第15話


 空から見下ろす街は悲惨の一言に尽きる。


「街全体を治癒の聖術で覆って、街の中の魔物を聖槍で一体残さず殺し尽くす」


 ……控えめに言って無理だ。


 女神の力は万能ではないことは先程の初老の男との件でも良く分かった。


 人の世界で女神の行使できる力は制限されているのだ。


「でも、総量が増えれば上限も増えるんだよな」


 神は人の信仰によって力を増幅させる。それこそが女神が神界で追放された理由でもあるが。


 つまるところ、今この場で人々の信仰心が高まれば俺の力は増幅されるのだ。


「さあて、俺の存在を、女神の存在を街の皆に知らしめてやろうか」


 俺は翼を一層輝かせ街全体を光で覆った。


 そして傷ついた人を手あたり次第治療し、危害を及ぼそうしている魔物に聖槍を投げ飛ばす。


「俺に気付け。そして神を崇めろ」


 俺は力に限界がくるまで全神経を集中させて街中に目を向けた。


 持てる力は少ない。なので危険度が高ければ高いほど優先的に処理する必要がある。


 逃げ纏う人は後回し。脚を怪我した人や身体の部位を失った人を優先的に治癒していく。


「気づけ。気づけ」


 いや、街の人は皆気づいている。だが信用されていない。


 何故か?


 そんなのは決まっている。


 つい最近教会が一つの幸せな家庭を破壊したからだ。


 教会への不信が女神への不信につながるのは当然のこと。坊主憎けりゃ袈裟まで憎いってわけだ。


「くっそおぉぉ!!」


 それでも俺は減り続ける女神の力で人々を守る。俺にできるのはこのくらいだから。


 足りない。足りない。


 もう力が無くなるというときだ。


「天を見てください!!!! あれがあなた方には何に見えますか!?」


 俺の真下で聖女が街の人に訴えていた。


「あなた方を助けているのは天ですよ!! それに対し何を迷っているのですか!?」


 また別の場所でも天を讃える声が聞こえた。


「見えませんか!? 苦しみながらも街を守ろうと歯を食いしばっている姿が!? 私の領地には近眼しかいなかったのですか!?」


 スイネだ。


 二人が俺のために街のために声を張り上げて訴えかけてくれている。


「はは、」


 なんてことだよ。


 つい最近俺は一人で復讐を果たすとかほざいてたのにこのざまかよ。


「ありがてぇ」


 力が湧いてくる。


 これは街の人が俺に、聖女に、スイネに応えてくれた証だ。


 翼が増える。光輪が浮かぶ。後光がさらなる輝きを纏う。


 太陽が街を見渡すように陽光が街を抱擁する。


「これならやれる。ありがとうスイネ、それと聖女さ……、フィー」


 街の人には聞こえてないかもしれないけど、せめて二人には聞こえているだろうか。


 下で聖女が脚を崩した音が聞こえた。


「私の名前、御存知だったのですね……」


 自分に好意を寄せてる人の名前ぐらい把握してるに決まってるだろ。


 両の手を水平にし、手のひらを天に掲げる。


「終いだ」


 ――神法


 街中を神の光が覆った。

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