第118話 儚い命(傀儡視点)

 斬り合いは永遠に続くことはない。


 いや、斬り合いではなく、リンチである。


 そう、傀儡こと俺はボコされていた。

 まじで死んでしまうと思ったくらいに、メアリにボコボコにされている。


 メアリが本気ではないからか、俺の体は原型を保っているのが不幸中の幸い。

 こちとら、武器が折れて素手で戦っているのが現状。


 対して相手は魔法で創り出した剣を使っている模様。

 さらに、相手の方が実力でも上。


 あれ?


 人生詰んだ?


 そう思えるくらいに身体中ズタズタに斬られまくる。

 だが、タダで死ぬつもりはない。


 少なくとも道連れにはするつもりだ。

 なんとか、ベアトリスと獣人はなんとか抑えられている。


 あの二人がこっちに向かってくる前に、メアリを再起不能にする。

 それぐらいしなければ、俺の死が無駄になるからね。


 うん……。


 ほぼ確定で死ぬから。

 ただ、それは肉体での話だ。


 ワンチャンユーリ様の時と同じように脱出できるかもしれない。

 その時は、また謹慎だけで済む……といいなー。


 謹慎と言われつつ、結構活発に活動しちゃったけどね!


「しぶといですね」


「褒め言葉として受け取っておくよ」


 苦い表情をするメアリ。


 そこで疑問に思った。


 なぜ、必死になって殺そうとしているのか。

 メアリの実力なら、余裕を持って倒せる。


 わざわざゆっくりと時間をかけて倒す必要なんかない。

 なのに、なぜ本気を出さない?


 獣人や、ベアトリスも戦っているのに、長引かせるのはおかしい。


 ってことは、


「本気を出せないとか?」


 今までのメアリについては協力者の少女から伝え聞いていた。

 まあ、勇者とリアルガチでタイマンできるくらい強かったらしい。


 は?


 ってなるよね。

 それを親子揃って引き分け……二冠達成おめでとうございます!


 とは、ならないが、さすがにそんな実力者なら俺なんて瞬殺だ。


 だが、どうやら少し会話が噛み合わない。


 ベアトリスとメアリ。

 お互いがお互いのことを知らない人物……赤の他人のように接していた。


 その様子から、俺の使った“能力“はまだ効果が残っている模様。

 記憶はまだ戻ってないのだろう。


 記憶と一緒に、本来の力も忘れたのか?

 それはどうでもいいが、そこら辺の理由によって、本気を出せないのは間違いない。


「だったら、俺はとことん時間を稼ぐまでだ」


 ベアトリスはオリビアに攻撃できない。

 獣人の方は実力不足。


 であれば、俺がこのまま耐え切れば、獣人の方から拮抗が崩れてやがて勝てる。

 それまで耐えるのみ!


「まずいわね……」


 何がまずいのかはわからないが、メアリから焦りを感じ取れた。

 何かがあるのか?


 魔力が少なくなっていることから、剣での戦闘が困難になりつつあるとかか?

 どっちにしろ俺は、今まで通りにやるだけだ。


 そう思っていたが、


「そろそろ、本気でやらなくちゃ」


 その声とともに、メアリが内包している魔力のほとんどが外に溢れ出してくる。

 それは徐々にメアリの体を覆っていき、やがて鎧と剣に変化する。


 先ほどまで持っていた剣よりも一回り大きく、鎧は白く輝き、メアリの全身を覆っている。


「次で仕留める!」


「やれるもんならやって——」


 そう言おうとした時だった。


「あ、れ?」


 視界が反転する。

 何も見えなくなったわけではない。


 目線下にオレンジ色になった空が見え、上に地面が見える。


 そして、地面の方向に視界が落ちていき、


「お、俺の体……」


 立ち尽くした自分の肉体が見えた。

 しかも、首がない状態で……。


(はは……こんなの勝てるわけないだろ)


 要するに首を斬られたのだ。

 一瞬のことすぎて、まだ脳は動いている。


 だが、じきにすぐ止まるだろう。


 その前に性質を使って、魂を取り出さないと……。


 そう思い、残りの魔力を使おうとした時、


 《ちょうどいい。魔力がきれかかっておったのだ》


 そう声が聞こえ、一匹のキツネが近づいてきた。


『な!?ユーリ……』


 そこには、俺が連れ帰ろうとしていたキツネがいた。


 《魔力、もらい受けるぞ》


 そう言って、俺が使おうとしていた発動仕掛けの魔法分の魔力……つまり全ての魔力がゴッソリと奪われた。


(あはは……こりゃ一本取られたな)


 こうなったら、もう俺の逃げ出す方法はないわけだ。

 つまり、


 死


 俺はここで死んだ。

 肉体もやがて腐るだろうし、復活は無理そうかな?


(まったく、ベアトリスたちに関わるとろくなことがないな……)


 それだけは言えるだろう?


 ベアトリスがいくところ全てに、組織の陰謀があるというのに……。


 八咫の雲という組織があった。

 そこは俺たち黒薔薇に、物資を届ける役割を担っていた。


 だが、そこもベアトリスに潰された。

 逆にこっちから襲撃を仕掛けたら、幹部が行方不明になり、連れ出した魔物はほぼ全滅する事態。


 ここ数年で、うちの組織は赤字同然だよ……。


(はあ、俺も死ぬのかぁ〜)


 死ぬっていうのはどんな気分なんだろう?

 さすがに俺の性質でも死からは逃れられない。


 協力者の少女でさえ、まだ寿命から解放されない。


(ま、いいさ)


 ここまでというわけではない。

 ただ、俺のができないというだけのこと。


 まだ、組織に武があるのだ。

 俺が死ぬことで、計画は先送りになるどころか、早まることだろう。


 俺という抑止力がなくなるのだ。

 少女がどんな暴走をしでかすかな?


(ふふふ、待っていろよメアリめ……。今度は俺が……!)


 そこで俺の意識は途絶えるのだった。

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