内がダメなら外
「それにしても……こいつらはいったい……」
「それなんだが……」
中本さんはそういうと、縛り上げている男の一人に近づいていくと、黒のズボンをまくり上げてふくらはぎを露出させる。
「やっぱりか」
「これはタトゥー?」
中本さんが露出させた男のふくらはぎ……というか両方の足首辺りには、なにかしらの目玉のようなタトゥーが描かれていた。
「ああ。俺の考えが正しかったら……」
中本さんはそう呟くと残りの七人のズボンもめくっていき、それぞれの足のふくらはぎにも、やはり同じようなものが描かれているのを確認した。
「これで確定だな。こいつらは竜の瞳って名前の組織犯罪集団だ」
「竜の瞳ですか……よく気づきましたね」
「まあな。さっき戦ってる時にチラッと見えたし、こいつら竜の瞳とは一度戦ったことがあるからな」
……なるほど……え?
「ちょっと待ってください。こいつらと中本さんは前にも会っているんですか!?」
「ん、ああ。俺らや他の探索者が一回こいつらのアジトを警察と協力して潰したことがあってな。その時にこいつら竜の瞳の構成員も何人か捕まえたんだよ。
まあ、包囲網が突破されちまって俺らがボスの顔を見る前にボスや何人かの幹部には逃げられちまったんだけどな」
「……マジすか」
そんなことまであるのかよ……しかも中本さんの話によるとボスや幹部格の人間も逃げたみたいだし……本当に厄介そうだな。
っていうことはあのリーダーっぽかった男がボスか?それとも幹部?どっちにしろこの状況はヤバいなんてものじゃない。
「じゃあそんな竜の瞳がなんで高校に……?」
「さぁな。こいつらを起こして目的を聞こうにも、気絶してるんじゃどうしようもないからな……
まあ、最悪こいつらみたいな実行部隊は全員探索者崩れだから強引に起こしても良いんだがな」
……そうだよな。元探索者の探索者崩れでもなかったらレベルが500や1000もあるのはおかしいもんな。
元々探索者崩れっていうのは、なにかしらの事件や犯罪を起こしたり犯してしまったりして探索者資格を剥奪された人間だ。
どんな時代にも、力を手に入れたことで暴力的になるやつがいるからどんな年にも一定人数いるらしいしな。
そんな奴らが18歳の生徒だけを……18歳にはなにがある……?
……うん?18歳ってステータスが発現する年齢だよな?
……まさか……!
「中本さん!」
「お、おうなんだよいきなり」
「す、すいません。いや、そんな場合じゃなくて!」
生徒や先生達に聞こえないように中本さんに近づく。
「中本さん、竜の瞳って人身売買なんかに手を出していましたか?」
「えっと……どうだったか……あ、ああ!
確かあいつらを一斉摘発することになったのは人身売買の証拠を掴めて、あいつらの潜伏場所がわかったからで……ってまさか!」
くっそ!これで間違いない。
「すいません!中本さん!警察が来るまで皆を守ってあげてください!俺はあいつらを追います!」
「一人でか!?それなら俺も……!」
「いや、中本さん達はここにいる生徒や先生達の護衛をお願いします。
まだ学校の敷地内にいてくれるなら、複数人で動くよりも隠密スキルなんかを持っている俺一人の方が動きやすいです!」
「いや、だが……わかった。だけどお前も無理だけはするなよ。危なくなったらすぐに戻ってこい!」
俺がそういうと、中本さんは渋々といった感じで引き下がってくれた。
「わかっています!それでは行ってきます!」
「おう!頼んだぞ!」
中本さんに見送られながら体育館を後にして、校舎の方に向かってからまだ学校の敷地内にあいつらがいるかを【索敵】スキルを応用して調べていく。
「……いた!」
良かった。どうやらまだ学校内にいたらしい。
駐車場を見ると、俺が来る前までなかった真っ黒のワゴン車が何台か止まっていた。
なるほど……あのワゴン車でここまで来たのか。
今日が説明会で、生徒や先生全員が体育館に集まっていてくれたお陰ですぐにわかる。
【索敵】スキルによって捉えた複数の反応は、校舎の最上階である四階の一番端にある教室にいるみたいだな。
だけど、校舎の中の二つある階段にはそれぞれの階に二人ずつ階段の行く手を塞ぐように監視がいるから階段を使えそうにない。
階段は気配の場所で判断してるから、どこか他にも監視されてない階段はないかと思ったんだけど……
「だぁぁああないかぁ……」
校舎は中庭を挟んで作り上げられていて、渡り廊下を使って二つの校舎を行き来するタイプだった。
まあ、渡り廊下もしっかり監視されていて、階段と同様に塞がれているから使えなかったんだけど。
「仕方がない。多少のリスクは背負うしかないか」
既存のルートがどこもダメなら、探索者らしく自分で探るしかない。
幸い、この学校は広い敷地に建っているおかげで、死角となる場所は茂みだったりが結構多いし、【隠密】スキルを使えば目立つことなくルートを探せるだろ。
「よし、これでいこう」
それじゃあ、方針を決めたことだし早速行動に移るとしよう。
その後、一応【索敵】スキル持ちがいることも考えて、できるだけ気配を【隠密】スキルとあわせて気配を殺し、校庭には出ないようにして校舎の構造を素早く把握していく。
「よし!これで完璧だ」
一通り気配のある教室付近の校舎の構造を頭に入れ終えた後、四階に到達できるルートを考える。
校舎の構造は
・外階段なし。
・窓側ベランダがある。
まあ、これぐらいしかわからなかったけどこれだけわかれば十分。
後は実行に移すだけだ。
「中がダメなら外からってな」
俺は、【隠密】スキルを使いながら気配を感じた教室の、一つ隣の教室へ向けてベランダをピョンピョンと跳ねて、縁を掴んでどんどん上へと向かう。
幸いにも、今の俺のステータスならそこまで苦労なく上がることができるしな。落ちても最悪(俺の体は)問題なし!
「よっと」
そして、目的の教室と同じ階のベランダについたところで、一旦止まる。
ここから先は慎重にいかないといけないからな。
だけど、現時点で窓から確認したりしてないってことは俺の【隠密】スキルを看破できていないってことだろう。
「そうと決まればまずは……」
音を立てないように隣の教室のベランダに移動して、そこから少しだけ顔を出して様子を確認する。
というかどんな状況であろうと、竜の瞳相手に先手を取れるように【捕捉】スキルを使っておきたい。だけど、優先度としては竜の瞳よりも生徒の安全の確認が最優先だ。
教室の中を確認すると、机は後ろに移動させられていて、その前に生徒達はいた。
人数、顔を確認してみても、誰一人欠けてないみたいだな。
……こうなってくるとあいつらの目的がわからなくなってきた。
最初はステータス持ちの18歳をどこか違う国にでも売ろうとしているのかと思っていた。でも、今の状況から考えるにそれはなさそうだ。
もし、ステータス持ちの18歳を他の国に連れて行こうとしているのだとしたら、まだ連れてかれてないのは少しおかしい。
それに、警察を呼んだから協会の探索者もう来てもおかしくないのに、まるで焦ってないようにも見えるし……どういうことだ?
警察を呼んだことをあいつらが知らないにしても、まったく焦っている様子を見せていないのはおかしいだろ。
「……いや、まずは制圧だな」
ここで考えていても答えが出ることはない。
あいつらが何を目的として、何をしようとしているかなんてわからないが、やるって決めた以上は早く終わらせよう。
まあ、まずはあいつらが何かする前にこっちで先制攻撃を仕掛けさせて貰おうかね。
もちろん俺流でな。
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