第16話 幹部閣議
カタカタカタカタ
部屋にタイピング音が響く。
「・・・・・・先輩、これは何の点検?」
私は一心不乱にタイピングをする先輩に問いかけてみる。
「どこかおかしい場所が無いか確認するのよぉ。少しのバグが、とんでもない自体を引き起こす事になっちゃうからねぇ」
「そうすか」
私は椅子に座り、缶コーヒーを開ける。
「んぐっ、んぐっ、んぐっ・・・・・・」
喉を鳴らしながら、コーヒーを飲む。
「ぷはーっ! 美味い!」
缶を机に叩きつける。
「美味いのは分かったけど、もう少し静かに飲め。行儀が悪い」
「そうですよ。何かを飲むときは音を立てないのがマナーです」
「はいはいすみませんでした」
適当に謝罪し、二本目の缶を開ける。
「それにしても、私がいない間大丈夫だったんですか? 何か悪いこととかありませんでしたか?」
「そりゃあ、フユちゃんが居なくなったから戦力は大幅にダウンしたけど、他の幹部の子たちもいるからねぇ。心配しないで大丈夫よぉ」
「あぁはい」
「あ、そうそう。今日、『幹部閣議』あるからねぇ」
「ゲッ・・・・・・」
「しっかりと出席してねぇ。もちろん私も出席するけど」
「了解でーす」
スマホを取り出し、ゲームを始めることにした。
「なぁフユ。幹部閣議ってどんな感じなんだ?」
「その名の通り、幹部の人たちが集まって会議するんだよ」
「じゃあ私たちは行けないのか」
「当たり前でしょう。アンタが行っても話にならないし」
・・・・・・とかいいつつ、本当は精神年齢幼稚園児の幹部の人が一人居るんだけどね・・・・・・。
「あらぁ。じゃあ貴方たちも見学してくぅ? 私は歓迎よぉ」
「え、先輩、いいんですか? 絶対邪魔になりますって」
「いいじゃない。それに、私たち幹部の背中を見て、幹部を目指す子が増えるじゃない」
「ちょっと何言ってるか分からない」
私の頭脳を持ってしても、理解不能だった。
「フユ、一緒に行ってもいいか?」
「はぁ・・・・・・。いいよ、来ても。ただし邪魔にはならないようにしてよね」
「分かってるって!」
笑顔で腕をぶんぶん回転させる成美。その行為が私の不安を煽ってくる。
「よし。点検終了! そろそろ始まるし、行きましょうか」
「そうっすね」
私たちは先輩の部屋を後にした。
「エレベーターで行くのか?」
「うん。もしかして嫌だった?」
私は普段、体力づくりの為に常に階段を使うことを心がけている。 (デパートとかに出かけたときも常に階段を使っている)
だが今日は遅刻してはならないので、エレベーターを使用している。
『70階 幹部フロアでございます』
エレベーター内にアナウンスが響き、直後にドアが開く。
「お、おぉ・・・・・・。幹部フロアなんて初めて来た・・・・・・」
「そりゃあ幹部以外立ち入り禁止だからね。なんかあったときを除いて」
エレベーターを降り、廊下を進む。
床にはレッドカーペット。左右には滝が流れている。
手すりの下を見ると、蓮が浮かんでおり、鯉が泳いでいる。
そして、全体的に金色が多い。
「何か・・・・・・。和風だな・・・・・・」
「確かに。何かいい匂いもしますね」
「あぁそれ、最高級香木だよ。後で総統にお願いして分けてもらおうか?」
「やめてくれ! 総統にそんなこと頼めるわけ無いだろ!」
全く怖がりだねぇ。
とりあえず、香木の香りを楽しみながら、廊下を進む。
「警備員も結構居るんだな」
幹部フロアには、無数のエリート隊員が警備に当たっている。
幹部フロアの警備は、若い隊員の憧れだ。
「よし。着いた」
『円卓室』に辿りついた。
ドアの前に立つと、10人ほどの隊員が集まってくる。
そして、私の前で片膝を着き、挨拶をした。
「お待ちしておりました。フユ様、ベガス様。どうぞお入りください」
「どうも~」
「失礼するわねぇ」
一人の隊員がドアを開け、私たちは円卓室に入る。
「な・・・・・・何だ・・・・・・!? この圧力は・・・・・・」
成美が膝を震えさせている。
「歯の振るえが・・・・・・止まらない・・・・・・」
芽亜李も、歯をガチガチ鳴らしている。
ここが、私たち幹部、『ロイヤルファミリー』の円卓室だ。
