第348話 覚醒
この展開を一体私は何回見てきたことだろう?もう既に数回以上は確定している。
「こ、ここ公爵家!?」
「それのどこが弱小貴族なのでござるか!」
いつも通りの驚き具合に、ミサリーさんもご満悦……。
「ってそうじゃないでしょ!」
「いてっ!」
私の立場を自慢してどうする!
「もう……それと、ミサリーがここにいるってことはミハエルもいるの?」
「敵掃討完了いたしました!攻撃を受けていた市民の救助も既に完了済みです」
「それはご苦労ね」
ため息をつきながら、ちらりとミサリーの後方を確認すると、角の方からこっそりと覗いている三人の姿があった。
「お主たちが市民の救助を手助けしてくれたでござるか?」
と、茶髪の髪を短く適当に揃えたボサボサな髪の少年……武士の蘭丸がそう聞いてくるが、
「手助けはしたわ……でも、全員が救えたわけじゃないから」
私たちがたどり着く前に、もう反乱軍に殺されてしまっていた市民はどう頑張っても助けることができない。蘇生魔法でも存在すれば違うのだろうけど……少なくとも私にはできないことだ。
「そうでござるか……だが、お主たちのおかげで多くの命が救えたのは事実……氷室家親衛隊長の蘭丸、武士団を代表して感謝する」
「そう言ってくれると助かるわ。それで、お兄様……コウメイ様はどちらへ?」
「当主様はおそらく、髪を染めにいったのでしょう」
「髪を染めに?」
「当主様は名前を変えていることからわかるのでござるが、周辺住民には日ノ本の民として認識されているのでござる。当主になるためには他国の人間であるわけにはいかなかったのでござるよ」
確かに、他国の人間に日ノ本の由緒正しき家柄の当主を任せるのは、日ノ本の民としては少しばかり抵抗がある。
だからこそ、日ノ本の民の特徴である黒髪、茶髪に髪色を染めるのであろう。
「旦那様はベアトリス嬢の兄なのでしょう?どうして、あんなに素っ気ない態度なのですか?」
唐突なライ様の唐突な質問にわずかながら動揺する自分がいた。
「私とお兄様は今日が初対面なんです」
「どういうことですの?」
「私が生まれる前に、お兄様は氷室家に婿入りしたので……顔を合わせる機会なんてなかったんですよ」
「それはかなり辛いですね」
実の兄一回も会えなかったということを辛いと認識しているらしいライ様は、同情するように着物の裾で目を拭いている。
だが、
「辛くはないですよ。それ以上に、私にはすることがあったので」
「?」
その当時の私は強くなって生き残ることばかり考えていたから、会えない兄のことなんて全く気にしなかった。家族であるのにも関わらず、どうでもいいように気にしなかった。
「私は最低です。強さを追い求めるばかりに、なんだか色々なものを無くした気がする」
「そんなことはないと思いますよ?女性でも強さを追い求めるのはいいことだと思いますし……ほら!護衛がこんな国にまでついてくるくらいなんですから、尊敬されているんでしょう?」
フォローはとてもありがたいのだが、
「ライ様には知る必要のないことでしょうが、私たち公爵家はかなり闇を抱えてるんですよね」
「闇というのは?」
アナトレス公爵家……まるで物語の舞台であるかのようなさまざまな悲劇があそこで起こった。
メアリ母様の件然り……ヘレナ母様の件然り。黒薔薇の暗躍から、悪魔の侵攻。
「私が生まれなければこんなことにはならなかった……」
そうだ、メアリ母様が私のことを産もうとしなければ、メアリ母様が油断で殺される未来を歩むことも……私がヘレナ母様を刺さなかったら悪魔に取り込まれずに逃げられたかもしれない。それだけじゃない、父様は悪魔に連れ去られ、使用人たちは行方不明に……それも、悪魔の少女に気に入られてしまった私が悪い。
公爵家全員を不幸にしたのは、私のせい?
「そんなの違います!」
ミサリーの声は、沈黙に包まれたその場においてよく響いた。
「お嬢様が生まれなければよかった?そんなことないです!お嬢様がいなかったら、誰も生きてはいなかったはずです!」
「どういうこと?」
「黒薔薇の暗殺者を退けたのはお嬢様です!ユーリちゃんやレオくんと出逢わせてくれたのはお嬢様です!お嬢様のお世話を任されなかったら、私はメイドをしていなかったはずです!そして、悪魔の侵攻の際に、最前線で悪魔の将と戦ったのはお嬢様です!お嬢様がいなかったら、黒薔薇の復讐は果たされ、悪魔の侵攻も止められずに、今頃人類全滅です!」
人類全滅……。
「お嬢様の存在があったから、暗殺事件も防げたし、悪魔の存在も世界の上層部に知れ渡った。それがなければ、人類は抵抗の余地もなく滅ぼされていた。お嬢様が生まれてこなければよかったなんてあるわけないです!」
そんなミサリーの励まし。
「私は……何でそんなことを言ったのかしら」
ミサリーは人を励ますのがとてもうまいな。落ち込んでいる時だって、私のそばでずっと一緒にいてくれた。怪我をして時だって、ずっと看病してくれたしミサリーとはいつでも一緒にいた。
「私が主人でよかった?」
「もちろんです……お嬢様は私の最高の主人です!」
「ごめんね、弱音吐いて。私はまだ生きているのね。できることはまだある」
何で、私は諦めていたんだ?生きていなければ……なんて、今まで思ったこともなかったはずだ。
いつも生き残ることを考えていた私が……らしくないな。
そんなことを考えていた時のことだった。
《確認しました。個体名、ベアトリスが条件を満たしたため、称号『小さな勇者』が『真なる勇者』へ覚醒しました。これにより、ステータスの増大及びスキル『世界の言葉』を獲得しました。なお、この声はスキル『世界の言葉』を持つ者全員に共有されます》
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