第13話 少女と前世の技術の話
カノは少女のことを考える。
比屋根家に着くまでの車内で体験したことを思い出す。
あの時、少女はなぜそうしていたのか、なぜそう見えたのか、なぜそう感じたのか。
比屋根家での話を聞いて、違和感は確かにあった、コースケから聞いた話、隆から聞いた話。
それともあの緊張感の中、流していた少女の涙がそう感じさせたのか。
カノは少女のことを深く考える。
「あの、いいでしょうか?」
今まで一言も発していなかったカノを全員が見る。
「もちろんですよ、須堂さん」
隆はカノを促す。
「さっきの女の子が犯人と言うことでしょうか?」
「そうですね、重要参考人と言う位置づけですが、犯人の可能性もしくは犯人の協力者の可能性が高いですね」
「俺は被害を受けてるぜ」
カノの質問に隆が答え、コースケはそこに付け加えた。
「私の錯覚かもしれないので、確証はないんですが」
「どんな些細なことでも、気になったことがあったら教えてください」
「今は情報を集めることが重要だからね」
隆とリュウジが後押しをしてくれた。
「わかりました」
カノは話す前に前世で最後を迎えた施設を思い出す。
何人、いや、何十人との別れを経験したか。
あの施設では能力を停止する腕輪の他に喉を媒介とする力を抑制する為、入所した全員が声帯と喉の一部を切除されていた。
声を出すことが出来ない為、同じ部屋の人たちと意思の疎通をするにはボディランゲージと読唇術だけが頼りだった。
研究棟にある施術室という名の処刑場にいつ呼ばれるかわからない、そんな死と隣り合わせの毎日、同部屋の人達との繋がりは自分が生きていると実感できる唯一の繋がりであり、生きていく支えになっていた。
だからなのか、生まれ変わっても口元を見てしまう癖があった、能力が無い世界なのがわかってからは目を見て話すという親の言いつけを守っている。
ただ、少女については見た目に反して、声が違い過ぎるのと口元の動きが一定の形を繰り返していたから気になったのだ。
なぜ気になったのかはわからない、少女と目があったから、そんな些細な理由かもしれない。
それでもあの施設の仲間たちが連れていかれるときと同じセリフを繰り返すあの子に気持ちが寄り添ったのかもしれない。
カノは立ち上がると話し出す。
「私、だけかもしれませんが、あの子の口元、ずっと「たすけて」と「ころして」を繰り返すように動いていました」
隆を含めた3人が固まる。
「いやいや、俺が殺されかけてるし」
コースケが言う。
「あれだけの術師だから、うむ、どうなのか」
リュウジは戸惑っているようだ。
「ちなみに須堂さんは読唇術をどちらで?」
隆はカノに質問する。
ただの高校生があの状況で冷静に唇の動きを読む、なんていうことは常識的に考えられない。
カノはコースケ、リュウジ、隆と全員を見て、一度、唇を強く噛む。
「私も、前世の記憶があります。そこで学びました」
カノがそれだけ言うとソファに座る。
コースケは呆然とカノを見る。
隆とリュウジはお互いに目があった。
「なるほど、話して頂き感謝です。今の須堂さんの話を聞いた上で、になりますがコースケ君を発見した際に少女と思われる存在と相対して、その存在から何かしらの繋がりが見えたのを改めてお伝えします。」
「さっきの話か、あの少女が操られている可能性がある、という」
「そうです、私自身が言葉を交わしたのは先ほどのタカダノババ駅が初めてですが比屋根さんも言っていましたけどヨドバシ市場では高尚、高次元の存在の気配というかそういったものを感じました」
「コースケに悪意を持って攻撃を仕掛けてはいるが、それを踏まえても、という感じか」
「それと対象の少女ですが・・・」
2人はカノの前世の話をあえて聞こうとはしないで話を進めている。
カノは初めて前世のことを話したということもあり、こちらはこちらで放心しているように見えた。
そんな中、コースケは立ち上がると。
「ちょっと部屋に行ってくる」
そう言って自室に戻っていった。
リュウジと隆はコースケを見送ると再度、少女の対策を模索する。
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