「・・・・・・遅いぞ、フユ」
和服に身を包んだ渋い男性が、私を睨み付けてくる。
「さーせんさーせん」
ここで、『ロイヤルファミリー』について、簡単に説明しよう。
『ロイヤルファミリー』は、ここに所属する隊員の中でも選りすぐれた者たちが所属する、いわゆる四天王が増えたようなものだ。
ロイヤルファミリーはそれぞれ階級が存在しており、低い順から、『7(ズィーベン)』・『6(ゼクス)』・『5(フュンフ)』・『4(フィーア)』・『3(ドライ)』・『2(ツヴァイ)』・『1(アインス)』・『0(ヌル)』となっている。
ちなみに、今睨み付けてきたこの人の階級は、『1』だ。
名前は、『夜神伊舞希(いぶき)』。
「汝、何故、毎度毎度遅れてくるのだ。貴様には幹部としての自覚はあるのか?」
「あるって~。そんなに神経質にならないほうがいいよ?」
手のひらをヒラヒラさせながら話す。
そんな私の態度に腹を立てたのか、伊舞希は腰から刀を抜こうとする。
「そうよぉ。もっとレディには優しくしないと、モテなくなるわよぉ?」
ベガス先輩が彼を諭す。
「我は構わん」
ベガス先輩の階級は、『3』だ。
「あれぇ~? フユちゃん来てたんだぁ! 見て見て! チューリップ折ったんだ!」
「へぇ~。上手に折れたね」
幼い子供のように私に近寄ってきた少女の名前は、『朝比奈かのん』。こんなのでも私と同い年だ。
階級は『2』。
彼女がこのようになってしまっているのは、過去にとある事件があったからだ。
「はい、あげる!」
折り紙のチューリップの後ろ側にセロハンテープを輪にして貼り、私の胸に貼り付ける・・・・・・が。
「あ、取れちゃった」
私が巨乳なので取れてしまった。
「あー、何かイライラしてきた。斬って良い?」
成美が刀を抜こうとする。
次の瞬間、成美が壁に飛ばされた。
集まっていた幹部たち全員が、壁の方を見る。
壁を覆っていた土煙が消え、伊舞希か成美に刀を突きつけ、腹を膝で押し付けているのが確認できた。
「ハァ、ハァ・・・・・・」
成美は口から血を流しており、膝で腹を押し付けられる度に、血を吐き出している。
「汝、それでも剣士か。その腐った根性、今我がここでたたっ斬ってくれる」
伊舞希が刀を振り上げた瞬間、私は伊舞希の元へ瞬間移動した。
「・・・・・・何をする」
振り上げた手を右手で押さえ、固定する。
「女の子には優しく。でしょ?」
私はジャンプし、そのまま勢いよく伊舞希の腹を蹴る。
「グハァッ!」
蹴りつけられた伊舞希は正反対の壁に衝突し、壁にヒビが入ってしまった。
「おぉっ! フユちゃん凄い!」
かのんは笑顔で駆け寄ってくる。
「そんなこと無いよ。手加減したし」
ガラガラと瓦礫が崩れる音が聞こえ、壁を見る。
「貴様・・・・・・」
その直後、私の背後に瞬間移動してくる。
「おっ、さすがは幹部。高速移動は修得済みってかぁ?」
「ここで貴様が死ねば、我は昇級する」
何かの剣技の型を繰り出そうと、空中に居る状態で構えを取る。
「えいっ!」
刀を振り下ろそうとした瞬間、チェーンで刀が巻きつけられ、刀が動かせなくなった。
伊舞希が慌ててチェーンの方向を見ると、かのんが巨大な棘付き鉄球を持っていた。
「喧嘩は・・・・・・駄目だよ?」
首をこてんと傾け、純粋無垢な声で伊舞希に話しかける。
「かのん・・・・・・」
「いい加減にしろ。騒々しい」
「!」
椅子に座り、円卓に足を乗せゲームをしている少年が大声で話した。
「幹部の癖に、ビービービービー喚いて恥ずかしくねぇのかよ」
「何だと・・・・・・」
彼の名前は『周防政宗』。
階級は最低の『7』。
よくもまぁ、最低階級の癖にこんな口の利き方が出来たものだ。
「即席で入った者に、そのような物言いをする資格は無い」
伊舞希が苛立った声で政宗に言う。
「即席って。アンタこそフユに一切勝てないくせに毎度毎度喧嘩を売る勇気があるもんだよ」
私の階級は最高位の『0』。まぁ当たり前っちゃ当たり前だけどね。
「まぁまぁ落ち着きなはれや~。政宗君も、一番下なんだからあんまり上の人に生意気なこと言わないこと。そして伊舞希も、最高齢なんだから年下に優しくしようね?」
