第24話 クラン:AB

「硬いね」


「硬いな」


 酒場で頼んだ料理はどれも硬かった。硬いだけで味はするのだが⋯⋯アクアと比べると⋯⋯。

 だからと言って食べれない訳でもない。

 ただ、本当にちょっとした事なのだが、昔の事を思い出す。


「戦時を思い出すよ」


「言うな」


 そんな感じでもぐもぐと飯を食べていたら、遠くから大きな声が聞こえた。

 気になったので見ながら聞いてみる。


「HAHAHA! やはり我々クラン『ABアルティメットバハムート』がトップだ!」


 そんな叫びが響く。

 クランとは冒険者の集まり的なモノ。詳しくは知らない。

 入会するつもりも創るつもりも無いから。


「オラオラ! じゃんじゃん飲め! 今日は俺様の奢りだあああ!」


 迷惑な客だな。俺達以外の人も良い顔はしてないのだが、誰も止める様に言わない。

 きっとそれだけの力がそのクランにはあるのだろう。或いはあの冒険者か。


「うるさいなぁ」


「ちょ、サナ」


 ま、小声だから聞こえないか⋯⋯そんな甘い考えは通じなかった。

 俺達はまだ冒険者と言うのを詳しく知らない。

 戦う者は常に命の危険を犯している。

 いくら俺にしか聞こえない程度の小声でも、この様な閉鎖空間では僅かだが、音が反響し、それはどんなにうるさない中でも聞き分ける事が可能。

 それが上級冒険者と言うのだろう。

 叫んでいた赤星冒険者がサナの背後を取った。


「なんですか?」


「初めて見る顔だなぁ? ヒック」


 完全に酔ってらっしゃる。


「ふーん。なかなかに可愛なぁ」


「見ないでください」


 サナが冷静に対処する。


「どうだ? 俺様の女に成らないか!」


「ちょ、ガルハさん。酔すぎですよ」


「うるせぇ! 女は全員、ヒック、俺様の⋯⋯何かだぁ!」


 手を伸ばそうとしたのでその手を取る。

 サナでも問題ないと思うが、打ち上げの時⋯⋯無意識に押し倒したんだよな。

 問題行動にも成って欲しく無いので俺が止めた。

 そんな考えはサナにもお見通しなのか、「もうあんなドジしないし」的な顔をしている。


「んだァてめぇ!」


「女の子に手を出しちゃいけませんよ」


「んだぁ? 灰星風情が、赤星のぉ、英雄様の邪魔をするな!」


 手を強く引いたので手を離したら後ろに転けた。

 その光景に迷惑していた客達は嘲笑を浮かべる。

 人望が薄いのか、同じ席で酒を嗜んでいた仲間達も少しスッキリ顔をしていた。

 俺は少し男に同情した。


「調子に乗りやがってぇ!」


 顔が真っ赤で既に思考能力は限りなく低いと言って良い。


「この灰色の悪魔め!」


 悪魔と呼ばれました。


「黒髪黒目なんてぇ、悪魔しか居ないんだよォ! 悪魔は出てけぇ!」


「ガルハさんまずいですって!」


「黙れぇ! なんか言ってみろヒック! この悪魔!」


「⋯⋯」


「ちょ、サナ落ち着け!」


 サナが激しい怒りを煮えたぎらせていた。

 昔から俺が『悪魔』と呼ばれていると所に行っては喧嘩してたな。

 兄としては嬉しいが、この場では抑えた方が良い。

 魔力を認識して、魔法を使える様になった事により、その怒りは周囲に魔力を漏らしていた。

 これだと、魔力が無く、魔力が薄く精神が弱い者程先に気絶する。


 アカギから色々と話を聞いた。

『魔覇』と言う技術を。魔力を外部に威嚇する様に放出し、相手を恐怖に落とす力。

 魔力が無い者はすぐさま気を失う。

 魔力が薄く、そして精神が弱い程先に気絶する。

 自分よりも魔力が濃い相手だと効果は無いらしい。


