魔王伝 - 不滅の魔人 -

竹取GG

0話 地球からの転生者

  おれは……誰だ?



  意識が朦朧もうろうとする中で自分自身に問いかける。

  思い出したいが思い出せないことがある。

  あるのは曖昧あいまいな記憶だけ。

  自分の名前すら思い出せない。


  だが、覚えていることも多少はあった。

  確か、おれは人間だった。

  人間として生を受けたおれは、その人生をまっとうして生涯を終えた。


  そう、おれは死んだはずだった。

  しかし、これはいったいどういうことなのだろうか?


  意識というのは死んだら消滅するものだと思っていた。

  おれのこの思考を含め、ありとあらゆる感覚も認知も《無》となるものだと思っていた。

  しかし、肉体は失ったようだが確かに今おれは自分という存在を認識できている。


  もしかしたらこれは死後の世界なのかもしれない。

  死んだ者は、魂が肉体から離脱して神々が暮らす天界へと導かれると語る者たちがいた。

  ここがその天界とやらなのかもしれないな。


  だとしたら、おれは一生この何もない世界で意識だけが存在し続けるのか?

  それは苦痛でしかないな。

  誰かに助けて欲しいが、おれの他にここに人はいるのだろうか?

 

 心の中でおれは叫ぶ。



  ——だれかいるのか?——



  しかし、おれを取り巻くこの状況は一転しない。

  ここにはおれしかいないのかもしれないし、いたとしても意思疎通ができないのかもしれない。

  こうしておれはこの状況に抗うことをやめた。




  ◇◇◇




  どれくらいの時が経ったのだろう。

  もう、自分でも感覚がわからなくなっていた。


  変化のないこの現状に、おれはただただ自分の意思を殺し、無心でいることしかできなかった。

  いまさら人生を思い出そうとしてもどうしようもないからだ。


  覚えている限りは悪くはない人生だったと思う。

  家族がいて、友がいて、自分の役割が与えられていて——。


  一人孤独に闘わなければならないこともあったが、それでも自分の通した道を歩んでいくことができたと思う。

  だが、それも過去の話だ。


  過去を思い出したところでこの状況は好転しない。

  だから、おれは何も考えずにいるのだった。




  ◇◇◇




  こうして、さらにどれだけの時間が経ったのだろう。

  おれはふと光に包まれる気がしたのだ。


  そして、おれの意識が段々と遠のいていく。

  記憶があやふやになっていく。

  おれは二度目の死を覚悟した。


  ここから抜け出せる。

  そう思うと少しだけ喜ばしかった。

  そして、おれの意識は完全に消滅したのだった……。




  ◇◇◇




  おれの意識が再びはっきりとしたとき、おれは新たな人生を歩み始めていた。


  そこは人間ではない知性ある生き物たちが暮らす世界。

  さらには、魔法と呼ばれる摩訶不思議な現象が存在する世界。


  この魔界まかいと呼ばれる世界で、おれは魔人まじんという能力に恵まれない劣等種族として人生をやり直すこととなったようだ。



  これはかつて人間としてその生涯を終えた男の第二の人生の物語。

  魔界で《不滅の魔人》と呼ばれた一人の劣等種の物語だ。

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