第204話 宿屋の隣人
私たちはネルネの案内に頼り、道を進んでいく。
今度はしっかり、ローブをかぶって、偽装もしっかり!
街の中は朝見た時と何ら変わらない。
そして、その相手側の宿がある場所というのは、街の反対側だった。
まあ、そんなに近所に宿があるわけないよね。
そして思った。
何度見ても街の外観が王国と似ている。
偶然なんだろうけど、かなり珍しい。
違う地域によって発展の仕方が変わってくると思うのだけれど……。
特に気にする必要もないので、私はネルネと二人で歩いていく。
ユーリは少年……あ、名前聞いてなかった……の相手と、レオ君はもう一眠りするというね。
ネルネは道案内に必要だしで、結局二人になったというわけだ。
「あ、ここです!」
「ここ?」
ネルネが目の前、斜め上を指差した。
そこには、かなりでかい建物が建っていた。
高さが……というわけではなく、横に広い。
それは宿というよりも屋敷だった。
豪華な装飾があり、庭も付いていて、とにかく広い。
家が立ち並ぶ中で、一際目立つその屋敷は意外にも風景に溶け込んでいた。
「なにこの成金が建てたみたいな宿……」
「ですよねー!ぜんっぜん宿の良さをわかってないです!」
質実剛健というか……それがネルネが目指す宿のモットーであり、それとは真反対の豪華絢爛な宿。
元公爵令嬢として見ても、かなり大きい部類に入るその宿に文句を言っても何なので、ひとまず中に入ってみることにした。
「この広さ……維持費は一体いくらに……」
あたりを見渡して、憎たらしそうに呟くネルネ。
ザ・貧乏な宿のネルネからしてみれば、羨ましいことのなにものでもないのだろうなー……。
宿には柵のようなものはついておらず、すぐに中に入れた。
中に入っても特に視線を感じることはない。
朝、昼に活動する吸血鬼はいないので、当たり前なのだが。
ちゃんと宿までの少し距離がある道も整備されていて、カツカツと音が鳴る。
ようやく入り口に着いたと思ったら、ネルネの脳内計算が終了したようだった。
「維持費は大金貨五十枚……経費は……何ですか、この無駄遣い……」
「いいから、早く入るよ」
扉は木でできていた。
濃茶色でできているそれは、かなりモダンな雰囲気を醸し出している。
扉を開けると、
「「「いらっしゃいませ!お客様!」」」
声が何重にも聞こえて、私たちの耳を痛める。
そして、目に入った従業員らしき人物が全員、私たちに向かってお辞儀をしているのが見えた。
その中の一人が前に出てきて、
「さあ、どうぞお客様こちらへ」
「わ、ちょ!」
もはや拒否権はなく、背中を押され、受付まで無理やり連れて行かれた。
ネルネもそれに続く。
受付には美人な女性がいて、その人も礼儀正しくお辞儀をした。
思わず私もお辞儀をすると、
「綺麗な所作ですね」
「へ?あ、はい」
いまだに体には貴族の処世術が染み付いているようだ。
「お二人でよろしいですか?」
「「え」」
受付に来てすることといえば……
「チェックインは何時にいたします?」
「あ……」
幸いお金は持ってるんだ……。
(どうしてこうなったかは知らないけど、まあ!悪くはない!)
このまま中に潜入だあー!
「今、空いてる部屋はありますか?」
「はい、ございますよ。一部屋あります」
一部屋……。
流石に人気な宿だけあって、ネルネの宿とは満室度合いが違う。
「こちらが鍵になります」
「どうも」
渡された鍵には『201』と書かれていた。
あれ?
やっぱりこのまま泊まる流れですか?
なんかここら辺で、誰かに絡まれてうやむやになったり……。
しないか。
渡された鍵に従って二階へと向かう。
階段は螺旋式になっていて、かなり明るい。
照らされた階段はなぜ崩れないのか分からないくらい幅が広かった。
王国の技術では再現できなそうだ……。
階段を登っていけば、すぐに廊下に出た。
なぜか、一階には大量の従業員がいたのに、二階には全くいない。
何でだろう?
無駄に一階部分が広いせいで、二階はかなり狭く感じられた。
だとしても、
「廊下……私の宿よりも……酷い」
普通にネルネの宿より二倍くらい広かった。
そこを進んでいくと、奥までたどり着いた。
「この部屋かー」
「まだ!まだ分からないです!まだ私の宿の方が優れてるかも!」
「圧倒的に大差でしょ……」
諦めないネルネの尻目に、私が渡された鍵で扉を開けようとした時、
ガタン
音がして、横の扉が開いた。
『201』の部屋には隣に『202』しかない。
その部屋から、何かが出てきた。
そこから出てきた人と目があった。
その瞬間、私の体に嫌悪感が湧いた。
「どうしたんですか?」
ネルネはわからなようだが、私にはわかる。
(この人……強い!)
その出てきた“女性“は気怠そうな目をしている。
灰色の髪をして、ボサボサに伸ばした髪は左目を隠している。
私が警戒しているのに、気づいたその女性はニヤッと笑った。
ネルネを庇う姿勢をとって、構えていたが、
「隣の部屋の人ね。よろしく」
「……………」
「じゃ」
そう言って、廊下を進んでいく。
階段の方に。
(何なの?)
私が感じた嫌悪感は一体なんだったのだろうか?
体から出ているオーラというか……違和感があったのだ。
魔力感知で見えるはずの魔力は、霧がかったように見えない。
強い……そのはずなのに、気怠そうな目をしている。
「お客さん?早く入ろう?」
「あ……うん」
袖を引っ張られ、我に返った私はひとまず部屋に入るのだった。
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