第245話 からかい下手なベアトリス
「これ、勝敗もう見えてるよね……」
そんな誰かの呟きにより、ヤンキーはその膝を折るのだった。
「くそ……こんなガキに」
「ガキじゃないですよね~。先生ですからぁ~」
「……ちっ」
「先生に対しての態度酷くない!?」
そんなこんなで勝敗は決したとさ。
結果?
勿論私の勝ちだった。
まあ、強い方だとは思うけど、私には勝てなかったね。
「じゃあ、そろそろ本題の授業のほうをやっていこうか」
「え?これが授業だったんじゃないんですか?」
「いやぁ、それはヤンキー君が喧嘩売ってきたから見せしめに使っただけだよ~」
「先生って案外鬼畜ですね……」
ナナにそんなことを言われたが、身に覚えがないのでこれを無視する。
「まあ、いきなり実践訓練に連れ出したら理事長に怒られそうなので……まずは、生徒内でのトーナメント戦を行いたいと思いまーす!」
「トーナメント?」
「トーナメントで勝ち残った人は、今後アタッカーとして実践訓練では動いてもらいます。代わりに、負けちゃった人は私の判断でサポートなりタンクなり決めてくよ」
ヤンキーはおそらくアタッカーになるとは思うけど、文句言いそうだし、こいつも参加させるかね。
♦♢♦♢♦
結果、最後に残ったのは案の定のヤンキーと、ナナであった。
ナナは細い見た目をしているので、攻撃に向いているとは思っていなかったのだが、レイピアを使う立派な前衛であった。
レイピアと言えば、冒険者のベールさんが思い出される。
最後にあったのはいつ以来だろう?
ここ数年でいろんなことがあったからな……メアリお母さんと戦った時だっけ?
あの時、私を無理やり連れだしてくれなかったら、私もあの爆発に巻き込まれていたかもしれない……。
まあ、思うところはあるけど、今度会ったらありがとうと伝えておこうかな。
「それでは、試合開始!」
ヤンキーはさっきの私の戦いで学習したのか、正面から突っ込んでいこうとはしない。あくまで、相手の出方をうかがっているようだ。
対するナナは、レイピアの強みを生かすために、隙がありそうな部分を突く。
だが、そう簡単にはいかないようで、わざと隙を晒したヤンキーに逆に攻撃をし返される。
相手が一歩前に踏み込んだのを見たヤンキーが、レイピアを強めに叩いて軌道を逸らす。
歴戦のプロならすぐに軌道修正するだろうが、まだ扱いきれていない少女のナナにとってはどうしようもなかったようで、そのまま態勢を崩した。
ヤンキーが拳を構え、それと同時にナナはレイピアを無理やり懐に戻した。
っていうか、待って?ヤンキーの奴、女の子を殴るつもりじゃないでしょうね?
というか、これで殴ったら私がぶっ飛ばすし、殴らなくてもぶっ飛ばすけど。
殴らなかったら、私に殴りかかってきたのは何だったのかって話になるしね。
そして、ヤンキーは拳を放つ。それをガードするために、レイピアに手を添えるナナ。
しかし、
「甘い!」
拳を寸でで止め、足払い。
「きゃっ!」
手と、レイピアに意識を集中させていたナナは簡単に転んでしまった。尻餅をついて「いてて……」と言っている間にヤンキーが拳を構える。
そして、
「そこまで!」
私の合図で試合は終了した。
「うーん、まあヤンキー君が一枚上手だったね!」
「ふん、当然だろ」
そんな生意気なことを言っているヤンキー。
私に負けたくせして、偉そうに……という目で見つめてやると、しれッと視線を逸らしたのを私は見逃さない。
「ナナちゃんは、拳の軌道ばっかり見てたから、相手の全身を見るように」
「……はい!」
「じゃ、とりあえず、今回のトーナメントはヤンキー君の勝ちってことかな?それにしても、懐かしいな~試合」
「先生も試合したことあるんですか?」
「私もここの生徒だったからね」
「「「え?」」」
ん?
なにかおかしなことを言ったか?
「あの、ここの大学院。私たちが最高学年なんですけど?卒業生ゼロ人なんですけど……」
「あ~」
「もしかして、この学院が魔物に襲撃される前からいました?」
「いたね」
「じゃああの、教科書に載ってる『戦場の幼女』とかいう……あれってベアトリス先生のことなんですか?」
「……なにそれ?」
詳しい事情を聴くと、どうやらこの大学院の歴史と称して、魔物に襲撃されたときのことを面白可笑しく教えてもらえているそうな。
そして、その中に出てくる主人公的存在として、『戦場の幼女』とかいうふざけた名前が載っているらしい。
紛れもなく、私のことであった。
せめて、『戦場の戦乙女』とかにしてよ!
「授業が終わったら、理事長を締め上げるとして……」
「「「締め上げないで!?」」」
「今日の授業データをもとに、実践での采配を決めます。次の授業で役割を教えるので、それまで自主トレでもしておいてください」
「「「はい」」」
「じゃあ、今日の授業はここまで!かいさ――」
そう言おうと思った時、生徒たちの合間からすり抜けるように、キツネがやってきた。
「何!?かわいい!」
「ほんとだ、キツネだ!」
「触ってもいいのかな?」
女子たちはきゃーきゃー騒ぎ出し、男子たちも少し興味ありげにチラチラと見ている。
……なんだか少し恥ずかしい気分になっているのは、私だけなのだろうか?
「大丈夫、僕も少し恥ずかしいよ」
「うわ!?」
「授業終わったの?」
隣を見れば、いつからいたのか……レオ君が立っていた。
そして、
「もう!早くこっちに来なさい、ユーリ!」
「はーい!」
キツネの口から人間の言葉が発せられたことに少々驚いている生徒たちを尻目に、ユーリは獣人へと姿を変える。
服装は相変わらずの東洋の巫女のような格好だ。
あの服はどこから作られているのだろうか?
そして、生徒たちがレオ君に気づいた当たりで、
「えっと、私のサポートをしてくれているレオ君と、こっちがユーリ。二人とも副教師だから、みんなしっかり敬って――って!?」
私が話を終える前に、生徒たちが一斉に近づいてくる。なんだなんだ、と思っていたら、二人の姿をまじまじと見て、少し興奮交じりに語りあっていた。
「すっげぇ、獣人初めて見た!」
「レオ君……レオ先生?のほうは獣寄りの見た目なんだね!」
「ユーリちゃんかわいい!」
「先生!撫でていいですか!?」
等々である。
どうやら、獣人という者を見たことがなかった生徒たちにとって、尻尾と獣耳はとても魅力たっぷりに見えたようだ。
「えーっと、じゃあ授業時間余ってるし、副教師二人の鑑賞会でもやりますか!」
「「「やったー!」」」
「「え!?」」
おっと、反対派はどうやら二名だけのようだ。
「残念だったね二人とも。この世界は民主主義なのだよ!」
「「えー!?」」
そうして、私も生徒に交じり、二人をからかうのであった。
――生徒たちと仲良くなれたような気がして、浮かれていたが……後日、二人から怒られるのは、今のベアトリスには知る由もなかったのである。
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