100話記念話2 嫉妬とホラー映画鑑賞1
100話記念話2 嫉妬とホラー映画鑑賞1
「映画?」
「そ。一緒に見よ」
いつものように俺の家に来た有美は、ビシッと鞄の中から抜き出した一枚のディスクを見せて、言った。
映画の名前は「邪霊」。確か半年くらい前に公開された日本のホラー映画だ。
「有美ってホラー苦手じゃなかったっけ」
「だ、だからアンタと見るんでしょ」
「無理するくらいなら見ないほうがいいんじゃ……?」
「色々あるの! いいから早くテレビ貸しなさい!!」
これは後から聞いた話だが。どうやらそのディスクは在原さんがレンタルしてきたものだったらしい。無類のホラー好きな彼女に感想を語り合いたいからと押し付けられて、断れなかったんだとか。相変わらず根の部分がいい子というかなんというか。
どうやらもう見るという意思は固いらしく、仕方ないのでリビングのテレビで一緒に観ることにした。幸い今日は両親もいないし、一時間半の映画だったら帰ってくるまでにも充分間に合うだろう。
「飲み物とかお菓子とか、適当に取ってきて。ディスクの準備しとく」
「ふ、ふふ。それでいいのよ……」
全く、無理して。
有美はホラー耐性皆無だ。たまに二人で映画を、なんてこともあるけれど、劇場で本編が始まる前にホラー映画の予告が流れると、決まって身体をビクつかせていたのを今でも覚えている。
親友の在原さんの頼みとはいえ、そこまで頑張らなくても。というか、在原さんなら絶対有美がホラー苦手なこと知ってるはずだけど。何故押しつけるような真似をしたのか。
(……いや、在原さんだしな。何考えてるか分からないのなんて、いつものことか)
てててっ、とキッチンからおあつらえ付きにポップコーンが入った袋を持ってきた有美からそれを受け取り、パーティー開けする。
あまり使う機会のないブルーレイレコーダーは少し埃をかぶっていたが、それを拭き取ってディスクを入れてやるとどうやら動作には問題が無さそうに見えた。
コップにオレンジジュースを注ぎ、いよいよ映画を見る準備は万端。二人並んで柔らかなソファーにお尻を沈めると、リモコンの再生ボタンに指を添える。
「ねえ有美。本当、無理はしなくていいんだよ? こういうの苦手って知ってるし」
「む、むむむ無理なんて、してないっ」
「じゃあその腕は?」
「……」
ぎゅぅぅぅぅぅ。有美の力とは思えないくらい強い腕力で、腕が締め付けられている。
俺としては抱きついてもらえて、凄く嬉しいけれど。どちらかと言えば心配が勝ってしまう状況だ。
「部屋の電気、消す?」
「…………絶対ヤメテ」
「分かったよ」
まあもうぐだぐだ言っていても仕方がないだろう。
俺は再生ボタンを一度、押した。
「どぅぅぅぅうん。邪霊いぃぃぃぃ」
「ぴいいぃぃぃぃぃぃぃっ!?!?」
「おわっ」
ありふれたタイトルコール。少し低いドスの効いた声で、本編をこれから再生するという合図として声優さんがたった三文字の映画タイトルを読み上げた。たったそれだけのこと。
それだけで、有美は甲高い悲鳴をあげて。プルプルと涙目になりながらもはや抱きつくというよりしがみつくのほうが正しいような、そんな感じの危機迫った力で。俺の脇腹に顔を潜り込ませていた。
「ひふっ、ひふぅ……ひぃっ」
(もはや映画よりこっちの方が怖いな……)
俺はホラー映画を見る方ではないし、どちらかと言えば苦手だけれど。
これは多分あれだ。感動する映画を見ている時に隣の人がボロ泣きしていると何故か涙が引っ込むみたいな、あの時の感情。なんかこれからホラー映画を見るとは思えないくらい、心が落ち着いてしまっている。
強いて言えば、有美が突然上げる悲鳴。それに驚いてしまいそうなくらいだ。
「幽霊さん、こわいぃ……」
「っっっ」
あ、ダメだ。ダメだぞこれ。
俺の彼女、可愛すぎないか……?
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