?」


「あのお腹に巻くやつ!」


 着物を固定するために必要な布をミサリーに巻いてもらい、後ろを蝶々結びで固めてもらった。


「美しいですお嬢様!」


「えへへ、そう?」


 心なし、かわいい。


 《自画自賛ですか?痛々しいです》


 ツムちゃん……私のことを主と呼ぶんだったらもう少し主に優しくしよう?


「そして、お嬢様。今でも十分美しいですが、もっと美しなってもらいますよ?」


「え?」


 ミサリーが気合の入った目つきでにやにやとこちらをみている。


「な、なに?」


「お化粧のお時間です!」


 スパスパっと目にも止まらぬ速さでミサリーによるお化粧タイムが始まった。


 そういえば、今世に生まれ変わってから化粧をまだ一回もしてこなかった。


 前世からの自負として、目つき以外にはそれなりの自信があったので久しぶりの化粧が楽しみであったりもした。


 ミサリーの素早い化粧術を受けること数分。


「出来ました!」


「どれどれ?」


 手鏡のようなものを渡され、それを使って自分の顔をよくみてみる。


「こ、これは!?」


「素敵ですお嬢様!」


 ミサリーのことだから、不器用を発揮して酷い顔になるかという心配もしていたが、決してそんなことはなかったようだ。


 白い肌は真珠のようで、アイライン・アイシャドーで目が少し大きくなったような感じがする。頬に付けられた赤い色が生き生きした人間味を感じさせ、自分でいうのも何だが、これいいかも。


「ミサリーすごい!意外な特技があったもんだね」


「意外って何ですか!こう見えてもメイドですので、大抵のことはマスターしております!」


 そういえばそうだった。


 私がいなくなっていた二年間の間になぜだか戦闘狂感が増していたからすっかり忘れていた。


「お嬢様、そろそろ下へ行きましょう」


「うん、わかった」


 そう言って、私はミサリーに続いて歩いて部屋を出て行った。

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