第152話 マシロ家での日々






・□月□日




「……………………えっと、どうしたの………?」



朝起きてあいつが居ないと思ったら、昼頃になってやっとリビングに来た。

今日は鍛錬に付き合ってもらおうと思ってたのに…………。

文句の一つでも言ってやろうと振り返った私は、あいつの姿を見て思わずぎょっと目を剥いてしまった。



「…………あ、おはよう………」



フラフラ危なげに歩きながらそう呟いてソファーに倒れ伏したあいつが、いつもの調子なんて欠片も見せないほどげっそりした顔色だったからだ。

今まで一度も見た事がないような光景に、私は言葉を失った。

自分で言うのもなんだけど、私ですら少し心配になっちゃうレベルで元気が無い。



「あ、おはようございます、ミリアちゃん♪」



対して、遅れてリビングに来たアイリスさんは何と言うか…………………すっごい肌がツヤツヤしてた。

どこか感じる気配も色っぽい。

それにいつもよりかなり上機嫌で、鼻歌まで歌ってる。

二人の天と地の差ほどあるテンションの違いは一体なんなのか。


今日、珍しく遅起きだったのに関係あるのかな…………。



「ふふっ、ご主人様がお疲れなのも当然です。なにせ昨夜から先程まで、ずぅっと""でしたから♡」

「夜の運動……………………………っ!?」



夜の運動会って………?

最初はあまりにもさらっと言うから理解が遅れたけど、止まった思考が動き出した途端に、自分でも分かるくらい顔が真っ赤になるのを感じた。


なっ…………ちょ、はぁ!?


罵詈雑言を浴びせようにも怒りと羞恥のあまり言語化することさえできず、私はゴンッ!とうつ伏せのあいつの頭に拳を振り下ろすと。



「この………変態!」



若干潰れ気味な悲鳴を背に、私はリビングを飛び出した。


何よあいつ、超ド級の変態じゃない!

昨日の夜からついさっきまで…………え、えっちなことしてるとか…………!

どんだけ性欲旺盛なのよ!


一気に身の危険を感じたわ…………。

うん、やっぱり気のせいよ。

ネイさんはああは言ってたけど、あいつが私を拾ったのも色々渡すのも、完全に"下心満載だったから"ね。


………………はぁ、色々悩んで損した気分だわ。







ため息と共に遠ざかって行く足音を聞きながら。



「なぜ俺が殴られた…………?」



こうなったのは、いつの間にかアイリスが盛ってた精力増強作用のある"何かの粉末"のせいなのに…………。

おかげで寝不足&最後の一滴まで搾り取られてもうヘトヘト。


なんだか釈然としないマシロであった。







・□月○日




今日はあいつも混じえてクロとイナリさんと鍛錬した。

いつもの二対一での組手とは違い、今日のは各自で好きに戦うバトルロワイヤル的な実践訓練。

あいつとクロいわく、広い視野と臨機応変な対応、そして単純な実践での実力試しなどを目的としているらしい。


ちょうどいい、これはあいつをボコボコにできるチャンス!

あのすまし顔を情けない泣き顔に変えてやるわ!



四方に散り、各々おのおのが構えたり棒立ちだったりとする中、そう息巻いたはいいものの─────────。








「ちょ、待ってくださいクロさんっ!それ喰らったらさすがの私もあああああああ!?」



あ、イナリさんがまた吹っ飛んだ……………。


荒い息を繰り返しながら呆然と空をあおいでいると、不意にクロの一撃によって悲惨にもお空へ打ち上げられたイナリさんが、「あ〜〜〜!?」と綺麗な放物線を描いて頭から地面に落下した。

………………なんか、グキッて音しなかった?


ここ最近よく見る光景の一つだ。

不憫すぎる。

決してイナリさんが弱いという訳じゃない。

むしろ私より全然強くて才能もあるんだけど………………なぜか、毎回と言って良いほど残念な退場の仕方になってしまう。



「ん、主に勝ってご褒美もらう」

「そう簡単には負けないからね!」



キンキンッ!とありえない速さで衝突する剣とダガー。

この二人は圧倒的すぎる。

私もあれから少しは強くなれたはずだけど、二人には全く勝てる気がしない。

あいつの攻撃を受け流し、クロの神速の連撃をさばいて二人に一撃をお見舞する。

そんなイメージが頭の中に浮かばない。





結局この後、あいつが勝ってクロとイナリさんをもふもふしまくってた。

とりあえずあいつのデレデレした顔がウザかったから蹴っておいた。




………………私も頑張らなきゃ。

こんなところで、あいつに敵わないからっていじけてる訳にはいかないわ。

もっともっと強くなって、いつかあいつをぎゃふんと言わせてやる…………!


そうすれば皆の仇…………"破邪の魔王"にだって─────────。





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