第231話 罰ゲーム





「いやだーー!!」

「はいはい、帰りますよ〜」



バレーボールが終わった後も海を泳いだり魚を捕まえたり、島の森林を探索したりと休暇を満喫したルイス。

しかし、その楽しい時間も終わりを告げた。

ちょうど十二時ジャストにメイド長であるレミアさんが船でお迎えに来たので、散々駄々をこねるルイスを引き渡した。

本当に子供かお前は………。


レミアさんは手際よくルイスを拘束すると、お礼を言ってからさっさと出港。

あまりの早さに皆も思わず苦笑いだ。

あの手際の良さは過去何回か同じことを経験していないと出来ないだろう。


ちなみに回収の対象はルイスだけだったのだが、エイナも一緒に戻ることにしたそうだ。

理由はまぁ………色々と。


そんな訳で、結果的にいつものメンバー+エルムに落ち着いた。

でもエルムも最近結構な頻度でうちに遊びに来るし、もはや近所の子供みたいなノリなんだよなぁ………。



「大漁大漁ですぅー!ご主人様、どうですか?」

「お、ほんとだ。よくそんなに獲れたね……」



海からご機嫌で帰ってきたイナリの傍らには、これでもかと様々な種類の魚が山積みになっていた。

鮭を狩るクマのようにシュビッ!とやって得たイナリの成果である。

定間隔で海から魚が山なりに飛んでくる光景は今後も中々見られないことだろう。


そして額の汗を拭うような仕草でやりきった感を出しているイナリが羽織っているのは、つい先程まで俺が着ていたラッシュガードもどきのパーカーだ。

実はこれが罰ゲーム。


若干気まずいご褒美の後、ちゃっかり忘れていなかったイナリに罰ゲームが言い渡された。

"ご主人様が着てるパーカーを貸してください"。

最初はなんでかは分からなかった。

しかし。



「ご主人様、胸ばっかり見てちゃダメですよ………!」



どうやら気付かれていたらしい。

いやー、見られてる方は案外すぐに気が付くって本当だったんだね〜…………………純粋に申し訳ねぇ。


という訳で、今はちゃんとパーカーの前も閉められて夢の塊である谷間は封印されてしまった。

残念。

だがこれはこれで大変良き。

彼シャツならぬ彼パーカー…………この、なんて言うんだろう。

持ち上がってる感じが凄くナイスですはい。


………………自分で言っておいてアレだが、一度セクハラで訴えられた方が良いかもしれない。



「わ、いっぱい獲れましたね〜」

「はい!早速お願いできますか?」

「ふふっ、もちろんです。腕によりをかけてお料理しますね!」



テントの前まで魚を持って行って、先にバーベキューの準備をしてくれていたアイリスに受け渡した。

一体どんな料理ができるのか今から楽しみだ。

見たことない種類の魚もいたからなぁ………わくわくするね。


料理は役を買って出てくれたアイリスとリーンに任せ、俺とイナリは薪を貰って焚き火を起こし、そこで魚の塩焼きをすることにした。

これも海辺バーベキューの醍醐味だいごみ

獲ったばかりの魚の塩焼きは、新鮮で非常に美味しいと相場が決まっている。

これを実践しない手はないだろう。


早速下処理を済ませた魚に串を刺し、焚き火の周りを取り囲むように地面に突き刺す。

……………あれ、そう言えばこれって何分くらい焼くものなんだろう……。

そんなすぐにはできないか?

生焼けだったら食中毒とか怖いし……………まぁ、ちょっと焦げ目が付いてきたら完成でいっか。


※本来は一時間ほど焼くそうです。




「ねえねえお兄ちゃん、これなぁに?」

「ん〜?ああ、小さいけど立派な真珠だね。珍しい」



波打ち際で何やらしゃがんでいたエルムが持ってきたのは、淡く輝く小さな真珠だった。

〈鑑定〉によると、コアヤガイと呼ばれる貝によって作られた天然の真珠らしい。

ここら辺に生息しているのだろうか。


へぇ、前世でも殻の中で真珠を作る貝がいるって聞いたことはあったけど、実際に見るのは初めてだな………。

まん丸で白く輝いている。

凄く綺麗だ。



「真珠………そっか、じゃあこれお兄ちゃんにあげる!」

「え、いいの?せっかくエルムが見つけたのに………」

「うん!お兄ちゃんに持ってて欲しいんだぁ〜」

「………分かった。じゃあ今度これ使って、一緒にアクセサリー作ろうね」

「やったー!」



お礼も込めて頭を撫でると、それだけでエルムは子供のように大はしゃぎする。

どこぞの王様に比べてなんて可愛いはしゃぎ方だろう。


なんと言うか、母性がくすぐられるよね………。

確信した。

俺、絶対に子供ができたらとことん甘やかすタイプだわ。

可愛い我が子に甘えられて断れる気がしねぇ。



「お、魚を焼いてるのだ?」

「うん。砂遊びはもう良いの?」

「うむ、見よあの城を!やっと完成したのだ!」



戻ってきたノエルが、焚き火の前に座っていた俺の懐にちょこんと腰を下ろした。

彼女が指さした先を見ると。


そこには芸術家ですら負けを認めるであろうほど緻密に造られ、威風堂々とたたずむ巨大な砂の城があった。

窓や門、庭園など一つ一つが限界まで細かく立体化されていて、もはやこれは芸術の域に踏み込んでいると言っても過言ではないだろう。

本気すぎて怖い。


いわく昔見た魔王城か何かを参考にしており、ミリアとクロも混ぜての合作らしい。

まさに暇を持て余した神々の遊びだ。




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