第60話水遊び





「よーし、小屋作りを再開するぞ〜!おー!」

『クルァ!』



俺が拳を真上に上げると、それに合わせてプラトス達も楽しそうに合掌する。

夜なため声は少し控えめだ。

焔狐達と交渉し、謎の子狐を逃がした次の日の夜。

食事を終えた俺とプラトス達は、家の横に設置された作り途中の小屋の前に集合した。


理由はもちろん、プラトス達が住むちゃんとした小屋を作るため。

以前から計画していた小屋作りを今日から始め、夕方までに設計図を含め全体の三分の一を完成させた。



「設計図よし、材料よし。そんでもって【サイレンス】をかけてっと」



無属性魔法【サイレンス】は、設定した範囲内の音を遮断する。

隣人との騒音問題から工事現場での迷惑防止、はたまた夜の営みにまで幅広く使える非常に便利な魔法なのだ。

これで小屋の周辺だけ覆っておけば、夜でも周りに迷惑をかけず小屋を建てる事が出来る。


いやー、本当は明日の日中続きをやれば良い話なんだけど、なるべく今のうちにやっておきたい。

そうすれば、明日には確実に完成するからね。

できるだけ早くちゃんとした小屋に住ませてあげたい。

さて、そんじゃ早速続きから始めますか〜。



『クルル……クルァ!』

「お、ありがとう」



プラトスが持ってきてくれた木材を持ち上げて、中途半端になってしまっていた場所から改めて作り始める。


















「んぁ…………?」




ちゅんちゅんと小鳥のさえずりが耳を抜け、柔らかい日差しが俺を照らす。

朝だ。


まぶし……………。

まだ上手く働かない頭でうっすらと瞳を開け、ぼーっと正面の木陰を見つめる。

えーっと…………何してたんだっけ………。

大きな欠伸をしながら目をこすってのっそりと上体を起こす。

記憶が曖昧あいまいだ。



あ、そーだ………たしか昨日はプラトス達の小屋を作ってて…………あー、なるほど。


途中で寝落ちしちゃったのか。

どうりで体中が痛いわけだ。

もうちょっと藁を多くしても良かったかもな………。

プラトス達が寄り添って寝てくれたので大変温かかったのだが、寝心地はお世辞にも良いとは言いきれなかった。


どうやら敷いた藁が少なかったようだ。

完成してプラトス達が寝る時には、もっといっぱい敷いてあげよう。

未だ覚醒しない意識のままむにゃむにゃしながら立ち上がり、体を捻って背骨をポキポキ鳴らす。


首がいてぇ…………。

ズキズキ痛む首筋を押さえながら、振り返ってプラトス達が眠る小屋を見渡す。

うむ、割と良い感じになってきたのではないだろうか。


昨夜頑張ったおかげで、三分の二が完成した。

これでおそらく今日中に完成させることができるはずだ。

いやー、頑張った頑張った。

二時頃までは確実に作業してたもんなぁ…………ちなみに三時以降の記憶は無い。

たぶんそこら辺で寝落ちした。



『クルァ!』

「お。おはよー」



ピクピクと瞼が動き、ゆっくり目を開けたプラトスが視線を彷徨わせて俺を見つけた。

すると、ガバッ!と勢いよく起き上がって、嬉しそうな声を上げながらペロペロ俺の頬を舐める。

よしよーし、可愛いヤツめぇ〜!

お礼に撫でまくってやるぞ〜。


遅れて起きた二体のプラトスも含めて、満足するまでめいいっぱい撫でてやる。

ふっふっふっ、もう皆がどこを撫でられたら気持ち良いのかまでちゃんと把握している俺に隙は無い!


前はくすぐったい所を触ってすごい暴れちゃったからなぁ…………。

遠い目をしながら的確にそれぞれの気持ち良い場所をなでなでする。



ん〜………朝のなでなではこんくらいかな……………やべぇ、またうとうとしてきた。

プラトス達から手を離してうんうん頷いていると、不意に眠気が襲ってきた。

う〜む……二度寝するか………。

いや、でもこの首が痛い状態で寝たくない。

…………とりあえず、顔洗おう。



俺のなでなでの影響で足腰立たなくなったプラトス達を引き連れて、家の反対側にある水場に向かう。

これもプラトス達が来ると決まった日に新しく作った物だ。


半径四、五メートル、深さ四十センチちょいのこの水場の中心には、とある無属性魔法が仕込まれた魔石が埋め込まれている。

それのおかげで定期的に水が純化されて、常に綺麗な水質を保てるようにした自作の水場。

これは中々の力作だ。

澄んだ水に手を入れると、ひんやりと冷たい。

両手をお皿のようにして水に沈め、すくった冷たい水で顔を洗う。


あ〜、冷た〜……。

めっちゃ目が覚める。

服の裾で顔を拭うともう頭はスッキリ、おめめパッチリだ。



「それっ!」

『クルゥー……』



お次はプラトス達の番。

木製のバケツにたっぷりと水を入れ、待ちわびたように頭を低く下げた手前のプラトスに思いっきりかける。

さすがに俺は朝からこの水温の水を頭からかけられるのは遠慮したい所だが、皮膚の厚いプラトス達からすればちょうど良いのだろう。

気持ちよさそうに体を左右に震わせながら、タシタシ足踏みしてはしゃいでいた。


朝から元気だな〜………。

もう俺、おじいちゃんだから朝が辛いのなんのって。

え?それは元々?

ちょっと何言ってるか分からない。


位置を交代した残りの二体にもバシャバシャと水をかける。



『クルァ!』

「ん?もっかいする?」



バケツを元の位置に戻そうとしていると、背後から口先でつんつんつつかれて、物欲しそうな瞳のプラトスと目が合った。


どうやら一度では満足しなかったらしい。

分かった分かった、何回でも付き合ってやるからなー…………。

リクエストに応えてもう一度しゃがみ込み、傾けたバケツに水を流し込んでいく。


………おっとっと、危ない危ない。

まだうとうとしてるせいで、危うく水場に頭から突っ込むところだった………。


やっぱり顔を洗っても意識は覚醒しきらなかったみたいだ。

スッキリしたのは一瞬だけだったなぁ…………。



『『『クルァッ!!』』』

「おわっ!?」



目を擦りながら体勢を立てなおそうとした瞬間、背中にドンッ!と軽い衝撃が走り、気づいた時には頭から水場の中にインしていた。

不意打ちすぎて何も反応できなかった。

膝上くらいの深さまでしかないので溺れはしないのだが…………ものすごく冷たい。


強制的に目が覚まされた。

ちなみに言うまでもないが、犯人はもちろんプラトス達。

めちゃくちゃはしゃいどる………。



「ふ……ふふふ………やったなこのぉー!これでもくらえぇ!」

『クルァー!?』



座った状態のまま、手を合わせてプラトス向けて水を飛ばす。

ほら、よくお風呂とかプールでやった手の水鉄砲ね。

予想外の攻撃にびっくりしたプラトス達が、その場でドタバタと右往左往する。


ふはははは!どんどん行くぞー!

何せこちらには無限に攻撃できるのだ。

全身びしょ濡れになった仕返しにとことんやってやるぅ!



『ク、クルァ!』

「げっ!?」



一番手前のプラトスが俺向けて飛び上がる。

大きな影が俺を覆い、太陽を背にしたプラトスがニヤリと笑った気がした。

次の瞬間、ドボンッ!と激しい水しぶきが上がった。



「どわーっ!?」

『クルァ!』

『グワッ!』



後に続くように次々とプラトス達がダイブし、たて続けに二回の水柱が空に向かって立ち昇る。


うぅ………まさか皆もダイブしてくるとは………。

水しぶきが顔面を直撃して死ぬかと思った。

全身から水を滴らせながらゆらりと立ち上がる。



「…………おりゃー!!」

『クルァー!!』



この後めちゃくちゃ水遊びした。





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