第352話 洗脳

「はい?」


「兄妹ですから、そんなに冷め切った会話をするのではなく仲良くしてほしいのです!」


 いきなり冒険者組合へ来たと思ったら予想の斜め上なことを言われたが……蘭丸さんのほうを見てもにこりと笑顔で返すだけだった。


「いやいやいや、私にはやるべきことが……」


「でも、今暇そうでしたよ?」


「ぐぬっ……」


 反乱軍の侵攻を止めることについて考えたんです!決して暇だったわけじゃないです!


 《否定します》


 しないで!?


「とにかく、せっかく義妹殿が遠くの国から来てくださったんですもの、少しは仲良くしましょうよ」


 そう言って、私の肩に腕を巻いてくる。


 馴れ馴れしい感じもするが、馴れ馴れしいのではなくどちらかというとこの人はマイペースなのだろう。


 マイペースな人は嫌いじゃないため、別にいいのだが……。


「あと、後ろの方たちも紹介してくださらない?特に後ろの獣人の方たち」


 ライ様は獣人を見たことないようで、触りたそうにうずうずしていた。


「わかります……私も初めて見たときなんかもう大興奮でしたよ」


「そうよね!私がおかしいわけじゃないのよね!ほれ蘭丸、私も言った通りじゃない」


 控えていた蘭丸さんは悔しそうな顔をしていた。


「なにかかけてたんですか?」


「私が獣人を見て興奮していたのを、横目でため息ついてきたんです!あんな可愛さの塊みたいな存在相手によく平静を装えますね蘭丸」


「いや、たとえ可愛くても同性でござるから……」


「今可愛いと認めたわね?」


「いえ、違うでござる!」


 大変二人は仲がよろしいようで何よりだ。


「まあ?私には旦那様がいるからいいのだけど。蘭丸もそろそろ相手探したら?このままじゃ生涯独身よ?」


 その言葉は蘭丸さんのハートにダイレクトに直撃したようで、ぐぬぬとうなりながら倒れこんでいる。


「このお兄さん大丈夫?」


「多分?」


 ユーリの憐れなものを見るかのような目を見てライ様は爆笑していた。


「改めて、自己紹介するわお三方。私は磊……ライと呼んでね」


「ボクはユーリだよ!」


「レオです、よろしくお願いします」


「きゃあ可愛い!もう最高!義妹殿も美人だけど、二人も超美形じゃん!」


 口調崩れてますよライ様。


「っと、義妹殿と一緒に行動しているということは二人も護衛なのかしら?」


「あー、護衛ではないですね。友達です」


「にしても、よくこんな美形を見つけてきますね。もしかして、義妹殿は面食いですか?」


 なっ!?


「面食いじゃないです!」


 今は……。


「それはそうと、お兄様と仲良くしろと言われても、私はどうすればいいんですか?」


「私にもわからないわ。だけど、そこは兄妹パワーで何とか……」


「兄妹パワーがないから仲良くないんですけど?」


「とにかく!私は旦那様と義妹殿が会話している姿を見ると心が痛むんです!二人とも真顔でかしこまった口調で話しちゃって!そんなの兄妹のあるべき姿ではありません!」


 ライ様はそう念押ししてくる。多分、私が暗いことを言ってしまったから気を使ってくれているんだろう。


「まあ、善処します」



 ♦↓???視点↓



 面白いものを見た。妹の顔だ。


「あんな髪色の家族、よく一発でわかったなー」


 我ながらすごい。自身の髪の毛を黒染めしながら鏡を見る。


 顔立ちも少し似ているが、それだけだ。


「やはり兄妹とは面白い」


 会ったことがないのにもかかわらず、お互い一発で分かるのだから。だが、今は妹にかまっていられる時期ではない。


「まだ、だな……」


 足りない、まだ今のままじゃ足りないのだ。


「犠牲が」


 ……私は今何を言った?犠牲が足りないと?


「違う、そうじゃない。私が望んでいるのはそういうものじゃない!」


 唯一燃えていなかった自分の部屋でそう叫ぶ。だが、独り言だったはずのそれに返答が返ってきた。


「いいや、君が望んだのはまさにそれだ」


 振り向けば、どこから現れたのか、一人の青年がいた。


「君は力を望んでいたはずだ。どうだい?幸せだろう?」


「違う……私は望んでいないぞ仙人め……」


 次の瞬間には頭が狂いそうになるほどの激痛が全身を襲った。


「ぐっ……!」


「君の願望なんて関係ないけどね。『邪仙』の名のもとに、君は僕の言うことだけを聞いていればいいのだ」


 一種の洗脳というものか、痛みが引いた頃にはすっかり考え方も変わっていた。


「ああ、そうだな。変えるには犠牲が必要だ」


「よし、これでいいかな」


 邪仙は呟く。


「手駒は定期的に洗脳しないとね」


 友との約束を果たすために、これは必要不可欠なことなのだ。


「それにしても、ベアトリスか……面白くなりそうだ」


 黒薔薇の組織に協力していたあの少女……高祖の悪魔が倒せなかったのだ。


「もし仮に、運ではなく実力が為した結果だとしたら、僕でも簡単には倒せないだろう」


 だが、ベアトリスに対する対抗手段はもう用意できた。


「あとは戦場をかき乱してくれさえすれば完璧だ」


 それで計画は完璧に終わる。


「『真獣』のほうも計画を始めたころだし、悪魔の軍勢もそろそろいくつかの国を支配したころ合いかな?」


 全世界を黒薔薇と悪魔がかき乱している。


「まさに戦乱の世だ!改革の時だ!」


 待っててくれ友よ。すぐに殺してやるからな。

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