 魔力量は魔力の総量、魔力の濃さは魔力を扱う魔法などの威力等に影響する。


「サナ、まじで落ち着け!」


「悪魔の仲間もまた悪魔! 俺様が浄化してやるぅ!」


 近くに会った酒をばら撒く。それがサナに掛かり、服に染みる。戦闘用のレザーアーマーなのでまだ良いが。

 俺の中の何かがプチン、と切れた。


「⋯⋯ッ!」


 目を見開き、自分でも制御出来ない程の怒りが魔力と成って外に放出さらる。

 結果、空気は揺れ、店の中は壁や床、天井にまでヒビが入り、殆どの人が気絶した。

 酔っていた男は酔いもあり、精神的な耐性が弱く成っており、漏らして気絶した。

 それに寄って落ち着いた俺達。


「「はは」」


 やばい。


 俺達⋯⋯では無く俺が騎士に連行され、色々と聞かれた。


「んまぁ、相手も悪い事は聞いた。君だけが加害者では無い」


「はい」


「だけどねぇ。世の中やり過ぎは良くないんだよ」


「はい」


 学校の先生かと思える程の浅い説教。だけど、今はそれがとても心に刺さった。


「それでね。罪は問われない⋯⋯罰金さえ払えばね?」


「はい」


「まず、冷凍保存等しないとダメな食料全てがダメに成った⋯⋯と言いたいが」


「ん?」


「それ以外の食料や酒もダメに成った。これは凄い事だぞ。褒められるモノじゃないが」


「はい」


「それと、店の修理費などなど⋯⋯このくらいある」


 出された値段を確認する。


「⋯⋯ッ!」


「ま、簡単には払えないだろ」


「あの。これ、身分カードです。商業ギルドから、お受け取りください。多分、足ります」


「え?」


 近くの他の人を呼び、俺の身分カードを持って商業ギルドの銀行へと向かう。その際に必要な書類に俺はサインと血判する。

 貴族様から頂いた金の六割が一夜で消えた。


 それから、罰金が払えて大事には成らずに俺は釈放された。

 外ではサナが待っており、「おつかれ」と言って来た。


「サナが怒ってなかったらあんな事には成らなかった」


「責任転嫁とは良くないですぞ」


「そうだな。それと、明日の行き場所は決まったぞ」


 兵士の話で魔力の扱い方を教えてくれる人が居るらしい。

 金は掛かる様だが、行く価値はあるだろう。


「それと、今からあそこに向かう」


「あそこは?」


「高台。今宵は満月⋯⋯そして、この鉱山の特徴として月が青く見えるらしくてな。行こうぜ」


「⋯⋯うん!」


 俺達は高台に向かう。

 高台には歯車で動く台車の様な板で上まで行ける。

 上ではそこそこの人達が居る。この国の人達は見慣れて居るのだろうが、俺達の様な旅人に取ってはとても珍しい光景だ。

 この国で月に一度見える満月の日にだけ見える青い月。


「綺麗だね」


「ああ。写真撮って貰えるみたいだし、行こ」


 三つの青い月の真ん中辺りに自分達が立っている。

 そんな背景をバックに俺達は並んで撮って貰う。

 旅の思い出の一ページが再びここで刻まれた。

 まだ俺達は来たばかりだ。もっとこの国の良さを、そしてこの旅を楽しもう。


「「⋯⋯」」


 その後、俺達は黙ってネックレスを外に吊るして眺めた。

 青い月を、何処までも遠くから輝く月を。

 俺達の道はこの月の様に輝いているのだろうか。この月の様に、いくつもの数の未来が存在しているのだろうか。


 俺達は陛下達を見つけ、戦争に付いて聞いた後、俺達はどの様な道を選択するんだろうか。


「なんか、しんみりしちゃうね」


「だな」

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