第329話 酒は飲んでも飲まれるな

「それじゃあ、スタンピード収束を祝って……」


「「「カンパーイ!」」」


 スタンピードが収束した……つまり、私が首謀者である魔族を破ったことを伝えた途端、こんなお祭り騒ぎである。


 ギルドにはしっかりと魔族について報告はしたが、何も知らない冒険者たちから私たち三人は宴会に誘われてしまったわけだ。


 まあ、用事もあるし断ろうと思ったが、ユーリが「行きます!」と勝手に返事をしてしまったので、今の状況に至る。


「もう……私お酒飲める年齢じゃないんだけど?」


「何言ってんのご主人様!二年間寝たきりだったけど、年齢的にはぎり成人なはずだよ!」


「それいいの?」


「もちろん!」


 お酒が飲めるとしって嬉しそうなユーリ。誰もこの可憐な少年が元魔王だとは思わないだろうな。


「あれ?嬢ちゃん飲まないのかい?」


「あ、いえ……」


 宴の席でそう話しかけてきたのは、私を引き留めようとしていた冒険者の方だった。


「もしかしてお酒苦手なのか?」


「全然大丈夫です、ただ少し弱くて……」


 おい!この人は私が子供だとは思わないのか!?


 誰かこの状況に疑問を抱いてほしい。子供が三人いるんだよ?少しは年齢確認するとかさ、控えさせるなりなんなりしてくれよ!


「まあ、無理すんなよ!主役の三人が楽しまなきゃいけねえんだから」


 冒険者たちはレオ君とユーリの活躍をよく知っている。偵察に出ていた冒険者達が、かなり熱弁していたようだ。


 二人の戦い方から、そのすごさ……冒険者らしいトークから始まり、レオ君がかっこいいだの、ユーリが可愛いだのとくだらない話もあったりなかったり……残念ながら、私のほうまで偵察に来た冒険者はいなかったようだが、大剣を振り回す姿を見ていた冒険者さん方に褒めてもらえたのでよしとしよう。


「ベアトリス?飲めないなら、カシスオレンジでも頼む?」


 そう聞いてくれたのはレオ君。本当はそうしたいところだが、今日のところはなんだかむきになってしまった。


 とりあえず、ユーリの飲んでいたお酒を強奪し、それを一気に飲み干す。


「「「おお~!」」」


 と謎の歓声が上がるが、


「もう一杯おかわり!」


 という私の声につられて、みんな注文し始めた。


「私だって飲めるから、心配しないで大丈夫よ」


「そう?ならよかった」


 レオ君にそう告げると、私もやけになってお酒を飲み始めるのだった。



 ♦



 何年ぶりだろう?だいたい二十年ぶりくらい?


 二十年ぶりに飲むお酒はかなりおいしかったが、それと同時に耐性も下がっていた。二杯目で私はまもなく敗北しそうになっていたが、それをどうにか堪えて現在十杯目である。


「だからぁ?わたしゃ子供じゃないんだってぇ言ってもね~誰も信じちゃくれないんだよぉ~!」


 と愚痴をこぼす。


「それなら僕だってそうだよ」


「ボクは気にしないけどな~」


 と返答する二人。なんだいなんだい二人して、余裕そうにお酒飲んじゃって!


 私が弱いのが悪いのかもしれないが、こればっかりはうらやましい。私も酒豪になりたい……。


「おいおい嬢ちゃん。そろそろ休んだらどうだ?ここの宿を借りといてやるからさ」


 そう言ってくれたのは冒険者さん。


「そうね……そろそろ休もうかな……」


 そういうと、


「じゃあ僕たちも」


 そういって、三人で冒険者さんが借りてくれた部屋へ向かう。道中転びかける私を二人が支えてくれた。


 そうしながら、何とか宿の一室についたが……


「え、これって一室だけしか借りてない?」


「そうなんじゃない?」


「鍵一つだけって……」


 とりあえず、部屋の中を見てみる。すると、そこには小さなシングルベッドが一つ置かれていた。


 他においてあるものと言えば証明と小さな棚くらいだろうか?


