第16話 ベアトリス、誕生日会をする
アレンと会ってから数日ーー
今日はなんと………私の誕生日(前日)です!
まあ、何が言いたいかっていうとね、明日になったら私も五歳児の仲間入りというわけよ!
前世での五歳の誕生日は、確か誕生日会を開いたはずだ。
(そこで、殿下と初めて会ったんだっけ?)
もう覚えていないな……。
私が死んだのが、十八くらいだった。
五年も経ったのだ。
考えたくない思い出だったので、死んだ時の年齢すら忘れてしまった。
私は、ベットに寝っ転がって頭を叩く。
(考えんとこ………)
今世では殿下とは無関係に生きるのだ。
今更前世がどうのという気はない。
(それに、この誕生日会で会わなかったとしても、きっと婚約はさせられるんだろうね)
王家はできるだけ血筋を残そうと躍起になっている。
だからか、公爵家………王家に近しい血筋のものと婚約させるのが一般的だろう。
中には、兄妹で婚約をしたものもいたらしい。
私では絶対にできないことだ。
血筋を重要視しているのを考えると、私が一番王家に近しいというだけのこと。
だったら、婚約を必然になってくるわけ………。
(あれ?でも、私にも姉妹がいたら?)
いい考えを思いついた!
私との婚約をできた妹に譲ればいいのだ。
妹はいないが、作って貰えばいいだろう。
(私は不出来な娘を演じて、出来た妹を婚約させて……私はどうしよう?ちょっとだけ殿下に恩を売ったらどこか遠いところで一人暮らしなんてのもいいかも!)
生まれてくる(予定)の妹に全てを押し付けるのは申し訳ない気もするが………前世を経験している私から言わせて貰えばご褒美のようなものだ。
(最後の処刑の日以外はほとんど殿下は優しく接してくれたもの)
処刑台での台詞で印象がガラッと変わってしまったが、基本的には殿下は誰にでも優しい。
だったら、きっと妹(予定)も不満に思うこともないだろう。
しかも、処刑されると決まったわけではないからね。
「なんていうお得パック!」
ジタバタしながら、喜びに顔を埋める。
(後で母様にでもいいに行こう)
子供なりにストレートに『妹が欲しい』と………。
♦︎♢♦︎♢♦︎
結果発表!
許可をもらいました!
なんのかって?
妹のだよ!
流石に自分でもめちゃくちゃ恥ずかしいことを聞いたと思う。
(いや、まあ、ね?ほら!……。だし。うん)
とにかく妹ができる可能性が上がったのだ。
よしとしよう。
なかなかに私も性格が悪いようで……。
でも、私はもう一度地獄を味わってしまったので、誰かを犠牲にしてでも、助かりたいと思ってしまうのだ。
(もし、妹が処刑されそうになったら全力で助けよう)
それで許してくれ………我が妹(予定)よ。
もう一度ベットの中に入り直すと、先ほどと同じ動作を繰り返す。
(でも、まず問題は明日の誕生会なんだよね)
もし、ここで殿下に気に入られでもしたら、妹ができる前に婚約をさせられてしまう。
別に殿下のことが嫌いなわけではないが、甘い生活から一気に地獄へ叩き落とされるほど苦痛なものはないだろう。
つまりはそういうことだ。
(でも、明日は絶対に出なくちゃいけないし………)
上位貴族の子供となれば、一定の周期………例えば、五歳、十歳、十五歳という風に、誕生日会、もしくは成人式的なものをする必要がある。
一種のパーティーと思えばいいだろう。
そのパーティーに主役が出ないなんてことはあってはならないのだ。
そして、一番の問題がーー
「スピーチかぁ〜」
私の誕生日に来てくれてありがとうございます!的なことを他貴族の前で言わなければならない。
それは殿下も見ているということ。
殿下がその後私に接近してくる前に逃げ出す必要がある。
なぜ近づいてくるとわかるかといえば、王家の一員だったとしても、公爵家に挨拶にいかなければならないのだ。
年の近いものだったとしたら尚更。
将来の結婚相手の下見とでも思って欲しい。
(挨拶を受ける前に体調不良で、逃げる!これだ!)
