第322話 試着タイム
正直、試着がしたかったからきたようなものだ。
「たしゅけて……」
「なんで僕も……」
うん、なんか文句を言う声が聞こえているが、聞こえないふりをしておこう。
「男の子が何恥ずかしがってんのよ、そういうの気にしないでしょ」
「気にするけど……」
そうかぁ?騎士団の人は訓練中外で着替えてたし、そういうのに抵抗がないと思っているのだけれど……。
「まあ、着替え終わるまでみないから、早く試着してね」
渋々といったふうに着替え始める二人。店長さんも女性だが、それはいいのだろうか?と思っていたが、どうやら二人は気にしていない様子。
なぜ私はダメなのだ?
「店長さん、おすすめの服を着せてあげてください」
「かしこまりました」
せっせといろんなところから服をかき集めてくる。
「寒い……」
「レオの方がまだマシだよ……僕はふわふわじゃないから」
店長さんがいくつかの服を持ってきたのをみて、早速お着替えが始まる。ガサガサと音が聞こえるが、私が着替えてるところを見ると怒られるので、先に私用の服も探しておく。
いつもきているようなスカートのついたやつが欲しい。ただ、もっとシンプルなやつだ。
「着替えたよー」
その声が聞こえて、私は振り返る。
「おぉ……!」
そこに立っているのはいつもと違う服を着ている二人……まあそれは当たり前なのだが。
ユーリは腰の位置より若干短い灰色の服、膝が見えるくらいの長さしかないズボンを履いている。頭にはヘアピンがアクセサリーとして付けられていた。
全体的に丈が短くなり、ボーイッシュさが増した?ような気がする。というか、もろにおへそ出てますやん……。まあ、可愛くはあるけど目立つ服を着ていることよりもある意味目立ちそうな格好だ。
そう思って、ちらりと店長さんに目をやると、真顔で親指を立ててきた。
(絶対わざと!)
もちろん店長さんが目立たない普通の服を選んでいるわけがない。むしろ、「目立たない服をください」なんていったら不審がられるからいえないじゃないか!
そして、レオ君の着ている服はというと、ゆったりとした白い編まれた服を中にきて、上から薄い素材でできているコートのようなものを羽織っている。ズボンはユーリより長く、膝までが隠れていて、首元には見慣れたいつものバンダナ。頭の上にはちょこんと帽子が乗っかっていた。
再び、店員さんの方に目をやる。
「いかがですか?」
「買います!」
食い気味だったかもしれないが、こればっかりはしょうがない。
「文句なしに可愛い!もうほんとにずるい!なんなのほんとに?」
こんなのみたら買うしかないだろう?
「どうかな?僕たち……」
と、照れながらレオ君が聞いてくる。
「どうって、可愛すぎて反則よ!」
思った通りのことを口にしたら、さらに照れて俯く。やっぱり美形って反則だなと思いながら、ユーリの方を見ると、キラキラ目を輝かせて尻尾を振っている。
「おーよしよし、ユーリも可愛いですねぇー」
「えへへ!」
子供らしさがさらに増した印象だが、この中で最も最年長というね。よくよく考えたら、人間の街に獣人がいる時点で目立っていたのでは?
……………気にしない、私は何にも気づいていない。
「次はご主人様の番だね!」
「あ、そっか」
私も服を買うのをすっかり忘れていた。じゃあ、私はさっき見つけた質素な服を……。
「「店長さん、とびきり可愛いやつください」」
「かしこまりました」
「え?」
こういう時の店長さんの反射神経は謎にいい。私が止める間も無く、どこかへと消えていった、かと思いきや女の子用の服を持って颯爽と戻ってきた。
「え、え!?ちょっと、待って!」
「服、失礼します」
ばっと服を剥ぎ取られて一瞬のうちに、服が入れ替わった。なんていう早業!?
「完成しました」
鏡がないからどのような服装になっているのかいまいちよくわからない。下を向いて服装を確認してみると、上下がつながっている服……多分ワンピースの上にローブが羽織られていた。
そのローブは手元がぶかぶかなオシャレなもので、到底一般市民がきていそうな服ではないのがよく伝わってくる。
「え、あっあの……?」
「お似合いですよ」
「あっはい」
そう言われて、二人の反応を伺おうとすると、二人が目を逸らしていた。
「ど、どうしたの?」
「なんでもないです……」
「?」
不思議に思いつつも、二人の視線の先に回り込んで服を見せる。
「どうかな?」
「可愛いよ、すごく」
「ほんとに?」
面と向かって言われるとなんか照れてしまう。
「いかがなさいますか?」
「うーん、買います」
結局目立つ服を買ってしまった……どうしてこうなったんだ……。
「品揃えいいですね、この店」
そう店長に聞くと、
「こんな立地にあるので、いい品だけが溜まっていくんです」
そういうと、どこか悲しそうな表情をしていた。
「どうしてこんな場所に店を開いたんですか?」
立地は最悪だから、お客さんがたくさんくるわけもなく……路地裏の中にあるんじゃ誰も気づかないでしょうに。
「でも、ほんとにいいもの揃ってますよね」
この服なんかもなんだか高そうだ。
「それらの服には私が補助魔法を施しています。だからそう見えるのでしょう」
「やっぱりそうだったんですね」
補助魔法っていうのは付与魔法と同じく、何かの能力を向上させるサポート魔法だ。本来であれば、武器の攻撃力を上げたり、防具を頑丈にしたりできる付与魔法だが、この人が使う補助魔法はかなり特殊なようだ。
獣人が使った時性能アップとか、そういう細かい能力をつけられるのはどうしてだ?
「こちらの服にも施しますか?」
そういって指差すのは私たちが今試着してる服。
「できるなら付けて欲しいですね……いくらほどですか?」
「金貨1枚で」
めちゃくちゃ安いやん。
「お金儲けのためにしてるわけではないので」
「じゃあ、ぜひお願いします!」
「わかりました」
そういって、補助魔法で服をコーティングしようと店長さんが手を向けたタイミングで何かを思い出したかのように、はっとしていた。
そして、私に耳に近づき、一言。
「パンツ、見られてましたよ?」
「へ?」
……………だからかよ!だから、目を逸らしてたの?
店長さんに目をやると、親指を立てていた。
(わざとかよ!)
あとで、あの二人には何かしらの制裁を与えないと……そうキョトンとしている二人を見ながら思うベアトリスであった。
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