第187話 デート"ノエル、アイリス編"(3)






「真白真白!」

「ほいほい。はい、あーん」

「あー………ん!ん〜、これも美味いのだー!」

「あっ!ノエルさんだけずるいです!ご主人様、私もあーんしてください!」

「はいよ」

「あむっ、もぐもぐ…………。これもまた美味しいですね………不思議な食感です」

「なんか"パラダイ"オリジナルのショートケーキらしいね。ベースは普通のチョコケーキっぽいけど…………スポンジが違うのかな」



この独特な食感は中々他のショートケーキじゃ味わえない。

試しに切ってスポンジを見てみるが……………うーむ、いかにも普通って感じだな。

わからん。



「何とかしてこれを家でも再現できないものでしょうか…………」



初めて口にした未知の食感にアイリスの料理人魂に火がついたらしく、どうにか正体を暴こうともう一度口にして首を傾げたり、切った断面を眺めたりしていた。


しかし。


アイリスがその真実へたどり着く前に、例のショートケーキは無くなってしまった。



「次は……………あ、ちょうど残り三種類だね。二人ともまだ食べられる?」

「当たり前なのだ!」

「私もあと一個でしたら…………」



"残り三種類"。

それは文字通り、俺達が食べていないスイーツまたはお菓子が残り三種類と言う訳で。



「エント、頼む」

「はいはい。まったく、まさか全種類制覇するとは…………」

「ふっ、うちの嫁を舐めてもらっちゃ困るぜ」



そう、まさにエントの言う通り、俺達はあれから一時間ちょっとかけて、この店のラインナップを一通り食べ終えたのだ。

残すは最後の三種類のみ。


俺達が来店した時に居た客は、当然ながらほとんどが入れ替わって別の客になっていた。

時間も時間だし、全体の人数も少し減っただろうか。

いやー、結構種類があったから大変だったけど、どれもこれも大変美味しかったです。

個人的に最初に頼んだアップルパイがめちゃくちゃ好みの味だった。


特にパイの部分がサクッとしてて美味しいのなんのって…………。

もちろんテイクアウトで皆の分も買わせて頂きました。




そんな事しているうちに頼んだスイーツ達が運ばれてきた。

残っていたのは"フルグエのショートケーキ"、"フロランタン"、"マドレーヌ"の三つである。


フルグエとはもはや食べ物なのかとツッコミたくなるような色合いのフルーツで、その青緑色の実には特徴的な苦味があったはずだ。

ちなみに"フルグエ"って果実は前世じゃ見たことなかった。


で、二つ目のフロランタンはどっかの国の焼き菓子だった気がする。

表面に………………なんだこれ。

ナッツ?

たぶんナッツ系の何かを乗せて焼いてる。


最後のマドレーヌに関しては言わずもがな。

とてもポピュラーな焼き菓子だ。


ちなみに俺は昔、"マドレーヌ"と"マーマレード"の違いが分かりませんでした。

いやだって名前似てない?

一体何度間違えたことか…………。



「二人はどれがいい?」

「ワタシはショートケーキがいいのだ!」

「フロランタンを食べてみたいですっ」

「了解。じゃあ俺はマドレーヌで」



それぞれお皿に取ったスイーツをシェアしながら食べること五分、最後の三種類も仲良く俺達のお腹に収まった。


いやー、食べた食べた!

お腹いっぱいだぁ…………。



「ったく、こんなに食べて"アイスクリーム"は入るのか?」

「大丈夫大丈夫、デザートは別腹だから。ね?」

「なのだ!」

「ですね!」

「さっきお腹いっぱいって言ってたよな…………」



俺達の食べっぷりは、もはや呆れの域まで達してしまったらしい。

やれやれと肩をすくめて一旦奥に戻ったエントが持ってきたのは、なんとあのアイスクリームだった。

見た目はまさに"アイスクリーム"そのもの。

日本のお店で売られていても一切違和感のない、半球型のバニラアイスである。




実は以前ここに訪れた時、エントと奥さんに頼んでいたのだ。

何とかアイスクリームを作れないものか、と。


こりゃ凄い……………よく文明の利器に頼らずここまで完成度の高いのが作れたな………。

普通に尊敬するわ。

やっぱりさすがお菓子職人だ。



「まぁ、混ぜる作業は慣れてたんだけど、温度管理が大変でさ。うちの奥さんが氷属性の魔法が使えなかったら、もうちょっと時間がかかってたかもな」


「(ぐっ!)」



ちらりとエントが視線を送った先で、奥さんがサムズアップ。

なるほど、奥さんには感謝だな。

どうやら一番重要と言っても過言では無い役を奥さんがこなしてくれたらしい。


じゃ、早速いただきます、っと。




「むっ、これは……………」

「どうかな」

「いや……………美味しい。めちゃくちゃバニラアイスだよこれ」

「おぉ、そりゃ良かった」



どちらかと言うと、ミルク風味が強いバニラアイスって感じだね。

ものすごく濃厚でとにかく美味しい。

これは中々前世でも食べられないやつだ。


バニラエッセンスが見つからなかった分、乳を多めに入れたのかな?

こりゃ完成度が高いどころの話じゃないな。



「ん〜、美味しいです………!」

「うまうまなのだー!」



ノエルとアイリスも相当気に入ってくれたらしく、スプーンを動かす手が止まらなかった。

この後、一人につき三個のバニラアイスを追加で食べた。



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