「フユ。貴様いい加減に――」
「いいな?」
目を大きく見開き、二人を睨む。
二人は何も発さなくなり、その代わり、来ている服に汗がびっしょりと付いているのが確認できる。
「・・・・・・分かりました」
「承知・・・・・・」
両方、全身を震わせ、おとなしくなった。
二人が恐怖を覚えたのを、離れた距離でも分かってしまう。
「――席に着け」
円卓室に男性の声が響く。
総統の声だ。
全員、黙って円卓の割り当てられた席に着く。
「・・・・・・ロイヤルファミリーの諸君。今回も、ファミリーの誰も欠けることなくここに集まってくれて感謝する」
部屋の奥から、左右に護衛を連れた総統がゆっくりと歩み寄ってくる。
「お褒めの言葉を頂き我々一同大変光栄でございます。今後とも貴方様の為に精進してまいります」
「ありがとう、フユ。さて、まずは今年度の戦死した隊員についてだ。天音。頼む」
総統が席に着き、代わりに天音が席を立つ。
「承知しました」
首まで伸ばした黒髪の先だけを緑色に染めた少女が、私たちに紙を配る。
「今年度の戦死した隊員は、『第一剣豪部隊、18名』、『第四剣豪部隊、26名』、『第二銃撃部隊、29名』。その他、71名。以上です」
「ご苦労。さて、フユ君。これらの部隊は確か、君の部隊だった気がするのだが、どういうことか説明していただけるかな?」
総統に話を振られ、私は席を立つ。
「はい。おそらく、『財団ZX(ゼクロス)』の幹部によるものかと。そして、いずれも私不在の時のみ襲撃されております」
「財団ZXか・・・・・・」
総統がうなり声を上げる。
『財団ZX』を簡単に説明すると、私たちの敵の、テロリスト集団だ。
奴等によって、私たちの隊員はおろか、ロイヤルファミリーの者たちも何人も殺されている。
「直近で、財団ZXに関する被害は189件確認されています。我々もそろそろ動くべきかと」
「そうか。だが、あちらの幹部も我々と同等、それ以上に強い者もいる。油断は出来ない。・・・・・・あとフユ。一つ聞いていいか? 何で幹部以外の隊員がここにいるんだ? 約一名隊員ですらないし」
総統は成美と芽亜李、優奈を見る。
「それは私の権限で入室を許可しました。一般隊員に我々幹部の背中を見せ、幹部に対する尊敬を持ってもらおうと」
「そ、そうか・・・・・・。なら構わん・・・・・・」
総統はこれ以上私に質問するのをやめた。
これ以上質問しても意味がないというのを、総統はもう理解しているらしい。
「それでは予算報告に移る。天音頼む」
「承知しました」
再び席を立ち、紙を配布する。
「今年度の予算は、前年度に比べ隊員の人数が減っているため、少なく見積もっている。何か異議がある者はいるか?」
誰も異議を唱えなかった。
「では予算報告を終わる」
あれ? 今回の会議は馬鹿に早く進むなぁ。いつもなら結構時間かかるのに。
「これにて会議を終了します。後ほど、幹部訓練が行われますので、訓練場に集合してください」
「え? もう終わり?」
「そうだが。何かあったか、フユ?」
「いえ、何でも」
・・・・・・まぁいいや。早く終わったから訓練が早くできる。
「なぁ、幹部訓練って何なんだ?」
「その名の通り、幹部の訓練だよ。多分アンタじゃ無理だけどね~」
「馬鹿にするな!」
顔を真っ赤にし、怒ってくる成美。そういうとこが弱いって言ってるの。
何で分からないかな?
「おい、フユ」
「ん? どしたの伊舞希」
伊舞希に肩に手を置かれた。
「この後の訓練。我と相手しろ」
「え~? 面倒だなぁ」
「逃げることは許されない。待っているぞ」
そう言残すと、伊舞希は訓練場へ向かってしまった。
「伊舞希様に対戦願い受けるとか、お前ヤバいな・・・・・・」
「そうかな」
「だって伊舞希様めっちゃ強いだろ!」
実際、伊舞希は、組織の中で剣の腕は最強だ。
成美程度では相手にならない。
「面倒だけど、喧嘩売られたなら、こっちも動かないとね」
売られた喧嘩は、買う主義だ。
「さてと、訓練場に向かいますか」
私たちは、急いで訓練場に向かった。
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