第182話・ジュニアスの誤算
アルバトスさんは、私のことだけは何も説明せずに、ユリウスのことと自分のことを、みんなが納得できるように説明してくれた。
おかげで、みんなの私への興味は薄らいでいる。
私のことを知っている可能性があるエミリオとソフィーさんも、黙っていてくれているみたいだ。
「いろいろと驚いたけど、アルバトスが無事で良かったよ。シルヴィーク村のことを聞いて心配していたから、本当に良かった」
少し涙ぐみながらクラウドさんが言った。アルバトスさんのことを、本当に心配してくれていたんだね。
「で、ユリウス……アンタ、男として王宮に戻るつもりはないのかい?」
アルバトスさんの説明をずっと黙って聞いていたエリザベス様が、ユリウスに言った。
「今起こっていることを考えても、次の国王がジュニアスになったらどうなるか……お前にだってわかるだろう? お前がジュニアスを退けて次の国王になれば……」
「申し訳ありませんが、戻るつもりはありません」
「でも……」
「例え、伯母上が無理矢理俺を担ぎ出そうとしても、俺は表舞台に立つつもりはありません。その時は姿を消します。この国が、この世界がどうなろうと、俺の知ったことではありません」
「お前っ!」
ユリウスの言葉が気に障ったのだろう、アントニオさんが声を荒げた。
「お前だって、オブルリヒト王家の人間だろう! 勝手なことを言ってんじゃねぇ!」
アントニオさんって、本当に気が短いな。
光の翼のメンバーも、その発言は無責任だ、王家の人間として責任を取るべきだ、とか繰り返している。
ユリウスがやったことじゃないんだから、責任取れって言われても……。
確かに気の毒だと思うし、ジュニアスたちのことは許せないけど、私はアントニオさんにも光の翼のメンバーにも、ちょっとイラっとした。
「俺はオブルリヒト王家に戻るつもりはないと言っただけで、今回の件に協力しないとは言っていない。一人の冒険者としては、協力するつもりだ。今までも……かなり協力してきたつもりなのだが」
ユリウスはちらりとゴムレスさんへと視線を向けた。
視線を向けられたゴムレスさんは、あぁ、と頷く。
そうだよね、ユリウスも私も、すごく協力しているよね。
『私も、そちらには行けませんが、協力させていただきます。ジュニアス王子とノートンが気づかなかった、彼らの誤算にも気づきましたしね』
「え?」
再び全員の視線がアルバトスさんに集まった。
『ジュニアス王子たちの目的は、黒魔結晶をばら撒き、狂暴化した動物や魔物に大災害を起こさせ、それを自分が助けることで自分が今世のルリアルーク王だと世界にアピールすることです。まぁ、まだジュニアス王子のお力はどこも借りていないようですが』
確か、現時点で確認されている黒魔結晶は六本だけど、ジュニアスは動いていない。
『今までの被害が少なかったのは、各冒険者ギルドとベルゼフ王国の兵士、冒険者の努力によるものなのですが、それによりジュニアス様たちは黒魔結晶による災害は大したものではないと考えている可能性が高いです。だけど、それは大きな間違いです。つまり、あの方たちは安易に黒魔結晶をばら撒いたものの、災害の規模がどのくらいになるか、それがいつ起こるかということまで、予想できなかった……それが彼らの誤算です』
災害の規模は、災害が起こったときにしかわからないし、その災害を思い通りの時期に起こすことは難しい。
『今や、ネーデの森のゴブリンがいつ飛び出してくるかは、誰にもわかりません。今にも森から溢れて飛び出してくるかもしれないし、そうではないかもしれない……。ただ確かなこととして、今回ゴブリンスタンピードの大災害は確実に起こるということを、ガエール、ビジード、そしてベルゼフ王国で認識する必要がありますね』
「そんな……」
アルバトスさんの言葉はみんなにショックを与えたけれど、アルバトスさんは淡々とゴブリンスタンピードは必ず起こると繰り返した。
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