天壌霊柩 ~超高層のマヨヒガ~ 第11回
小会議室での聴聞は、十数分で終わった。
あまりの拍子抜けに、拓也は退出を促されても、かえって席を立ちかねた。
市教が今回の事態に本気で対処しようとしているとは、とても思えない。
相手側の人数だけは、冬の聞き取り調査よりも、確かに多かったのである。あの時の若い職員二人は見当たらず、上役らしい年嵩の職員が数人、ずらりと待ち構えていた。中には学校指導課長、教育部長といった役職者も含まれていたが、偉ぶった態度で稀に口を挟む程度で、単に文部科学大臣の面子を立てているだけらしかった。
聴聞の内容も、冬の調査の記録を、ざっとなぞっただけである。その後に思い出したことはないかと訊かれても、特にないと答えれば、それ以上は追求されなかった。
あるいは相手が拓也だから、特に甘く接したのかもしれない。中学での成績や素行は、市教も承知しているはずだ。高校入試の点数順位や、その後の成績まで筒抜けかもしれない。文武両道の優等生を、これ以上この問題に関わらせたくない――市教がそう思ってくれたなら、むしろ望むところだ。
しかし、その場のあまりの弛緩した空気に、拓也は著しい不合理を感じてしまった。何事も合理性と整合性を主軸に行動している拓也にとって、市教の
あえて拓也は、こんなことを口にした。
「さっき待合室で麻田真弓さんに会ったんですが、男女別で頭文字順なら、麻田さんの次は犬木茉莉さんですか? この後、外で待っていれば、僕も池川君に会えますか?」
当てつけで言ったわけではない。警察にあの三人の捜索願が出ていることは、この場の全員が知っているはずだ。しかし、それを拓也に言えるはずはない。ただ、大人たちの反応が見たかった。
案の定、課長と部長は無言だった。
一番年下と思われる職員が、周囲の視線に促され、ごく事務的に答えた。
「いや、彼らは立場が違うからね。当事者は、先に呼んで話を訊き終えたよ」
拓也には期待以上の情報だった。
ならば、あの三人が消えたのは個別聴聞を終えた後である。あの動画の件を追及されたとしたら、今後ただでは済まないと、どんな馬鹿でも悟るだろう。青山が言ったように、自発的に逃げた可能性が高い。
「……そうですか」
拓也は、それだけ言って話を切った。
何月何日に彼らを呼んだのかも知りたかったが、そこまで詮索しては、自分の心象に差し障りかねない。
それでも相手は不審げな顔になり、
「なぜ、そんなことを?」
「いえ――僕としても、あの三人には、少々言いたいことがあるものですから」
すると教育部長が口を開いた。
「哀川君、君の気持ちはわかるが、彼らに近づくのは、もうやめておきなさい。君は武道をやっているそうだね。万一喧嘩にでもなったら、勝っても負けても後が大変だよ」
「……はい」
骨の髄まで事なかれ主義の集団なのだ――。
拓也はそう結論し、丁重に頭を下げて席を立った。
「それでは、失礼します」
内心、教育部長の助言など気にとめていない。
今後の進展によっては、確かに座視を決めこむ可能性もある。しかし、それは市教の仕事しだいだ。あの三人組が、もしこのまま無傷で解き放たれるなら、拓也は個人的に、なんらかの形で対処する必要がある。いわゆる義憤ではない。何事も部分的なマイナス要因は極力是正して、全体をできるかぎりプラス方向に流す――それが拓也にとっての合理性、社会的整合性である。
無論、それによって、自分自身が社会的なマイナスを
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