第30話b:何も無い結婚




 王宮で王太子の盛大な結婚式が行われている頃。

 ミアの元に財産管理人が、フーリーとの王命による結婚証書を持って来た。


「結婚祝いとかないの?ねぇ、そもそもこのドレスとか、公爵夫人が買ってくれた物だったはずよね!?」

 ミアが財産管理人へと領収証を投げつける。

 バサバサと部屋中に散らばった領収証をチラリと見てから、財産管理人はミアへと視線を向けた。


「公爵家へ行く前に、しっかりとご説明いたしましたよね?ミア・アンダーソン子爵は、公爵家の養子にはなっていない。だから、必要最低限の物以外は、自分の財産を使って買うように、と」

「え?」

「まさか、聞いていなかったのですか?」

 その、まさかであった。


「前公爵夫人もその辺はキッチリしていらっしゃいます。プレゼントするとか、買って差し上げるとか言っていましたか?」

「え……?確か『よく考えて欲しい物を買いなさい』って」

「買いなさい、だったのですね?」

「でも、だって、好きな物を買いなさいって、娘に言ったらそれは買ってあげるって事でしょ!」


「貴女は公爵家の庇護下に入るだけで、養子では無いと、ご説明しましたよね?」

 財産管理人は、もう一度ミアに念を押す。

「で、でも、公爵家で過ごすのにドレスも宝石も必要な物でしょう?」

「一度でも公爵邸でそのドレスや宝飾品を身に着けましたか?まだ学生でしたので、夜会には参加出来なかったはずです」



 ミアは、領収証の散らばった応接室で、ただ独り、呆然と座っていた。

 フーリーは、見目を活かしてどこぞのマダムに美味しい物でも食べさせてもらっている事だろう。

 もう何日も帰って来ていない。


 前に街で見掛けた時は、ドレスを着た厚化粧の男爵未亡人と一緒だった。

 狭い庭には、フーリーの家具が野晒しで置いてある。

 もう邸内に彼の部屋は無い。


 ミアは通いのメイドとして、伯爵家で働き始めた。

 昼間は誰もいないので、子爵家に使用人は居ない。



 ミアの結婚は、新郎も祝う人もいない、とても寂しいものであった。




 終



―――――――――――――――

最後までお読みいただきありがとうございました。


アルファポリスまで読みに行ってくださった方、そちらもありがとうございました。


一応これで終わりなのですが、ざまぁになっているのでしょうか?

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