妙案が今日はよく浮かぶな……。
自分で睡眠薬を飲んで医務室で寝るとしよう。
睡眠薬の方だが、もうすでに用意してある。
なぜかって?
犯罪組織から押収したんだヨ!
私が初めに組織を潰して回ったんだから、戦利品をもらってもいいでしょ?
ということで、一部のお薬やら武器は私は隠し持っていまーす!
(なんて用意周到なのだろう!私!)
最高だ。
たまにはこういう日があってもいいだろう?
「そうと決まったら、早速セッティングをしようかしらね!」
予定としては、玄関口を会場とするということだ。
これは前世と変わっていない。
まあ、別館でもいいらしいが、一番豪華に作られているところの方が威厳を保てる的な理由で玄関だそうだ。
(とすると、王家の人間はおのずと真ん中のテーブルに座ることになるよね。真ん中は警戒っと)
きっと、現国王陛下も来ることだろう。
殿下の付き添いというのも理由だろうが、父様に会うというのも目的になってくるだろう。
自慢じゃないが、私の父様は王弟………現国王陛下の弟なのだ。
顔を出さないなんて、そもそも家族としておかしいのである。
「警戒すべきは父様と母様、それに兄様方も………現国王陛下と最重要警戒人物として殿下ってところね。ひとまずはこの人たちに警戒を配っておこう」
それに他の貴族から告げ口なんてのもあるかもしれない。
そうなったら非常に面倒くさいことになる。
薬を自分で飲み物か何かに入れているところでも見つかったら不敬罪と、殺人未遂罪などで捕まってしまう。
ので、申し訳ないが魔法を使うとしよう。
「確か不可視化の魔法があったはずだけど……」
効力は簡単、魔力がある限り、自分の存在を見えなくさせる。
スパイ活動をしている者からすれば、必須項目なのだ。
それは私も必要になってくるとわかっていたため、すでに習得済みである。
「試しにミサリーにいたずらしてこよう!」
夜中に私は抜け出し、ミサリーのいるだろう部屋にまで足を運ぶ。
♦︎♢♦︎♢♦︎
「みっけ………」
自室にいるミサリーを発見した。
ミサリーは特別で個室を与えられている。
多分私付きのメイドだからだと思う。
まあ、今はそんなことは関係ないのだ。
「え?あ、あはは!」
ミサリーの脇腹をくすぐる。
魔法を発動しているため、見つかってはいなさそうだ。
(よし!魔法の実験は成功だね!後は………)
とことんくすぐるだけ!
「あはは!ちょ、たんま!やめ…あはは!」
大声で笑うミサリーを久々に見た。
最近は心配事をかけてばっかりなので、こんな顔はなかなかしないのだ。
まあ、主に原因は私なんだけれどもね!
(ミサリーより人生経験豊富なんだからね!)
だから、許して!
一応前世と年齢を合計したら、私の方が年上ということになろう。
ミサリーが何歳かは知らないが、見た目的に二十歳くらいだ思う。
別に年齢を知りたいわけではないし、知ってどうこうするつもりもないため、今まで聞いてこなかった。
(そういえば、ミサリーって前世にもいたんだっけ?)
前世ではミサリーなんて名前は聞いたことなかった。
単に私が覚えていないだけかもしれないが、記憶にないのも確かであるため、なんともいえない。
(もしかして、もともといなかった?)
ミサリーは確か、メイドになる前に別の職業に就いていたはず………その時点でミサリーがいなかったのかな?
(死んだ………ってそんなわけないか!)
どんな職業をしていたらこんなに可愛い女性が死ぬことになるんだか!
冒険者とかをしていたなら別として、ミサリーはしなさそうだしな〜。
(まあ、いいか。気にしないでおくほうがよさそう)
そんなことを考えながらくすぐる。
だが、時間が経っていたからだろう。
勘の良いミサリーにはすぐにバレるわけでーー
「お嬢様ですね!?捕まえました!透明化の魔法なんてちょっとしか騙されませんよ!」
涙目になりながら、私の見えない体を持ち上げるミサリー。
(ちょっとは騙されんのね……)
ーーその後、三十分に渡って説教をされた。
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