第62話 キツネ娘のイナリ
時は過ぎお昼頃。
エマちゃんに貰った主のフライを、パンと野菜で挟んだものを皆で食べていた時の事だ。
不意に玄関のドアがコンコンッ、と叩かれた。
「ん?今日は妙に来客が多いな………」
前も言った気がするが、普段はわざわざこんなに立地の悪い我が家に訪れる人はほとんど居ない。
居てもだいたい村人が差し入れしに来てくれたり、冒険者達が腕試しに来るくらい。
それもそう頻繁にある事ではないのだが…………。
疑問に思いながら、空になったお皿を台所にさげて手を洗い、玄関を開く。
そして、扉の向こうに佇む一人の少女を視界に捉えた俺は、不覚にも目を奪われて動きを止めてしまった。
肩まで伸びた小麦色の髪が風でサラサラなびき、その美しい碧眼を隠すように重なる。
頭上には存在を主張するようにピコピコ動く同色のケモ耳、背後には先端が真っ白なモフモフのしっぽが見える。
おそらくキツネの獣人だ。
なぜ巫女装束に似た服を着ているのか、何の用でここに来たのか。
聞きたいことは色々あるが、とりあえず今はそんな事どうでもいい。
俺は少女の纏う神聖な雰囲気とピコピコ動くケモ耳に思考を呑まれた。
突然だが、俺はケモ耳が…………いや、ケモ耳少女が大好きだ。
特にオオカミ、キツネ、猫の獣人。
あのモフモフした肌触りや、ふとした時の何気ない動物のような仕草が可愛すぎる。
て言うか、そりゃ女の子にケモ耳組み合わせたら最強だよな。
可愛い×可愛いの可能性は無限大だ。
これだけで数時間は語れる自信がある。
目の前のキツネの獣人少女を見つめながら内心早口でそう語っていると、呆然としていた
当然いきなり至近距離で見つめられ面食らう俺に対して、さらに一歩踏み込んだ少女がぽつりと呟いた。
「会いたかった………」
「え…………?」
間の抜けた声での返事もつかの間。
次の瞬間、瞳に涙を浮かべた少女が、ガバッ!と腕を広げて抱きついてきた。
「やっど会えまじだぁ〜………!ご主人ざまぁ〜〜!!」
感極まって涙を流した少女が俺を押し倒し、自分の頬をぐりぐりと胸元に押し付ける。
おかげで鼻水やら涙で俺の服がベトベトだ。
おやぁ………?
最初に感じた神聖そうな雰囲気はどこへやら、一気に残念味が増したケモ耳少女。
涙にまみれてせっかくの可愛らしい顔も台無しだ。
て言うか、ご主人様ってなんぞ?
今、少女は確かに俺の事を"ご主人様"と呼んだ。
しかし、俺はこの子にご主人様と呼ばれる心当たりが全くない。
何せ初対面だからね。
初めて会う子にいきなり"ご主人様"って言われたら、戸惑いしか感じないぞ。
そう言えば、クロの時もこんな感じだったな…………。
自分には全く覚えがないのに、いつの間にか奴隷が増えてるっていうね。
「さて、それにしてもキツネっ子よ、早速で悪いけど離れてくれないか?………と言うか離れてくださいお願いします」
「いやでずぅ〜…………」
さっきから一言も喋らずじっとこっちを見てる皆が怖すぎる。
ヒシヒシと感じる無言の圧力がすごい。
刺すような視線に耐えきれず割とガチトーンでお願いするが、感極まって周りが見えていないキツネっ子は一切離れようとしない。
それどころか、より一層ギュゥゥゥッ!と力を込めて俺を抱きしめる。
アッ!?
ちょ、だからそれやばいって!
前見てよ!皆が人には見せられない顔してる!
…………ちょっと待て、なんかアイリスの後ろに
ほら、カタカタ動いて包丁を振りかぶってるよ!
スタ○ドか!?スタ○ドなのか!?
世にも恐ろしい般若のスタ○ドが包丁をトントン。
眼光が凄まじくて目も合わせられない。
必死に少女に訴えかけるが、そんな事はまったくお構かまい無し………と言うかそもそも耳に入ってすらなさそうな少女は、久しぶりに会ったご主人様に甘える犬のようにほお擦ずりを繰り返していた。
モフモフのしっぽはパタパタ左右に激しく振られ、可愛らしい耳がピコピコ動いて俺の頬を叩く。
しかもこの子、狙ってか偶然か分からないけど、自身のふくよかな胸を
それがどれだけの破壊力を生むか、少女は分かっているのだろうか。
アイリスとタメを張るレベルの大きさの双球が誇るあまりの柔らかさに、思わず頬が少し緩んでしまう。
───────背後でブチッ!と何かが切れた音がした。
あ、オワタ。
明らかに増幅した殺意を前に全てを察する。
「ほ〜う?こいつ、いきなり真白に抱きつくとは………」
「良い度胸ですね」
「ん、主が困ってる。さっさと離れる」
「ギャアーー!?痛い、痛いですぅ〜!?」
「ぐえっ!?」
ついに我慢の限界に達した皆が、一斉に少女の服を掴み、俺から引き剥がそうとする。
しかし少女も離されないように悲鳴を上げながら必死に俺にしがみつくので、結果として俺と少女の密着度と押し付けられる胸の感触が増した。
俺を挟んで離れまいと抱きつく少女と、引き剥がそうとする皆の間で
やっと般若さんに気がついて、ひっ!?と悲鳴を上げても尚、俺から手を離さない少女。
その謎の胆力だけは見習いたい。
く、首が…………!
ここは全てを忘れて豊満な胸の感触に身を委ねたいが、
次第に柔らかい感触を楽しむ余裕さえ失われてきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます