第6話 村を作ることになりました
異世界転生を果たして三週間ちょっとが過ぎ、まだまだ新生活には慣れない日々を送っていたある日のこと。
ぽかぽかした春の陽気を感じながらノエルとごろごろしていると、ふと玄関のドアが叩かれた。
「はいは〜い。どちら様ですかー、っと」
正面に座っていたノエルと顔を見合せ、近かった俺がドアを開けに行く。
何を隠そう、神様以外に俺達の家に訪れる人はまず居ない。
理由は主に二つ。
丘のど真ん中だから立地が悪いし、周辺に町の一つすらない上に道も整備されておらず、好き好んでこんな荒れた道を通る人はそうそういない、という点。
そしてもう一つは、単純にこんな場所にぽつんとある一軒家なんて、怖くて立ち寄れない。
そもそも人を見かけるのだって、ちょっと遠くにある魔物の発生する森にクエストで訪れた冒険者達を、たまに目にするくらいだ。
ちなみになぜ俺とノエルがこんな場所に住み、どうやってこの不便な場所で暮らしているのか。
まず前者は、人里離れたド田舎でゆったりしたスローライフを送りたかったからだ。
もちろん都会での暮らしも楽しいだろうが、田舎の方が周りを気にせず色々広く使えたり、のんびりした雰囲気が味わえる。
続いて後者。
こちらは簡単で、二人のチート能力をフル活用して、生活面での利便性を近代並に引き上げているから。
洗面所やトイレの水は家の横にある水場から吸い上げており、使った後は魔法によるろ過などを終えて自然に返される作りになっている。
またコンロも魔石を埋め込み、魔力を込めるだけで火が出るようにした。
おかげで意外と快適なスローライフを満喫することが出来ている。
魔法バンザイ。
………少し話がズレてしまったが、そういう訳で、普通ならここら辺に人は来ないはず。
しかし今回の来客の気配は明らかに神様では無く、ただの人のものだ。
しかも複数人居るな。
疑問に思いながらドアを開けると、そこには軽装備をした五人の男女がいた。
年齢も種族も性別もバラバラ。
見た目十代の獣人少年が居るかと思えば、
冒険者…………って訳じゃないよね。
最初は丘にぽつんとある一軒家に興味を持った冒険者パーティーかと思ったが、それにしてはどうも装備が少なすぎる。
ますます"?"を頭の上に浮かべていると、集団の真ん中にいた四十代くらいのイケおじが一歩前に出て軽く
こちらも慌てて会釈を返す。
「突然の訪問申し訳ない、私はシルバという者だ。少し時間を頂いて良いだろうか」
「あ、はい、大丈夫ですよ」
それは良かったと笑いながら、シルバさんは早速ここに来たわけを話してくれた。
さらにその暴走した魔物達が廃墟に住み着いてしまい、もう故郷を捨てざるを得なくなった。
新しい
周りに害のある魔物も発生しないし、大地は肥沃で農業に向いている。
さらには近くに川まである。
まさに理想の土地だ。
が、仲間の一人が丘の上の俺の家を発見。
家主の土地だった場合色々と不味いので、確認のため家を訪ねに来たんだそうだ。
あー、そっか。
ちょうど向こうの広がった場所からだと、少し起伏で上がったこの家は丸見えだからなぁ。
わざわざ手間をかけさせてしまって申し訳ない。
「全然俺の土地とかじゃないので、好きにやっちゃって大丈夫だと思いますよ。て言うか、俺も最近ここに引っ越してきたばっかなので」
「おお、そうでしたか。それでは移住仲間ですな」
「ですね」
にっ、とダンディに笑うシルバさん。
土地を好きにしていい事が分かると、後ろに控えていた人達がパッと笑顔になった。
その中でも特に嬉しそうな獣人少年が、"皆にも知らせてきます!"と一人で走って行ってしまった。
おおぅ、元気いっぱいな子だな………。
にしても新しい村を作る、か。
あの全く手付かずな所を人が住めるようにするなら、まず道路の整備が必要だ。
それが終わったら家を建てたり、他の必要なものを作って…………。
その規模にもなると、地球ほど文明の進んでないこの世界じゃどんだけ大変なのか検討もつかない。
少なくとも数週間で出来るレベルじゃないだろう。
もちろん、ある程度の家具などは買って取り寄せるにしてもだ。
ん〜、俺とノエルがやれば一週間でできるだろうけど、それは違うよなぁ。
皆が作る町だからこそ意味がある。
「…………あの、俺達も村づくり手伝っていいですか?」
「良いのか?そりゃこっちとしては、人手が多いに越したことはないが………」
「はい、時々運動しないと体が鈍っちゃいますから。もちろんノエルもね?」
「えぇーーー………。せっかく晴れたんだから、家の中でごろごろしてたいのだ─────」
「そっか、残念だなー(棒)。頑張ったらノエルの大好きなクッキーとハチミツをあげようと思ってたんだけどなー(棒)」
「それを先に言うのだ!ほら、さっさと終わらせるぞ!」
餌につられたノエルが、あっという間に手のひらをくるっくるにひっくり返し、やる気をみなぎらせながらソファーから立ち上がる。
非常にちょろい。
やはりお菓子の力は偉大だった。
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