第317話 君の仲間、君自身

 スライム探して数時間、何の成果も得られませんでしたー!


「無理でしょ、こんなの……」


 そもそもスライム自体個体数少ないんだから、思った以上に大変だ。なんで個体数が少ないかといえば、冒険者たちに狩られすぎてしまうからだ。


「お嬢様、そろそろ休みましょう」


「ええ、そうね」


 とりあえず転移でドワーフさんのところに向かう。そういえば、名前なんだっけ。


「お主らどこからでも現れるな……」


「ちょっと休憩……」


「どうだ、見つかったか?」


「ないない、今日はもうやめようかな」


「そうか……まあ、どうせ転移できるんだから、いつでも探してここにこいよ」


「ありがと」


 大剣の魔改造はまた今度になるかな……。



 ♦️



 そうして一日が過ぎ去った。次の日もすることがないから、ゴロゴロしているとミサリーが部屋へと入ってきて、


「お嬢様、生徒さんたちがいらっしゃっています」


 生徒?


 今日はまださよならする日ではないが、


「どうぞ入って」


 中に入ってくるのはいつもの見慣れた顔ぶれだった。ナナちゃんのパーティである。


「先生、あの……」


 入ってきた生徒たちの手の中にはそれぞれ皮袋を持っている。


「これ、実は理事長から先生に渡すように言われてて……」


「え?」


 ての中にある皮袋を広げて見せてきたのは、どう考えても私がお使いで集めた素材たちであった。


「何これ?」


「さあ?でも、『必要無くなったから餞別に』って言っていました」


 餞別にこの素材たちを……ぶっちゃけ私が集めた素材だけど、よくよく考えたらこれ全部結構な高級素材じゃん。


「これを私にくれるの?」


「はい。あっ!でも私たちからは別にプレゼントがありますから!」


「プレゼント?」


「あ、いえ……」


 墓穴を掘ったと言わんばかりの表情で顔を隠すナナ。それを引き攣った笑いで眺めるメンバー一同。


「まあ、みんなのプレゼントは明日の朝にもらおうかな」


「はい……」


 素材を渡されると、かなりの重量が両腕にかかる。


 だが、私の筋力のおかげでなんの負荷にも感じない。感覚としてとても重いものを持っているというのはわかっているんだけど、どうにも重さは感じない。矛盾しているかもだけど。


「あ、そうだ。この素材使えないかな!」


「?」


 事情を知らない生徒たちははてなマークを頭の上へ浮かべる。


「素材ありがと。それと理事長に『お世話になりました!』って言っておいてね」



 ♦️



「また戻ってきたよ!」


「もう驚かんわ、のう?コドラ」


 髭の生えたドワーフと子供ドラゴンが仲良く戯れている姿はなかなか見れるものじゃないが、今はそれをみにきたわけじゃない。


「見て!スライムじゃないんだけど、これも素材に使えないかな!?」


 勢いで素材をドンと床に叩きつけてしまった。


 サイクロプスの目、大蛇の皮、精霊の鱗粉、竜の牙&逆鱗


 これらの素材を目にした瞬間目の前から「はあ!?」という悲鳴が聞こえた。


「なんだこの素材たちは!?お前……スライムいないからって他の魔物に八つ当たりしたのか!?」


「そこじゃない!」


「この素材なら、合成できるな。大剣をだせ、強化してやろう」


 よっしゃ!と思いながら、私は大剣を取り出した。


 この大剣がどのような進化を遂げるか今から楽しみである。


(進化したらちゃんと使ってあげるから!)


 そう心で大剣に謝りながら、私はふと疑問に思ったことを呟く。


「そういえば、ドワーフさん名前なんだっけ」


「は?ああ、そうか。教えてなかったか」


「そうだね、名前は?」


「ふん、まだ名乗るほど仲良くないだろ?」


 そう言って火を焚いている。


「いいじゃない、教えてくれたって」


 そう文句を垂れると、


「いやでも、そのうち知ることになると思うから、その時まで待つんだな」


 どういう意味?と聞きたかったが、どうやら改造する準備が整ったようだ。


「できるだけ早く仕上げる明日の朝出発だったか?ならそれまでに仕上げてやろう。構造はもう頭の中に入ってるから、間に合うとは思う」


「よろしくね」


 邪魔しちゃ悪いので、私はさっさと部屋から出ていく。


「ふぅ……」


 扉を閉めれば、中からはカンカンと金属を叩く音がする。


 そして、外からは静かな風の音がしている。


「で、また何か用ですか?」


 古屋の中にいた時からずっと、外から妙な気配が漏れていることに気づいていたが、その気配の正体はニコニコと笑いながら、こちらに近づいてくる。


「やあ、久しぶりだねベアトリス」


「何の用ですか変態魔術師」


「ひどいねぇ、服装を攻めてるからってそれはないんじゃないかな?」


 前回森の中で出会した魔術師がそこには立っていた。呼び方なんてどうでもいい。それよりなんでまた現れたのだろう?


「前回あった時に伝え忘れちゃったことがあってね」


「伝え忘れ?」


「そう、君のお仲間は無事だよ」


 仲間?もしかしてフォーマのことか!?


「今どこに!?」


「大丈夫、焦らなくても時期に会える」


「あーもう!どうしてドワーフとか変態魔術師はそう言葉を濁すの!?」


 焦ったいったりゃありゃしない。だが、私のセリフに何か引っかかったのか魔術師の女性は、古屋の方を眺める。


「まだあの堅物は閉じこもってるのかい?」


「え?」


「昔からのあのドワーフは変わらんね。50年以上経っても鍛治師としての腕は衰えてなさそうだ」


 古屋の奥が見えているかの様なセリフ……いや、この人はなんでも視えるんだっけ?


「知り合い?」


「ああ、仲良くは……ないかもだけど。彼、結構な有名人なんだよ?」


「え、そうなの?」


「なのに隠居しちゃったからさあ。今でもセイちゃんが探してたはず」


 新たな人名が出てきたが、もうこの際気にしない。


「あ、そうそうベアトリス。君がこれから向かう東の島国についてだけど……」


「なんで知ってるの」


「まあいいじゃないか。無駄足にならないことだけは確か、と言っておこうか。残念だったね、君の望む平穏はまだ訪れそうにないよ」


 こいつは一体誰なんだ?なんだよなんでも知ってる……まるで神のような。


「神ではないね」


「え?」


 今心の声読まれなかった?


「読んでるよ」


「嘘でしょ?」


「何を驚いているんだ?『リョウヘイくん』だって持ってる能力だよ」


 知らなかった……さすが異世界人。強過ぎ。


 そう考えていると、女性は大爆笑し出した。


「君がそれ言う!?あっはは!」


 心底楽しそうに笑ったと、女性はまた穏やかに口調に戻った。


「最後に一つだけ伝えたいことがある」


「なんですか、名前も知らないのに……いい加減にしてください」


 少し黙り込んだ後、女性は口を開いた。


「近い将来、君の仲間、もしくは君自身が死ぬこととなる」


「は?」


「だから、せいぜい『選択を間違えないように』ってね。それじゃあね。変態魔術師は帰るとするよ」


「ちょっと待って!待ってよまだ……!」


 引き止めようとしたが、もうすでにその場からは消え去ってしまった。


「死ぬ?」


 棒立ちになりながら、私はその言葉を唱える。冗談だと思いつつも、胸の中がざわつき、その日はすぐに家へと戻った。

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