第74話・それぞれの朝



「ところで、こんな朝からどうしたの? サーチートは?」


 昨日の夜、テッドくんは朝になったらサーチートを送り届けると言ってくれていたはずなのに。

 私の問いかけに、テッドくんとコリーちゃんは顔を見合わせると、笑った。


「あのね、お姉ちゃん。サーチーくんね、まだ眠いみたいなの。だから、まだコリーのお部屋のベッドでおねんねしてるんだよ」


 そう言って教えてくれたのは、コリーちゃんだった。


「そ、そう……」


 昨日飲んでたお酒のせいかな……小さな子供たちが起きているのに、自分だけ寝坊しているなんて、サーチートにも困ったものだ。

 だけど、困ったものは、サーチートだけではなかった。

 サーチートなんて、あとの二人に比べたら、まだ可愛いものだったのだ。


「あのさ、もう一組の兄ちゃんと姉ちゃんなんだけどさ」


「ジャンとモネか? 何かあったのか?」


「うん、あの兄ちゃんたち、今朝は頭が痛くて、ごはんも食べられないくらいなんだって」


「は?」


 私とユリウスは、間抜けにも、ぽかんと口を開けてしまった。

 頭が痛くて、ごはんも食べられない?

 それって、どういう事だ?

 もしかして、やらかしてしまったという事か?


「だから、おれとコリーは母ちゃんに言われてそれを伝えにきたのと、兄ちゃんと姉ちゃんはごはんをどうするか聞いてこいって言われてて」


「そ、そうか……」


「モネちゃん……ジャンくん……」


 私とユリウスは、頭を抱えた。

 モネちゃんとジャンくんは、二日酔いだ。

 二人のお父さんに、出発前にあれだけ釘を刺されたのだから、さすがに大丈夫だろうと思っていたけれど、全く大丈夫じゃなかった。

 これは絶対に、ユリウスによるお説教コースだな。

 それに、今日出発する予定だったけれど、多分出発を延ばさなければならない。


「テッド、食事、俺たちはいただくと女将さんに伝えてくれ。それから……あと一泊できるかどうか、聞いてきてもらえるか?」


 ユリウスは深いため息をつくと、言った。

 テッドくんは嬉しそうに茶色の瞳をキラキラと輝かせると、頷く。


「じゃあさ、もう一泊できるようだったら、兄ちゃんたちは、今日出発するのを止めるって事なんだね」


「あぁ、そのつもりだ。連れの体調が悪いのであれば、仕方ないからな。だから、もう一泊できそうなら、出発は明日に延ばすよ」


「わ、わかった! おれ、母ちゃんに聞いてくる!」


「コリーも! コリーも、聞いてくる!」


 興奮した子供たちが部屋を出て行くと、ユリウスはまた深いため息をついた。

 どうやら、かなりご立腹らしい。


「ユリウス、とりあえずお説教は、二人の体調が戻ってからにしてあげようね」


 今お説教すると、モネちゃんとジャンくんの体調は、絶対に今日だけじゃ回復しないような気がする。

 ユリウスは、あぁ、と頷いてはくれたけど、まだかなり怒っている感じがした。


「兄ちゃん、姉ちゃん、母ちゃんたちに確認してきたよ! 部屋、空いてるって!」


「お姉ちゃん、今日もサーチーくんと遊んでもいい?」


 しばらくすると、息を切らせてテッドくんとコリーちゃんが戻ってきた。

 多分ユリウスもなんだろうけど、キラキラした二人の瞳を見ると、怒っていたのがどうでもいいように思えてくる。


「あぁ、構わない。俺たちはもう一泊させてもらう事にするから、思う存分遊べばいいよ」


 ユリウスがそう言うと、テッドくんとコニーちゃんは目を輝かせて嬉しそうに笑った。


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