24. スカウト業務
激辛カップ焼きそばとの死闘の翌日、俺は特に体調を崩すこともなく仕事をしていた。かといって、ダメージが少なかったというわけではない。劇物と称されるほどの激辛麺は食べるのも大変だったが、そのあとの後遺症も厄介だったからだ。
食べ終えた後ヒリヒリと痛む口周りに関しては、リーラさんが魔法で治療してくれた。本当に一瞬で痛みが消えるので驚きだ。どこまでの傷を癒やせるのかは知らないが、少なくとも軽傷ならば即座に治療が終わるらしい。現代医術は治癒魔法に逆立ちしても勝てそうではないな。少なくとも傷の治療は。
とはいえ、それでも地獄は終わらない。何故なら、治療魔法では胃の中の劇物を消すことはできないからだ。詳細な説明は避けるが唐辛子の辛み成分は腸を刺激する。あと排出のときにも劇物らしさを発揮する。なかなか難儀だったとだけ言っておこう。ひょっとしたら解毒魔法を使って貰えば良かったのかもしれないな。それに気がついたのは別れた後だったので、どうにもならなかったが。
大変な目にはあったが、悪いことばかりではない。体を張った甲斐もあって、登録者も増えた。四人とも十万人の大台を超えたのが成果だ。記念配信なんかも考えないといけないな。
事務所の作業スペースには相変わらず、俺とホイミンさんしかいない。第二陣のデビューも考えているなら、少なくともそれまでに追加の人員が欲しいところだ。社長には伝えているんだが、動いているんだか動いてないんだか。
そんな愚痴をホイミンさんに漏らすと、意外な話が聞けた。
「今日の出張は新しい所属員のスカウトという話ですから、事務作業が得意な人が入ってくれるといいですね」
「え、そうなんですか?」
「そう聞いてますよ」
本日、社長と美嶋さんは出張で事務所には不在だ。美嶋さんはともかく、あの社長が社外で何をするのかと思えば、スカウトだとは。一応、ちゃんと仕事もしてるんだな。
失礼なことを考えていると、業務用のスマホが鳴った。電話だ。発信者はまさかの山本社長。
ひょっとして、どこかで聞いていたのか?
あの社長ならとんでもない地獄耳で遠く離れた場所からでも悪口を聞き取ってもおかしくはない。いやいや、そもそも声に出していないはず。きっと、偶然だろう。
動揺で少し躊躇してしまったが、仕事の連絡なら出ないわけにもいかない。できるだけ平静な態度を意識して、通話ボタンを押した。
「はい、もしもし。柿崎です」
『やあ、柿崎君。お疲れ様。ちょっと君に頼みたいことがあるんだが』
山本社長はいつもの飄々とした雰囲気ではなく、少し焦っているように感じられる。挨拶もそこそこに用件を切り出した。
『君にはスカウト業務をやってもらいたい』
「スカウト? 本日の出張はそれが目的だったと聞いていますが」
『ああ、こっちはこっちで対応しているが、それとは別件だ』
「ああ、もしかして、例の精神耐性が高い人を探すって件ですか? 俺の知り合いにそんな人はいませんよ」
社内で作業するだけならともかく、社外とのやりとりを考えれば人間の社員は増やしたいところだ。だが、インベーダーズには人ではない種族もたくさんいる。そんな職場で働くには高い精神耐性が必要らしい。とはいえ、そんな人材は極めて珍しいそうだ。俺の周りに都合よく存在するとも思えない。たぶん、静奈は該当すると思うが、そこはスルーしておこう。
『いや、そうではない。異世界からの漂流者が検知された。早急に保護が必要な状況なのだが、我の方も手が離せない。すまないが、君が対応してくれないか。詳しくはパソ君に聞いてくれ』
「え、あ、ちょっと!」
社長から告げられたのは思ったよりも厄介な案件だった。異世界からの漂流者を保護しろと言われても、正直困る。しかし、社長の方も余裕がないのだろう。こちらの返事を聞くことなく、慌ただしく電話は切られてしまった。
「緊急のお仕事ですか?」
「そうみたいです。といっても、何が何だかわからないんですけど」
とはいえ、それが仕事だと言うのなら従うほかない。今日のところは急を要する仕事はないので、雑務をホイミンさんにお願いして、ひとまずパソさんに話を聞きにいくことにした。
『ああ、柿崎さん。よく来てくれました』
技術班の部屋に入るなり、パソさんが待ち構えていたかのように、すぐに声をかけてきた。部屋の中にはリーラさんもいる。急ぎの案件のようだったので、雑談もなくすぐに本題に入った。
「異世界からの漂流者と聞きましたけど」
『ええ、そうです』
「それはリーラさんみたいな?」
ちらりとリーラさんに視線を向ける。しかし、彼女は難しい顔でかぶりを振った。
「いや、おそらく突発的な次元のひずみに巻き込まれたタイプだろう」
『観測された次元間の接続はごくわずか。しかも極めて不安定なものでした。次元渡りをする場合、渡りが終わるまで次元の接続はしっかりと確立しますので、事故だと推定されます』
なるほど。事故で状況もわからず、この世界に放りだされた人か。それは早急な保護が必要にもなる。今がどういう状況なのかはわからないが、自棄になって暴れられたりすれば、本人のためにも巻き込まれる人たちのためにもならない。
「場所はわかっているんですか?」
『ええ……。それが、デスティニーランドのようです』
デスティニーランド!?
滅茶苦茶人が多い場所じゃないか!
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