　池袋ではずいぶん呑（の）んだ。

　会社が当地にあった関係で、ある横丁に立ち寄るのが日課になっていた。昭和三、四十年代の風情を遺（のこ）す横丁だった。

　行きつけの飲み屋に、歌手の故・箱崎晋一郎さんゆかりの店があった。そこをベースキャンプにし、流しに出ていたようである。私が通い始めた頃はすっかりメジャーになっていた。

　ママが猫を飼っていて、よくカウンターで寝ていた。ネズミ除（よ）けとともに、客除けにもなっていた。

　その頃から、商売気のない呑み屋が増えていた。ママたちが高齢化していたことも一因だろう。開発の波が押し寄せ、ブローカーが地上げに来るのを待っているママも、実はいた。

「そこ（の店）まで（地上げ屋が）来ているのよ」

　などと目を輝かせていたものだ。

　新宿で仕事をする機会が増え、池袋（ぶくろ）から足が遠のいた。再開発が進んだと聞いた。コロナ禍（か）、あの街はどうなっていることだろう。

　今、日本中の繁華街がかつてない速度で変化しているようだ。進歩ではない。退歩だろう。私の生まれ故郷もその例に漏（も）れない。

　治療院の患者さんが、知り合いのスナックが店を閉めるので、労（ねぎら）いに行った。

「家賃を払って店を続けるほど儲（もう）けがないから」

　ということだった。

　その店にもカラオケが置いてあった。点数が出る。カラオケの点数はそれこそカラいので有名だ。

「これまでに百点出したお客さんが三人おるのよ」

　と、ママさん。

「そのうちの一人は、あなたが行っとる治療院の先生よ」

　ということだったらしい。

　そういえば、その店で箱崎晋一郎を歌ったことがあった。歌い終えると、画面がガチャガチャと賑（にぎ）やかになった。

「故障かな？」

　と、心配していると、一〇〇点の表示が出た。九〇点台はよく出していたが、満点は初めてだった。

　コロナが流行する直前の話である。

　コロナは生活を変えた。街が、村が、再び人々の絆（きずな）で結ばれることがあるのだろうか。殺伐（さつばつ）とした風景の向こうには、あるいは新たな絆で結ばれた世界が広がっているのかも知れない。いずれにしても、我々が歴史から何を学んで来たかだ。社会の採点は、自己に甘すぎるような気がする。

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