第132話・助けてコール



 翌日は何事もなく……とは行かなかったみたいだけど、サーチートからの助けてコールもなく、二人は無事にネーデの森から戻ってきてくれた。

 だけど、ネーデの森にはやはり多くのゴブリンが居るらしく、邪魔をされてなかなか奥の方へと進めなくて、見つけたキヨラ草は三本だけだったらしい。

 明日はいつもとは違う場所からネーデの森に入る事にすると言って、ユリウスは早めに寝てしまった。

 あのユリウスが私を置いて早く寝るなんて、ちょっと驚いてしまう。

 だけど、考えてみれば一人でゴブリンホイホイ状態のサーチートの護衛をしているんだもんね。

 いくらユリウスでも、大変なんだろうな。

 明日も何事もなく戻って来てほしい。




 だけどその翌日、恐れていた事が起こってしまった。


『オリエちゃん、助けてー!』


 と、サーチートからテレパシーで助けてコールが入った。


「オリエさん!」


「はいっ!」


 サーチートの声は、私だけでなくアルバトスさんにも届いたようで、私は慌ててサーチートを召喚した。


「オリエちゃーん、怖かったよー!」


 泣きながら飛びついてくるサーチートを抱きしめてあげると、サーチートは余程怖かったのか、ガタガタを震えていた。

 あのユリウスと一緒に居て、サーチートがこんなにも怖がるなんて、一体何があったんだろう?


「大丈夫ですか、サーチートくん。何があったのですか?」


「あのね、ものすごくたくさんのゴブリンに囲まれたんだよ! それで、その中にホブゴブリンに進化したのも居たんだ!」


「ホブゴブリン?」


 それは一体何なのかと首を傾げた私に、アルバトスさんはゴブリンの上位種なのだと教えてくれた。


「普通のゴブリンは、子供くらい……そうですね、オリエさんよりも少し低いくらいの身長ですが、ホブゴブリンは大人の男くらいの身長があり、普通のゴブリンの数倍強く凶暴になっています」


「え?」


 その大きくて凶暴なホブゴブリンを含む、たくさんのゴブリンに囲まれたの? そんなの、想像しただけで怖い。


「ねぇ、サーチート、ユリウスは、どうして一緒に帰ってこなかったの?」


「え?」


 どうしてサーチートだけが戻ってきたの? そんなに危ない状況なら、二人一緒に戻ってくればいいのに。


「ホブゴブリンって、すごく狂暴なんだよね? ユリウス、そんな危険な場所に一人残って、何かあったらっ! ユリウスは、どうしてサーチートだけを先に帰したの?」


「オリエさん!」


 ユリウスの事が心配で我を失い、抱っこしたサーチートに詰め寄っていた私は、アルバトスさんに少し強い口調で名前を呼ばれて我に返った。

 サーチートは小さな黒い目を潤ませて、私を見つめていた。


「ごめんね、オリエちゃん。ぼく、ユリウスくんに先に帰れって言われて、言う通りにしちゃったんだ。そうだよね、ぼくはその時、ユリウスくんも一緒に帰ろうって言うべきだったんだ。本当に、ごめんなさい」


 小さな黒い目を潤ませながらぺこりと頭を下げるサーチートを見て、私はサーチートを傷つけてしまったのだと思った。


「ううん、私こそごめんね。サーチートは、悪くないよ。責めるみたいな言い方になって、ごめんね」


 サーチートのふわふわの体を抱きしめて、もう一度ごめんと謝ると、私の腕の中でサーチートは首を横に振る。


「ううん、いいんだ。だってぼく、すごく怖かったから、ユリウスくんの言葉に飛び付いちゃったんだ。この怖い場所から逃げられるって、そればかりを考えて、ユリウスくんがその後どうなるかとか、考えなかったんだ」


 サーチートは私の腕の中で、ごめんなさい、とまた何度も繰り返して、私はサーチートを抱きしめながら、サーチートが無事に戻って来てくれて良かった、嬉しいよ、と何度も繰り返しながら、ユリウスの無事を祈った。

 ねぇ、ユリウス。お願いだから、早く帰って来て。




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