第9話 初めてのステージ
クレイとスレイが2人でせっせとホールを片付けている。
もう店じまいは済んでいるのに煌々と明かりが点いた店内でガタガタと物を動かす。
「ふぅ」
ボクはため息をつく。
いや、ため息なのか、緊張から来る吐息なのか。
オーナー2人がガタガタと店内をいじっている間、ボクはこの店での出来事を思い出す。
色々あったなぁ、クレイとスレイの喧嘩は日常茶飯事だし、お客さんとの喧嘩も多かった。
でも最後はみんな笑顔になるんだよね、不思議な人たち、不思議なお店だ。
そんなお店だからボクもずっと働けたし、何より人として成長できたと思う。
成長と言えばボクのステータスもだいぶ成長してると思う、スキルについても色々覚えた。
今はこんな感じ。
天啓スキル 5神の加護
基礎スキル 言語理解、体力底上げ、美的感覚、泥かぶり、悪食、歌い手、踊り子、働き者、転生者、お喋り上手、洗い物上手、料理上手、天真爛漫
応用スキル 拡声効果、女王の魅力、以心伝心
生活の一部みたいなスキルばかりだけどボクは自分が成長していることが嬉しかった。
本当にここで働けてよかった、生まれた王族より全然楽しい生活だ。
そんなことを考えてるとふと、ボクと対極線にいる紳士が視界に入る。
クレイの依頼でやってきたという中央都市にある劇場の支配人、ミレヴァさん。
ダークグレーのスーツに似た服に片眼鏡の紳士。
ハットを被っていたが先ほど取った際に長い耳が見えた。
前に他の種族を教えてもらったけどたぶんエルフだと思う、人間族の大陸でもエルフがいるんだ。
もしかしたらこの大陸に魔族とか妖精族もいるのかな、会えるといいな、楽しみが増えた。
「おし、こんなもんか。実際には見たことないがとにかく目立てばいいんだろう」
そうこうしてるとクレイが完了の合図をくれた。
見てみると店内の真ん中に高さ1メートル、幅が2メートルぐらいの丸い台座が置かれ、その脇には一段低い台が置かれていた。
「わぁ、すごいね」
「おぉよ、この丸いとこがセー坊が歌って踊るところだ、その横は楽器を弾く時ようかな。今日はスレイがやるんだろ?」
クレイがそう返すと。
「あぁ、ミレヴァさんに教えてもらってからずっと練習してたからな、俺が伴奏を務めるよ。」
奥からギターのような楽器を持ってきたスレイが言う。
「私も今まで楽器なんて見たことないのに、練習してくれたんだね、ありがとう」
3人でそんなことを話してるとミレヴァさんがステージの横に立った。
「立派なステージです、お世辞抜きで。店内の中心、これならどこの席からも見える。そしてステージの真上には光が射すようになっていますね」
そう言って天井を見ると確かにステージ直下でスポットライトのような照明がぶら下がっていた。
「この照明、何だか暖かいや」
「へへ、セー坊の為に特注で依頼したんだぜ」
「おい、俺が注文しに行ったんだぞ」
クレイが照れくさそうに言うとスレイが被せる。
「なんたって、セ(―坊、レネ嬢)の成人のお祝いでもあるからな」
2人が揃って伝えてきた。
「お祝い、してくれるんだね」
「俺たちにできることなんて限られてるからな」
「いつもありがとう、これからも宜しく、そして成人したから出来たら俺と、、」
クレイに続いてスレイが何か言いかけたがクレイに殴られている。
そんないつもの光景だけど2人の気持ちが伝わる。
何だか嬉しくて泣けてくる。
顔を上げながら込み上げるものを鎮めようとする。
「セレネさん、歌えそうですか?」
騒いでいる2人を横目にミレさんが声をかけてくれる。
ボクは最高の笑顔で一言を返す。
「もちろんだよ」
ボクは用意されたステージに立つ。
上を見上げて瞼を閉じる。
瞼越しにスポットライトの光を感じるとクレイとスレイの暖かい心に包まれているように感じた。
その光を浴びながらゆっくりと瞼を開けて目の前を見るとクレイが笑顔で頷いてくれた。
横を見るとスレイが笑顔で楽器の準備をしている。
そして閉店しているにも関わらず、窓越しに人が集まっているのが見えた。
何が始まるのか、何かを期待しているような眼だ。
常連のお客さんもいる、笑顔で手を振ってくれた。
私も手を振り返す。
するとクレイが後ろを向いて、人が集まっているのを見たようだ。
クレイはそのままミレヴァさんに何事か話すとミレヴァさんも笑顔で頷いた。
クレイがそのままドアを開けに行く。
ミレヴァさんも窓の方を見て、頷いていた。
うん、そうだね、ボクも聞いてもらいたい。
みんなの為に歌う。
―――――――
スキル発動
応用スキル「以心伝心」「拡声効果」、基本スキル「歌い手」が連続発動、7姉妹スキル「エレクトラ」修得、発動
―――――――
集中していたボクはその声を確かに感じ取れた。
エレクトラ、このスキルにどんな効果があるかはわからないけどきっとボクが思っているスキルだ、そう感じた。
そんな中、スレイの伴奏が始まる。
お世辞にもうまいとは言えない、でもその拙い指使いから奏でられる曲は前世でも聞いたことが無いほど、気持ちが込められている。
楽し気な、それでいて暖かな、この曲に歌を乗せられるのが嬉しい。
今、笑顔で満ちているこの空間に。
ラララー・・・
そして今までにない歌での手応え、皆にこの気持ちが伝わっている。
それがわかる。
クレイが笑っている、スレイも、お客さんたちも。
ミレヴァさんは泣いているようだ、涙が見える、でも笑顔でいてくれている。
みんなが幸せでありますように。
歌い終わると共に一筋の涙がボクの頬を濡らし、そして意識を失った。
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