第5話
「あの、助けてくださってありがとうございます」
少女は俺にぺこりと頭を下げた。しっかりと躾けられているのだろう。礼儀が普通の人よりも幾分も高貴な気がする。
「どういたしまして。ご無事なようでなによりです」
少女の礼節に倣って畏まってみる。というか、そうでもしないとまともに話せる気がしなかった。
街中にいたらついつい目を奪われる程度には可愛いかったのだ。なるほど、流石はどこかの令嬢といったところか。
「えっと、そんなに畏まらなくても構いませんよ。寧ろ砕けた言葉の方が安心しますし」
「それなら普通に話すけど、白状すると俺ってかなり口悪いぞ。それに今は顔隠してるしさ」
口が悪く、さらには顔が見えない。……前科持ちの犯罪者と間違えそうな組み合わせだ。止めといたほうがいいと忠告する。
しかし少女は「構いません」と繰り返した。
「まあいいや、どうせもう会うこともないし。次は気を付けて帰るんだぞ」
また捕まっても次は助けられるとは限らない。俺は適当に忠告して少女から去ろうとした。
「待ってください!」
「家には送らないぞ。顔を隠してるのから分かるだろうけど、人目に付きたくないんだ」
俺が少女を助けたのはここが路地裏だったのと、少女が純粋に助けを求めていたからだ。
復讐を果たすのと襲われてる少女を見捨てるのは別問題だからな。
「では、一つだけ頼みを聞いてくれませんか?」
「ごめん。暇じゃないんだ」
寄り道は終わった。なら元の道に戻るのが道理だ。
「顔を、貴方の顔を見せてくださいませんか?」
悩む頼みだ。時間がかからないせいで断るはずだった決心が鈍る。
思い出として記憶に残したいのだろうか。そう思うと断りずらい。
結局、高貴な身分の少女が俺の顔なんか知らねーだろ的なノリで顔を隠していた布を払った。
「これでいいか?」
視界を阻む布がなくなったおかげで少女の顔がより一層見えるようになる。そのせいで見えずらかった表情の変化が露骨に見えてしまった。
少女が満面の笑みで俺に駆け寄ってくる。
「やっぱり! あなたはレストさんですね! 会えて嬉しいです!」
「は?」
何故かは知らないが、どうやらこのご令嬢さんは俺のことを知ってるらしい。
「噂を聞いて私、家を飛び出してきちゃったんですよ!」
は、はぁ。
まさか俺の知らないところにまで俺の顔が知られているとは思いもしなかった。街の人ならともかくこんなご令嬢さんにまで。
ひょっとすると、ご令嬢ではない可能性があるな。寧ろそっちの可能性の方が高い?
「ちなみに名前は?」
「私はスイネ・ネールって言います。街から少し離れた屋敷に住んでます」
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