第70話 浴衣娘たち

70話 浴衣娘たち



 由那達と別れてしばらく。


 俺と渡辺は二人で温泉に浸かり、中田さんの発狂をBGMにして身体を温めてから。数百円で借りることができるレンタルの浴衣を着て、共用休憩スペースにて牛乳を飲んでいた。


「遅いな、三人とも」


「そうだね。まあもう流石に温泉からはあがってるだろうし、そろそろだと思うけど────」


「二人とも、お待たせー!!」


 と、二人で談笑していたその時。


 聞き慣れた可愛らしい声が、近づいてきた。


「えへへ、お待たせゆーしっ。これ……どうかな?」


 ピンク色の浴衣に身を包み、チラリと谷間を覗かせて。お風呂上がりで湯気の上がるポカポカの身体を見せつけながら、由那はどこか甘えるように上目遣いをする。


「……似合ってる」


「やったぁ♪ ゆーしも似合っててカッコいいよ〜!」


 浴衣にはいくつかのカラーバリエーションがある。格安レンタルにも関わらずおよそ五色もの色を選ばせてくれるここで、やはり由那は真っ先に女の子らしいピンク色を選んだようだ。


 本当によく似合っている。無邪気で純粋な子供っぽさも、成長した身体の色っぽさも。そのどちらもピンク色によって引き立てられていて、思わず直視できずに目を逸らしてしまうほどだった。


 可愛い。やっぱりコイツ……本当に可愛い。


「……あ、あんまり見ないで、寛司。似合って、ないでしょ……」


「うんうん。そんなことないよ。薄紫色、有美に似合ってて凄くいいと思う」


「い、色のことじゃないって。その……私は二人みたいに、その……大きくないから、さ」


 由那が真っ先に俺に向かってきた一方で、顔を紅潮させながら渡辺の元へゆっくりと歩いていったのは、中田さん。薄紫色の浴衣をスラりと着こなし、大人っぽさを演出している。


 前から思っていたことだが、中田さんも在原さんも。うちのクラスでは一二を争うレベルの美少女だ。渡辺もムカつくけどイケメンだし、この空間は謎にレベルが高い。


「ねえ有美、俺がそんなこと気にすると思う?」


「……でも、男の子はみんな大きい方がいいんでしょ」


「世間一般的には、そうかもね。だけどさ、俺は大きいとか小さいとか、そういうことよりも。好きな人に……有美についてるのが、一番好きだな」


「へひっ!?」


「だから、ね。自信持ってよ。有美が世界一綺麗だよ」


「あぅ、うぁう……」


 渡辺がそっと頭を撫でると、ぷしゅぅぅと音を立てて中田さんが縮こまっていく。


 流石のイケメンっぷりだな。あれだけ癇癪を起こした後で自信を失っている中田さんを一瞬にして堕として見せた。彼氏をやっているだけある。


「ったく、だから言ったろ有美ぃ。渡辺君は大きさなんか気にしないってさぁ。ってて、まだおっぱい痛い……」


 ポリポリと胸を掻きながら無防備な姿を見せる在原さんは、赤と白の浴衣を纏っていて。クラスの連中が見たら卒倒しそうなレベルの仕上がりとなっていた。


 いつもマイペースながらに美少女。性格に癖は強いが、よくモてそうだ。彼氏の一人くらいいそうなもんだが、この人のそういう噂は一度も聞いたことないな。むしろ不思議だ。


「よぉしお前ら、イチャついてないで飯行くぞ飯! へっへ、ここら一帯は海鮮と温泉卵が名物だからな。たらふく食ってやるぜぇ!!」


「海鮮! 私いくら食べたーい!!」


「よぉし由那ちゃん、いざ出発だ! 温泉街食い倒れの旅に行くぞー!!」


「おーっっ!!」




 元気満タンの在原さんに連れられて。五人の温泉街巡りが始まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る