第105話 結局
翌日の早朝——
結局寝れませんでしたとさ……。
最悪である。
かなり魔力を消耗したはずなのに、眠気が一切襲ってこなかった。
一体全体何がどうしたらそうなったというのだ!?
私は、ちゃんと仕事をしてきたんだぞ!?
なのに、眠気は襲ってくることはない。
学院の授業の時みたいに襲ってこいや!
昨日は馬車の中四時くらい?に起きた。
そこから寝てないということはすでに二十四時間、一日中ずっと起きているということになる。
現在朝の四時過ぎ。
まだ、みんな寝ているが、メイドさんたちは起き出すような時間帯。
警備はそろそろ交代。
朝の早い貴族どもならすでに起きてるかもね。
そんな時間帯である。
なのに、私ときたら一睡もしてないのだ。
これは大問題である。
今日からきっと私も遠征の調査に乗り出すことになるだろう。
にもかかわらず、眠れていないのは、周りの冒険者たちに迷惑をかけなかねない。
勇者たちにとって、私がいてもいなくても負担の量は変わらないだろうが、きっちり調査しないと、後々勇者一行、特にミレーヌに怒られそうである。
微妙に敬語じゃないミレーヌに怒られるのはなんとなくムカつくのだ。
何だろう?
私の方が目上なのに、『あっれれ〜?ベアトリス様ぁ〜、どうされたんですかぁ〜?』というめちゃめちゃにうざい心配のされ方をしたりと、こっちも気苦労が絶えんのだ。
なんの対抗意識かは知らないが、突っかかりはよしと欲しい……。
そんなことを考えている間にも、
「キュン!」
ユーリは元気よく走り回っている。
なんでだろうね。
なんでこんなに元気がいいのか意味わからんのだが……。
ユーリは至る所をちかしたりして、遊んでいる。
それ自体は別に良い。
だが、
「キュン!?」
自分で落とした物がたてた音にびびって声を上げるのはやめてくれ……。
定期的に、ガシャンとかドスンという音がなり、そのたんびに『キュン!?』という鳴き声が聞こえてくる。
ユーリもほとんど寝た様子はなく、私の眠れない視界内で、遊びまくっていた。
かまって欲しかったのか、今となってはどうでも良いことだ。
少なくとも、寝れなかった理由にユーリの存在があるのは間違いないだろうな。
だが、ペットの怒っても仕方ないため、私は気分を切り替えることにした。
「ここで、スリープが使えたらなぁ」
私は馬車の中でそれを多用していた。
そのせいで、その魔法だけ!効きにくくなってしまった。
いや、使いすぎたと言ってもあれだよ?
一日に数回だよ?
あ、それは多い部類ですかそうですか……。
でも、完全に効かなくなったわけではない。
私の全魔力を注ぎ込んで、フラッとするくらいである。
実質ほぼ私は寝れなくなった。
そのせいなのか?
一ヶ月間。
ほぼ寝たきりの状態だったから、『お前の体に睡眠なんて必要ない』って神様が言ってんのか?
だから、寝れないのか?
神様のせいにするのは良いとして、この時間帯、ユーリの相手をするのも良いが、ユーリは一人ではしゃいでいるみたいなので、私は外に出ることにする。
(そういえば、あの兵士たちはどうしたかな?)
そろそろ見張り交代の人に見られて怒られている頃かな?
ふふふ、と笑いながら、私はそことは別の場所まで足を運ぶのだった。
♦︎♢♦︎♢♦︎
「領民というのかなんというか……帝国民ってこんな朝早くから起きてんの?」
帝城を抜け出して気晴らしに、本気で帝都の観光に乗り出した私。
そこで見たのは、自分の領地ではあり得ない光景だった……。
なんとそこには、まだ四時になったばかりなのにもかかわらず、住民が出歩いているではありませんか!
公爵領では、みんな六時くらいからだったのに……。
帝国民は四時からせっせと働いている。
大変なのか?
そこまでしないといけない理由があるのか?
パッと適当にお店の看板を見る。
酒場の看板だった。
「二十四時間営業?」
なんだその超絶ブラックは!
そんなことしたら死んでまうだろ!
しかも、店員募集してるって、人数たりてないの?
少人数で一日中営業してんの?
それ生きてんの?
だからかは分からないが給料はそれなりにいいっぽい?
一時間、時給が銀貨一枚だって。
銀貨は市場に出回っている一般的な硬貨のことだ。
銅貨十枚で銀貨一枚、銀貨百枚で、金貨一枚。
ここら辺を覚えておけば問題ないだろう。
価値としては、銅貨一、二枚でパンを買うことができるくらいである。
銀貨一枚だったら、お店でご飯を食べられるくらいだな。
「一時間でそれだけ稼げるなのね……」
ちなみに、私はまだ子供で稼いだことはない。
それに、前世では結婚が決まっていたので、そんな経験もない。
ということで、こういうのを見て勉強しておかないと、一人で生きていく時に大変である。
それだけはわかった。
「一人暮らし……やっていけるかなあ?」
朝早くからせっせと働く人たちを見ると自分にできるか不安になってくる。
でも、私はその自由が欲しい。
めんどくさい貴族社会とはおさらばしたいのだ!
だから、私は諦めないよ。
働いて、一人で生きていくのだ!
♦︎♢♦︎♢♦︎↓帝国兵視点↓
「一ヶ月内で何が起こったんだ?」
担当の医師に向かって俺は聞く。
「気分もだいぶよくなったのか?なら話してやろう」
ゴクリと喉を鳴らす。
「まず、帝国騎士団、団長がその座を降りた」
「は?」
帝国騎士団とは、帝国という国ができた当初から存在する組織で、ずっと帝国の矛として、戦っていた騎士団である。
何を隠そう、俺もそのうちの一人だ。
皇帝陛下から、『帝国』の名前を背負わせてもらっていることからも、騎士団にはトップの実力者が集っていた。
自分はようやく入れただけの下っ端なんだがな……。
「って、なんで団長が辞めたんですか!?」
「理由は……本物の強者を見たから、と」
「な、なんですかそれ?」
団長はもちろん帝国屈指の実力者なのは間違いない。
コネなど関係なしに、己の力のみで上り詰めた人だった。
「そんな人がなぜ……」
「さあな、分からん。なんせ、俺はただの医師だからな」
「それは良いですけど……続きもあるんでしょう?」
さっきからいろいろあったと言っていた医師。
きっとこれだけではないのだろう。
「勘がよくて助かるよ。次になんだが、宰相の男が同日に行方不明となったそうだ」
「はい?」
宰相位を持つ者というのは国のトップに近しい存在。
皇帝、総帥、その次くらいには偉いんじゃないだろうか?
そんな男が行方不明になるのか?
申し訳ないが、名前を覚えていないくらい当時の自分にとってどうでも良い、縁のない人だと思っていた。
だが、こんな風な話を聞くと、他人事だと思えない。
「そして、いなくなる前日が……」
一度言葉を溜める医師。
そして、
「その前日がお前が何者かによって眠らされた日だ」
「……その話は詳しく聞かせてくれ」
俺が気絶した次の日、団長と宰相の席が空いた。
何か関係があるのは間違いなかった。
「医者として、知っている範囲なら答えてやろう」
「ありがとう」
俺たちは話にのめり込むのだった。
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