コモドドラゴン転生
@daihuku_neko
1話 トカゲ転生
ドラゴンって...いいよね)
そう 俺が思った切っ掛けは、幼稚園で読んだ絵本だったか。
小学校低学年の頃は、ごっこ遊びや子供向けコンテンツで気持ちを満足させることができた。
周りも皆そういうのが好きな年頃だったから俺は普通で、友達も普通にいた。
高学年になると、ドラゴンのごっこ遊びというわけにはさすがにいかなかったから、ドラゴンの出てくるアニメや本の話を友達としたんだ、少し友達が少なくなった。
中学生になると、学業の傍らドラゴンの出てくる漫画やラノベを読み漁るようになって、マニアックな話を サブカルが好きな友人達とするようになったんだ、友達が数人になった。
高校に入ると、オタク的な学友たちも皆自分の好きなジャンルに嵌まるようになり、俺自身かなりマニアックな作品を読むようになったから、友達がいなくなった。
家族は本当に良くしてくれる。多忙な中で、俺を愛してくれているとも思う。しかし、ドラゴンの話はそうできない。中学のころ、温かい目で見られて懲りたんだ。
ーーああ…… 本当にどうして皆にはドラゴンの良さが分からないのだろうか……
今日も例の如く、ドラゴンの出てくるラノベを読み、眠りについた。
***
突然意識が戻ると俺は、鮮やかなカーペットで編まれたような、上手く認識できない空間にいた。
カーペットには絶えず流動する幾何学模様が浮かび、瞼の裏に毛細血管を幻視する。
(ああ、どこだろう此処は 夢なのか 起きている? 明晰夢? ああ でも 夢なんだろうけど 変な感じがする ふわふわする ……)
夢なのか現実なのか区別がつかず、まどろんでいる最中 目の前に人影が表れた。いや、最初からいたような気もするし、いなかったような気もする。 自分が解けるような感覚の中、相手をまともに見つめることもできない。
でも、歪な空間や自分のことよりかは、はっきりと認識できる不思議な人だった。
「難からめども、頑張りて起きてね、吾は神様にはべり。間違ひて君を殺しにしかば、生命の円環に戻さずに君のまま、生まれ直させてあげむ」
(か…み? ほんとに いたのか ていうかおれが、死んだ? ここは死後のせかい…な、のか? ………やりのこしも 色々あったのに… おやこうこう だって……まだ、何も……)
脳裏に浮かぶのは、慕ってくれる家族。俺なんかに良くしてくれた知人たち。これまでに邂逅した全ての隣人たち。
これまで俺が出会ってきた人々は、奇跡のように心優しいものばかりであった。幼さゆえの失敗や過ちを赦し、笑いかけてくれた皆。気恥ずかしく、これまで口に出すことはなかったが、確かに感謝や情を抱いていた。なのに……
(……まだ、誰の役にも立てていない……… こんなっ 何も為せていない おれは なんのために生まれてきたんだか、分からないじゃ…ないか! まだ 死にたくない… だ めだ いしき… …が…… )
「ああ、気を強く持ちたまへ。急ぎて、望みを言ひたまへ。お詫びとして可能なる限り望かなへてあげはべり。次の生でも精いっぱゐ生きてカルマを雪ぐんに努めはべ……」
「ドラゴンに転生でお願いします!!!!」
「へ ?」
「明確な種は問いません! 出典も問いません!! ドラゴンにッ!! ドラゴンに転生を!! 出来れば自分以外にもドラゴンのいる世界に!!! ドラゴン基準で美麗な見た目で!!! ドラゴンに成って ドラゴンに触れ合わせて!!! 下さい!!!!」
「あっ はい 」
「!!?良いんですね!? 今、はいって言いましたもんね!!? ドラゴンに転生させてもらえるんですね!? ”ドラゴン”に!!!!」
『願いを叶えてあげる』その言を聞き、たちまち覚醒する意識と共に一気呵成に捲し立てた。俺の人生で、かつて感じたことも抱いたこともないほどの情熱を一語一音に乗せて。
「なんでそんないきなり元気になってるんですか! エゴが強すぎますよ! 悔い改めなさい!!」
「御託も神託も良いんですよ!!!! ドラゴンに!! 転生させてもらえるんですよね!! ね!! ね!!? そんなまさか、神様が嘘ついたりしないですよね!?! ね!!??」
神を名乗る人物がまさか詐欺師ではあるまいかと、足元が崩れる思いに駆られる。
感じた怖気と不安を隠す様に、肩を掴み、眼球が触れ合いそうなほど顔を寄せ縋り付く。
「ふぇっ………… あ、あああ…… 」
俺の瞼は開きすぎてピチピチと音が鳴り、不調に鳴る鼓動が鼓膜を震わす。
女神様が、3歩後ずさるので、俺は2歩半追いすがった。
「……っは、はい! はい! 良いですよっ、ドラゴンですよね! ちょっと待っててください!!」
【ーー********** ************* **** ***************** ********** **********************……】
慈愛に満ち溢れた女神さまは、追加で5歩後ずさると聞き取れない言葉で詠唱を始めた。
それを見て俺の心に齎されたのは、歓喜とそれ以上の安堵。絶大なストレスで破裂寸前だった心は弛緩し、落ち着きと冷静さを取り戻す。
「やったっ!! ドラゴンにしてくれるんですね? そうなんですね!? やったっ! やったぁ!!!!!!!!! 」
「っは、はい! 分かりましたからって!! …………あれ? どこまで言祝ったっけ……?」
「いぃやったああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
高ぶる絶大な歓喜と安心感。
人生の目的がより大きな快楽を得ることだとするならば、俺は今、毎瞬ごとに人生のトロフィーを更新しているだろう。
脳がこれ以上の喜びは毒であるとして、なんとか抑えようと出す鎮静ホルモンが心から鬱陶しい。
先ほどから小躍りをしていたことに遅れて気付いた。
「ひゃっ! なにこの人! もういぃやっ!!多分ここから……」
【ーー****************** *********** ********* **********ー- 】
「……ハイっ準備できました!! いってらっしゃい良い旅を!」
おや、俺が喜んでいる間にもう生まれ変われるようだ。
女神様は息を切らして顔を引きつらせ、小さな顔に付いている不釣り合いに大きな耳たぶをプルプルと震わせている。
やはり、人をドラゴンに生まれ変わらせるというのは、相応に大変なのだろう。
にも拘らずこの迅速さと誠実な対応!
溢れんばかりの善良さと義侠心が伝わってくる。
なんて素晴らしい女神様なのか、褒めるところが無限にあるだろう。もうビューティフルで慈悲深く、愛に満ち溢れ、輝かしく、賢明で……
ーーそういえば女神様かわいいな。
「ひッ!激重信仰が入ってきた!? うぷっ、胃もたれする……おえッ!! 」
まぁ、いいか。
ドラゴンに比べたら些事だし。
周囲のカーペットが輝くと群れを成し、徐々に曼陀羅を描きながら俺を取り囲む。
「女神様!!ありがとうございました!! この御恩はきっと忘れません!!」
言い終わるや否や、輝く未来への展望で頭のすべては埋め尽くされ、俺の意識は遠のいていった。
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