第275話 翼を生やしてみた

 片鱗とは、龍族が持つ『龍』の特徴のこと。


 わかりづらいから噛み砕いて説明すれば、龍族とは、私が何ども倒してきたドラゴンのことではない。


 正確にいえば、私たち人間が龍や竜と呼んでいる存在は『真龍』であり、龍人族と呼んでいるのがここでいう龍族のことなのだ。


 言ってしまえば、どちらも龍であることに変わりはないらしい。


 この部族の族長であるグラートは両腕に龍の鱗がついていてゴツい。それに、よくよく見ないと気づけなかったが部族の人たちも瞳が龍のように縦長だった。


 龍族である証というのは、こういう特徴のことなのだろう。鱗のついた尻尾だったり、瞳だったり角だったり……。


 ただし、ここで人間と言い出せるほど私は考えなしではない。


 耳をよーくすましてみれば、「龍族でなかったら、この場で血祭りに上げてやる」的なことを言っている人が何人も見られるのでね!


「さあ、片鱗はどこにある?背中か?」


 どこにもないんですが?


 待って、この話の流れ的に私、もしかして処刑ルートたどります?


 いやまあ、処刑されないために強くなろうと決意はしたものの、まさか龍族を相手にするとは思ってもみなかった。


 この人たちが全員龍……部族の中だけでも百人くらいいるのだが、その人たちが全員で「龍じゃなかったから殺す!」とか言って追いかけてきたら、流石の私も逃げ切れるか……。


 だが、解決法がないわけでもないのだ。


「ここでは、見せられませんので、外に出ませんか?」


「む?」


 私にはまだ、変身魔法が残っている!


 懐かしいなー、大鷲に変身してレイと空を飛んでいた記憶が蘇る。今思えばかなり面白い絵面だが、吹き出さないように細心の注意を払いながら、外へと出る。


 まあ、中にいた全員が出てきたわけだが、流石に小細工はバレないだろう。


 もちろん、大鷲に変身していた頃より魔法の精度はだいぶ上がっているので、大丈夫……のはずだ。


 先ほどグラートが「背中か?」と聞いてきたので、とりあえず背中に変身魔法を使用することにした。


「早くみせろ」


「わかっていますよ」


 魔法を使用する。が、誰も気づいた気配はない。


 だったら、もう躊躇する必要はないとばかりに、私の背中は中にある何かに押されて破れた。


「なっ!?」


 背中には、私の身長の二倍はあるであろう大きさの翼が二枚ついているではないか。


 その翼は私がよくみてきた真龍のものと酷似している。というのも、それをもとにして作った翼だからね。


 もちろんのことながら、飛ぶこともできる。


「これでいいですか?」


「あ、ああ……」


 そう言いながらグラートが近づいてくる。一体何をするのかと思い、みていると……


「先ほどまでの無礼、お許しください」


「……………へ?」


 いきなり傅かれたかと思っていれば、後ろに控えていた部族の方達も一斉に片膝を突き始めた。


「ちょっとちょっと何!?」


「『翼持ち』だったとは……どうか我らをお許しください」


「翼持ち?」


 詳しい話を聞いてみれば、龍族が持つ特徴には上下関係があるらしい。


 何言ってんだお前って思う人もいるだろうが、翼持ちはお貴族様待遇なんだそうだ。


 龍族はいかに真龍に近い特徴を持っているかで部族の長になるのか、一般人になるのかが決まる。


 ここにいる部族の人たちは瞳が縦長なだけだったり、少し肩に鱗がついていたりとそのくらい。


 グラートは腕全体が真龍の特徴をしているため、族長へと推薦されたのだそうだ。


 そして、翼はその中でも別格らしい。龍を象徴するその翼を持つものはとてつもなく偉い立場にあるそうで、「背中か?」とグラートが聞いたのは「背中に鱗があるのか?」という意味だったようだ。


「えーと、とりあえず顔を上げて?」


「はっ!」


「それもやめて?」


 つまり、今ここにいる部族の人たちの中で考えても私が一番偉いということになってしまった。


「あのー、私は龍族であるとわかってもらえたでしょうか?」


「はい、もちろんです」


「じゃあ、私はこれで……」


 そう言ってこの集落から出ようとするが、呼び止められてしまった。


「なんですか?」


「いえ、おもてなしも何もできていないのに帰らせるわけには参りません!」


「えぇ……?」


「今日はここに泊まって行かれてください!」


「えぇ!?」


 というわけで、今日は泊まりになりました。



 ♦️



 龍族の間では対立が起きていた。対立していた鬼族が消えて、獣人族を守ることも減ってきた今の世の中において、龍人は俗世からかなり離れて場所に住んでいた。


 対立が起きた原因は、その鬼族にある。


 鬼族は絶滅した……と思われていたが、わずかな生き残りが子孫を残し、若い血の気溢れるものたちが見境なく暴れ始めるようになったのだ。


 長らく戦ってこなかった龍族の中でも弱い者も、何名かその餌食となっている。


 問題なのは、鬼族を討伐しようとする派閥と、このまま放っておこうとする派閥による対立が起こったことだ。


 前者は単純に暴れられては、せっかく平穏が消え去ってしまうと考えている部族。


 後者は獣人などが多く襲われた後、また助けに介入しようと考える部族。


 後者は、過去の栄光を現代のものにしたいのだ。つまり、再び英雄へと返り咲くことを目的としているわけだ。


 そして、その対立は一人の翼を持つ少女が現れたことによって加速していく……。

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