第25話 いでよ、お散歩カート
わたしは子どもが大好き。
見ているだけで幸せになれる尊い存在、それがわたしにとっての子どもだ。
だから本来のみんなももちろん可愛いけれど、幼児になったみんなの可愛さは、わたしにとってはご褒美そのものだった。
『メグてんてー! カラちゃん、かわいい?』
「うんうん! カラちゃんすっごくかわいいよぉ~! かわいすぎて食べちゃいたい!」
わたしがデレデレしながら抱きしめたのは、三歳ぐらいの赤髪おかっぱの女の子。隣に立つやんちゃそうな男の子は、緑の髪からしてシュンくんかな? 最後にぺたんと座ってる、女の子にも男の子にも見える赤ちゃんは……消去法でスーちゃん?
みんなどこからどう見ても、人間の子どもにしか見えなかった。
「ルカさんすごいですね! こんな魔法も使えるなんて!」
「別に」
興味なさげに言いながら、ルカさんは手早く何かの紋を地面に刻んでいる。
「おい、ファブニール。帰る時のために印をつけるが、文句ないな?」
『ふん。これでいつでもお前がここに飛んでこれるってワケか。……不快だが、メグのためなら許してやらんこともない』
ふんぞり返るファブニールさんを無視して、ルカさんがわたしたちの方を向く。
「準備はできたから、さっさと全員で手を繋ぐか体のどこかに触れろ。街まで連れて行ってやる」
どうやら、ルカさんが刻んだ紋を使えば、魔法で瞬間移動ができるらしい。
わたしはわくわくしながら、まずは自力で歩けない赤ちゃんのスーちゃんを抱っこした。それからカラちゃんと手を繋ぐ。
「じゃあカラちゃんとシュンくんで、おててを繋いでくれるかな?」
保育園のお散歩でも、よくこうして園児同士で手を繋いでもらっていたなぁ。
……なんてのんきに考えていたら。
『やだっ! カラちゃんちゅながない!』
『おれもやだ!』
言ってぷいっとそっぽを向かれる。
ここに来て、まさかの問題発生。
「じゃ、じゃあ、ルカさんとおててを繋いでくれるかな……!?」
代案を提案してみたものの、ふたりはまたほっぺを膨らませた。
『カラちゃん、メグてんてーとしかおててつながない!』
『おれはだれとも、つながないからな!』
こ、困ったな……。何かを察知したスーちゃんもぎゅぅううっとわたしに強くしがみついてきて、こっちもおろせそうにない。カラちゃんはともかく、シュンくんは意地でも手を繋がないぞ! みたいな意思を感じるし……。
「こういう時に“お散歩カート”があればなぁ……」
はあ、とため息をつきながらぼやくわたしの声に、ルカさんが反応する。
「オサンポカート? なんだそれは」
「保育園には、園児を乗せてお散歩する専用の車があるんですよ。四角くて、大きいものだと八人ぐらい乗れるんですけど……」
日本だと、幼児たちを乗せた車輪付きの大きなワゴンと言えばみんな一度は見たことがある気がする。あれならお散歩を嫌がる子でも結構乗ってくれるから、とっても助かるんだけど……。
わたしが身振り手振り説明すると、ルカさんは「ふぅん」とつぶやいた。
「要は、でかい乳母車があればいいんだろう?」
言うなり、ルカさんの深紅の瞳がキラッと光る。それからスイスイッと指を動かしたかと思うと、あたりの木が何本か浮かび上がった。
スパンスパンという小気味いい音がして、木がどんどん削られていく。細かな部品に変わった木は、ルカさんの魔法によって瞬く間に組み立てられていった。
その形を見て、わたしが目を丸くする。
「これって、もしかして……!」
「即席だから見た目は悪いが、その分魔法で補強してある」
最後のパーツが組みあがると同時に現れたのは、見慣れたお散歩カート……に、よく似た木のカートだった。
「す……! すごい! 今の一瞬で作っちゃったんですか!? 私の話だけで!? ルカさんって実は天才なのかも……!」
褒めちぎると、ルカさんがふんと鼻を鳴らす。
「それよりさっさと行くぞ。ちびどもを全員そこに載せて、お前はしっかり手すりにつかまっていろ」
「は、はいっ!」
わたしはあわててカラちゃんたちをカートの中に乗せた。
みんなお散歩カートには興味深々だったみたいで、カラちゃんもシュンくんも、目をきらきらさせながら乗り込んでいく。
スーちゃんは赤ちゃんだから落ちないか心配だったんだけれど、ルカさんが蔓を生やして簡易シートベルトを作っていた。す、すごい!
ついでにわたしのスニーカーも、蔓で靴をぐるぐる巻いてくれて、少しの間だけ歩けるようになった。
子どもたちをカートに乗せ、わたしは意気揚々と言う。
「準備できました!」
そこにファブニールさんが首を乗り出してくる。
『気を付けていってくるのだぞ。小僧、メグたちに何かあったら、わたくしが国ごと燃やすからその気でいるように』
ファブニールさん、さらっとおっかないこと言ってるなあ……。
わたしが遠い目をしていると、ファブニールさんを無視することに決めたらしいルカさんが手を差し出す。
「それじゃ行くぞ。早くつかまれ」
えっ? 手すりじゃなくて、わたしとルカさんが手を繋ぐんですか!? こ、こんな綺麗な男の人と、手を繋いじゃっていいんですか!?
突然のことに動揺していると、ルカさんがめんどくさそうに言った。
「そっちの方が魔法の通りがいいんだ。ほら早く」
「は、はいっ!」
ルカさんは全然平気そうだし、わたしだけ恥ずかしがっている場合じゃない!
意を決すると、わたしはガシッとルカさんの手を取った。
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