「ここで三人寝るの?」


「やったー!ご主人様と寝れる!」


「ま、いっか」


 私がそう呟くと、二人とも驚いた目でこちらを見てくる。


「な、なによ」


「いや、いつもなら『私は床で寝るから』とか言ってるから」


「そうなの?でも、今日はもう疲れたからみんな一緒に寝よう?」


「あ、うん」


 なんだかレオ君が照れたような?お酒で顔が赤くなってるせいでよくわからない。


 そして、私がローブを脱ぎだすと、


「ちょおおおおお!?何してんの!?」


「ご主人様狂った!?」


 服を脱いでいるところを見た二人が、何やら焦っている。何をそんなに焦ってるんだか。


「服着たらかさばるでしょう?ただでさえ狭いんだから」


 それと、絶対に暑苦しい。


「あわわわ……」


「ご主人様大胆……」


 二人して若干目を逸らしている。つもりなんだろうが、チラ見されてるのをちゃあんと分かっているからね?


「あ、そういえば……あなたたち、私が試着してるときに下着を覗いたそうね?」


「「え!?」」


「誤魔化そうたってむだよ?何かお仕置きしてあげようと考えていたのだけれど……ちょうどいいわ」


 ローブを脱いだ後、私は薄い白い服を一枚着る。下着だけで寝るわけがないだろう?少なくとも、私は何かしら着て眠るつもりだったのだ。


 だが、二人は別だ!


「あなたたちは今日下着一枚で寝ちゃいなさい」


「「ええ!?」」


「私は見ないであげたのに、あなたたちだけ私の下着を見るなんてそんなひどいことある?」


 いや、ない!


「ちょ、ちょっと落ち着いて?」


「ご主人様それは誤解だよ!」


 誤解も何も事実じゃないか、店長さんが言っていたぞ?


「そっちがその気なら、私が服をはいでやる!」


 何を恥ずかしがるのやら……ユーリなんてキツネの姿は服着てないじゃんか。なんなら、私とお風呂入ったことあるでしょうに。


 レオ君は……わからなくもないが、バツはバツだから仕方ないね。


 私がむりやり服をひん剥いてやると、二人は涙目で体を寄せ合っていた。


「白かぁ~」


「言わないで……」


「形がはっきりわかる――」


「「言わないで!」」


 これ以上は怒られそうなのでやめておこう。


「さ♪寝るわよ♪」


 私がそういうと、ユーリは何か思いついたように、


「レオ……あとは任せた!」


「え?」


 すると、ユーリはキツネに変身して、小さくなってしまった。


「あ!ずるい!」


「へへーん!変身できないレオが悪いんだからね!」


 ユーリは勝った!と言わんばかりの表情を浮かべている。キツネになっても表情は分かりやすかった。


「じゃあ、ユーリにはバツとして私たちの真ん中で寝てもらおうかな」


「へ?」


「賛成です」


「ちょっとレオ!」


 ユーリを抱き上げて強制的にベッドへ連行する。


「レオ君もおいでー」


「うぅ……わかったよ」


 渋々と言った風にレオ君も布団に入ってきた。


「うわ、かなりぎりぎりだ……」


 三人……ユーリがキツネではなく人間の姿で寝ていたら、落ちていたかもしれない。


「何気に三人で同じところに寝るの初めてじゃない?」


「そうだね、ユーリとベアトリスだけならあるようだけど」


 ジト目でレオ君がユーリのほうを見る。


「なになに?もしかしてうらやましいとか思ってる?」


「ち、違うし!」


 プイッとそっぽを向いてしまうレオ君に二人して笑っていると、私が少し落ちそうになってしまった。


「おっと!」


 落ちないように、私はとっさにレオ君の足に自分の足を絡ませて耐える。


「危なー……落ちるところだった。ん?どうしたのレオ君?」


「……もう、どうにでもなれ……」











 後々、この時の自分がかなり酔っぱらっていたということを聞かされ、恥ずかしくなるベアトリスなのだった。

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