第229話 探し人

 それらを何百回、何千回と繰り返す。


「ねええ!これいつになったら終わるの!」


 私はもうとっくのとうに疲れ果てていた。

 体を起こすのも大変だ。


「うーん、あと数年分くらいかな?」


「!?」


「狙った記憶を再現できるわけじゃないから、これが当たり前でしょう」


 流石、百年間閉じ込められていただけあるな。

 精神力が半端ない。


 ここの空間と現実世界の時間の流れは違っていて、単純計算、現実で百年間、ここでは百万年程度の時間が流れてる計算になったり……。


 あら、私計算早い。

 流石!


「じゃないよ!私そんなに耐えられないんだけど!?」


「まあ、それは気長にやっていくしかないわね」


「そんなぁ!」


 軽く絶望するのだった。



 ♦♢♦♢♦↓色欲視点↓



「え?いなくなった?逃げ出したの?」


「そんなの知らないよぉ、私が目を離した隙に逃げ出したのかもしれないし、どこかに隠れているかもしれないし」


 強欲からそんな話を聞かされる。


(逃げ出した?ここは現実とは隔離してあるのよ?転移した……それにしても、私たちが気づかないなんておかしい)


 ベアトリスという少女を連れ出したところまではよかった。

 だが、まさか逃げ出されるとは思わなかったのだ。


「いえ、違うわ。やはり逃げ出せるわけない」


 確かに彼女からは並々ならぬ力を感じたが、誰にもばれずに逃げ出せるほどの力の差は私たちにはない。


(つまり、どこかに隠れている?)


 気配の遮断を極めているのか?

 どうでもいいが、ここのどこかにいるのは間違いない。


「ったく、面倒なことをさせてくれるわね」


「じゃあ、私は宿に帰るとするよ」


 強欲は、相変わらずの不愛想な顔で出て行った。


 それとほぼ同時にそいつが現れたのだ。

 いつも通りの入り方に、私も慣れていた。


「タイミング最悪」


「やあやあ、元気してる?調子どうよ」


 その男、傀儡はどこからともなく現れた。


「調子は最悪」


「なにかあった?」


「ベアトリスを連れてくるまではうまくいったのだけど、隠れちゃってね」


「ふーん、流石って言っておこうか」


 傀儡はベアトリスに賞賛を送っていた。


「珍しいわね」


「王国の英雄様の子供で、上の三兄弟とは違い、すべての才能を引き継いでいるんだ。そりゃあ警戒もするし、悪魔に狙われながら、ここまで生き延びてるの彼女が初めてなんじゃない?」


 公爵家が長女、ベアトリス・フォン・アナトレス。


 その上には三人の兄がいた。

 三男は剣の才、次男は魔法の才、そして長男はよくわかっていなかった。


 ただ、どこぞの貴族と婚約して、早々に姿をくらませたので、行方も分からないため、死んだものとみなそう。


 確かにあの忌々しい聖騎士女の才能を引き継いではいる三人。

 だが、ベアトリスだけは違い、その才能をすべて引き継いでいるらしい。


「何度も言ってなんだけど、うちらのボスですら、『化け物』と言っているんだから、相当だよな」


 私が所属する組織にはもちろん頭がいた。

 ボスは、強い。


 私よりも強い。


 数年前に一度、傀儡がよく話す悪魔と争ったそうだが、決着はつかなかったそうだ。


 その悪魔ですら、メアリに一度負けている。

 そうなれば、ボスもメアリより弱いことになる。


 メアリの下に、ボスと悪魔、さらに下に私たちと考えてくれたらわかりやすいと思われる。


「それと、ここに来るまでに見てきたんだけど、お前の治めてる国でなんか面白そうなことが起きてたぞ?」


 突然そんなことを言い出す傀儡。

 水晶を取り出し、国を観察してみれば、そう言った理由は大体わかってきた。


「何こいつら」


「な?面白いだろ?」


 水晶の中には、何やら怪しげに動く影がいくつもあった。

 身長で年齢を計るのであれば、平均年齢十歳前後といったところか。


「そいつら、ベアトリスの仲間なんだけどさ、お前の城までの行き方を探してるっぽいぞ?」


「ふーん」


「あんま驚かないんだな」


 別に、行き方なんていくらでもある。

 その中の一つを見つけ出し、ここに侵入してきたとしても、焦るようなことではない。


「いらないやつは殺すだけだけよ」


「ひゅー、怖いねー!」


 水晶に映る影はとある宿を出入りしていた。


(ここは、強欲がよく泊ってるところね)


 あいつなら、面白半分で、招待してきそう……。


 はぁー、面倒事が増えるのは嫌だわー。


 そう思って水晶を眺めていると、その中に映る一人の少女が目に留まった。


「こいつ、どっかで見たことが……」


 一人、フードを付けていない吸血鬼がいた。

 その容姿は過去に一度見たことがあったような気がする。


 でも、私がじゃない。


(あれから、百年は経つわ。早く、早く見つけないと……)


 私が、罪人となってから百年。

 別れてから百年だ。


「じゃ、進展ないんだったら、帰るねー」


 そう言って帰っていく傀儡。

 私の目的は彼も知らないだろう。


 目的……それは、とある吸血鬼の男を探すこと。


『嫉妬』とは似て非なる目的だ。


 最後にあいつが言っていた言葉が耳の中に残っている。


『バイバイ』


 何がバイバイだ。

 ふざけるな。


 私は諦めない。

 絶対に見つけ出してやる。


 百年?

 そんなの吸血鬼の寿命から考えると短い時間だ。


「さっさとベアトリスを回収しないと」


 ベアトリスを探すためにリソースを割くわけにはいかないのだ。

 それ以上に重要なのだ。


 あいつが見せた最後の笑みを思い出しながら、私はいつも通り、水晶で彼の行方の探すのだった。

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