第十章
第190話 訪問者
コンコンッ!
夏真っ只中のある日。
ちょうどお昼を済ませ、食後に皆でダラダラしていた時のことだ。
不意に玄関の扉がノックされる音がした。
いつもなら誰だろう、と首を傾げながら玄関に向かうものの、今回に限ってはソファーに座ったまま、
別に皆との時間を邪魔されてキレたとかではなく、単純に扉の向こうの人物に会うのが嫌だったのだ。
だって
どうせ今回もまたそんな感じなのだろう。
他にも数人覚えのある気配が揃っているので、人違いって可能性も無さそうである。
あー、このまま居留守したい………………でもなぁ、お互い立場ってものがあるし、無視する訳には行かないよなぁ。
「誰でしょうか………」
「アイリス、俺が出るよ」
俺の代わりに対応してくれようとしたアイリスを引き止め、入れ替わりに重い腰を上げた俺が玄関に向かう。
「はいはーい、どちら様ですか」
もちろん相手が誰かなんて分かっては居るけど、一応ね。
開いた扉の前に立っていたのは、予想通りイケおじ風の渋いおじさんだった。
いわゆるロマンスグレーと言うやつだ。
身長も割と高い。
風になびく短い金髪と蒼色に光り威厳を灯す眼光。
黒と赤で彩られた軍服か騎士服で筋肉質な肉体を包み、腰には白い長剣を携えている。
彼の背後には同じような服装と装備の人が五人ほど居た。
……………改めて、この世界のおじさんって皆ハイスペックなのね。
普通のおじさんは居ないのかしら。
皆そろいもそろってロマンスグレーとか、世の中はなんて不平等なのだろう。
え?お前が言うなって?
ごもっともですね、はい…………。
こほん。
さて、そんなスーツが似合いそうなダンディなおじ様は、俺の心境なんて知ったこっちゃないと俺の肩を掴む。
強い強い、そんなにがっしり掴まなくても逃げないって!
「久しぶりだな、マシロ殿!」
「えっと…………お久しぶりです、陛下」
「お?どうした、儂らの仲なんだ。敬語は要らんぞ?」
「いやぁ…………」
言うと思ったよ。
あんたは友達みたいな感覚なんだろうけど、こっちはそうもいかないんだよ……………何せ相手が
バシバシ背中を叩きながら豪快に笑うおじさんに引き攣った笑みを返す。
そう、このイケおじこそオルメスト王国の現国王、ルイス・エウロパ・オルメストその人なのである。
御歳たぶん四十後半。
まだまだ現役真っ盛り、昔と一ミリ違わぬ………いや、むしろ増してさえいる気迫と豪快さだ。
相変わらず暑苦し───────なんでもないです。
ちなみに俺とルイスの関係性だが、一言で言えば師弟関係だ。
俺がルイスの剣の師匠。
まだ王様になる前のガキンチョ時代、前王様と知り合いだった俺がルイスの先生として
元々筋は良かったし、目標の実力がつくのにそう時間はかからなかった。
ルイスが王様に就任してからも多少付き合いはあったが、十数年くらい前にルイスに娘が産まれ、育児がある程度落ち着いてからはほとんど会っていなかった。
いや、別に避けてたとかじゃなくて、単純に都合が合わなかっただけだよ?
主にルイス側が忙しくて。
さすが国王、まさかあんなに毎日忙しいとは思ってなかった。
もし俺が代わりに仕事したら、一日で過労死すると思う。
と言うかよく考えたら俺って、ルイスのお父さんから孫にかけて、三世代も王族と関わってたのか………。
今更だが我ながら驚きだ。
「安心してくれ、今日は事情を知っているやつしか連れて来ていない」
「いやまぁ、たしかにそうだけどさ…………」
ざっと見回した感じ、騎士団長や近衛隊副隊長など。
たしかに全員が俺の顔見知りだった。
皆事情を知っているため、理解はあるものの国王と言う立場でありながら割と自由に行動している主君に頭を抱えている。
このルイスが国王とか冷静に考えて大変そうだな…………。
「はぁ…………で?ルイス、マジでなんの用だよ」
このままだと永遠に話が進みそうにないので、敬語は諦めて昔通りタメ口&ジト目でルイスに問う。
もちろん盛大なため息付きだ。
しかしルイスは嫌がる様子は全く無く、むしろにっと笑顔を浮かべた。
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