放たれた矢
放たれた矢
羽田はマイクロバスのエンジンをかけて、アクセルを踏む。どこ向かうのか、何をするのかも決まっていない。ただ感情に任せて大きな鉄の塊で街を蹂躙しようとしていた。一車線の道路に出ると目の前には駐車車両がいた。待つことなどもう頭にない羽田は右にハンドルを切り、対向車線に大きくはみ出しながら駐車車両を追い抜こうとした時、注意など全くしていなかった羽田を運命が嘲笑った。
「ガシャーン」
羽田の運転するマイクロバスは対向車と正面衝突した。羽田はマイクロバスから降りた。衝突した車の運転手に
「大丈夫ですか」と声をかける。すると運転手はほとんど無傷で出てきた。
「全然、怪我もありません。大丈夫ですよ。あなたこそ怪我はないですか?」と気さくに運転手が声をかける。羽田にとっては運転手の優しさがわざとらしく感じた。
きっとこいつもいい人間という皮を被っただけの傀儡人形だ。思ってもないくせに社会体裁を守るためにきれいな言葉や気遣いを並べるだけで、世の中のいい人という概念に染め上げられ本心を隠す牙の抜けた犬なのだと羽田は訝しんだ。今の羽田にとっては人の優しさすら神経を逆撫でする。羽田はたまらず運転手の左頬に強烈な殴打をした。
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