第10話 2度あることは何度もあるのか、って話
午後3時過ぎ、冬に突入しているこの季節だともう朱に染まりつつある空が見える。
ロビーから駐車場に出た隆は車のキーの解除ボタンを押す、すると駐車場内で止まっていたミニクーパークラブマンのライトが点滅するのと併せて洋画でよく聞く「キュッキュ」と言う音が聞こえた。
カノ一行はその隆の車で、警察病院を後にする。
コースケの退院については隆が職権でどうにかしたので車内には4人が乗りこんでいた。
「コースケ君、声はどうですか?」
「時々聴こえるって感じ、方向は変わらないかな」
隆が運転、助手席にコースケが座り、方向を指示していた。
カノとリュウジは後部座席に座っている、カノは携帯を見て何か起きてないかを調べ、リュウジは自分の鞄を漁って何かを探していた。
「最初のカブキ町のときは聴こえてからすぐに爆発が起きた、今朝は聴こえてから時間が少し経ってからだから、起きるとするとそろそろな気もする」
コースケは隆にそう説明する。
「出来たら事前に止めたいですね」
隆はアクセルを踏む足に力を込めた。
警察病院からタカダノババ駅までは県道25号線、通称ワセダ通りを直進で約20分。
病室で声を聞いてから、まもなく40分が経過しようとしていた。
タカダノババ駅が見え始めたあたりで不意に比屋根親子が声を出した。
「わっ」
「むぅ、これは」
すぐに隆はハザードを出し、道端に車をつけるとコースケに話しかける。
「違和感、変な空間に入りましたね、一瞬視界にモヤがかかりました」
「そうだ、今朝の路地のとこと一緒だ」
コースケがそういうとリュウジが補足する。
「これは広範囲の結界に近い何かですな」
カノは何も感じなかったが3人は何かを感じているらしい。
「声はもう少し先に、やっぱ駅か」
「不味いですね、人が多すぎる」
コースケと隆が話していると不意にコースケが驚く。
「叫びが!」
その声と同時に目の前にある駅のホームから閃光が一瞬見え、そのあとに爆発音が響く。
「間に合わなかったか」
隆が悔しそうにつぶやく。
目の前では駅から火の手が上がり、逃げる人と携帯のカメラ越しに駅を見る人に分かれていた。
様々の声が入り交じりつつ、現場は混乱状態になっていた。
コースケはその景色を見つつ、間に合わなかった後悔をしながらも、違和感のある空間に入ったことで朝方の路地での出来事を思い出していた。
少女が現れてからは痛みを伴う記憶だったが鮮明に顔と声を覚えている。
「生きていたのか、小僧。それにそやつもいるのか」
そんなことを考えていたコースケは気づいたら意識体となって、車の外にいた。
目の前には、姿は少女、声は老人、涙を流した顔はそのままの得体のしれない誰か、がいる。
「朝ぶりだな。もちろん生きているよ、元気すぎてドライブしてたら偶々ここに来ちまったんだ、偶然って怖いよな」
コースケはそう悪態をつくと少女の雰囲気が変わる。
「黙れ、小僧。もう貴様に用はない、このまま消えてもらうぞ」
そう言うと少女が大粒の涙を流しながら左手をコースケに向ける。
それと同時に車内にいたコースケが意識を失ったことと突然現れた気配に気づいた2人が車外に出る。
隆、リュウジは少女とコースケを意識的に捉えているようだった。
感知できないカノは遅れて車から出ると2人の後ろに回る。
「ちぃ、やはり見えているのか、それにもう一人は誰だ」
少女は目線を合わせないカノを問題視せず、こちらに集中している隆とリュウジに的を絞る。
「もう一人は俺の親父だよ」
そうコースケが答えると同時にリュウジはジャケットのポケットから左手で石を2つ取り出し、右手で印を描き、素早く呟く。
「アーティチブシ(明けの明星)、イーチ(入る)」
石が鈍く光る、すると少女の身体がその光に照らされた影のように薄く実体化するのと併せてコースケの意識体が本体に戻った。
「な、なんだこれは!」
少女は自分の身体に変化が起きたことに驚いている。
「おぉ、これはすごい、ちゃんと見えるし、声が聞こえる」
「身体にもどったー!」
隆が感動の声を出すとコースケは車内で歓喜の声を出す。
「この子が犯人なの?」
カノは薄ぼんやりと実体化した少女をじっと見る。
「俺はこいつにやられた!カノ、気をつけろよ!」
実体に戻り車内から出てきたコースケはカノの前に出る。
少女を前に、最前列に隆とリュウジが並び、その後ろにコースケ、カノの順番で少女と相対する。
周辺の駅を見ている人たちも騒がしくしているがこちらにも注意を向ける人が出始めた。
そんな中、少女は身体を震わせてこちらを見ている。
「貴様ぁ、何をした!」
つぶらな瞳から大粒の涙を流しながら怒りの声を発する少女。
「手の内を晒す訳がないさぁ」
リュウジは少女から目を離さず、再度ポケットに手を入れる。
「何もやらせん!」
少女はその行動を見て、リュウジに手を向ける。
「チノジ(囲む)、アグクミン(仲間を組む)」
手を向けられたと同時にポケットから2つの石を取り出し、リュウジは再度素早く呟く。
リュウジを中心に淡い光が少女を含めて5人を囲む、その中でリュウジたち4人の周囲の光がより濃く見える。
「な、多重結界だと!」
「周りの目も気になるからね、存在を隠させてもらった。それに何もやらせないはこっちの台詞さぁ」
「親父、何かわかんねぇけどすげぇ!」
息子からの羨望の声に対して、背中越しに左手のサムズアップのみで返すリュウジ。
「そうか、小僧に結界を張っていたのも貴様か。それにしても一体何なんだ、貴様らは」
少女はこちらに手を向けたまま、先んじて結界を張られたからなのか、先ほどの感情的な言動からは想像もできないぐらい静かに呟いた。
「それもこちらの台詞ですよ、貴方は誰で何が目的で爆破事件を起こしているのですか」
隆が答える。
「ふん、答える義理はない」
「そうですか、今の貴方なら連行できそうなので詳しく署で聞きたいですね」
そういうと隆は少女に向けて歩き始める。
「九葉さん」
リュウジは隆に声をかけた。
「比屋根さん、大丈夫です」
隆はリュウジに向けてそう言うと濃い結界から外に出る。
「実体化すると後ろの線みたいなものも見えると思ったんですがそっちは難しいみたいですね」
少女に歩を進めつつ、話しかける。
「ふん、貴様はわかっているのか」
少女は苦々しい声を出し、隆を見る。
「何がでしょうか、連行するために近づいているだけですよ」
隆は少女の目の前につくと徐に手を伸ばす。
「ちぃ、まぁいい、あと少しだからな」
そう言うと少女は姿を消した。
少女が消えた場所を呆然とカノとコースケが見ている前で、リュウジは隆に近づくと声をかける。
「九葉さん、貴方が知ってることと今回でわかったことを共有してくれんか。現状だとあんたが一番理解してるだろうから。アレは、まずい気がする。」
隆はリュウジに向けて答える。
「そうですね、こちらもわかっていることは少ないですが、もちろんですよ」
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